48.揺らぐ灯火
翌朝、眠れぬまま迎えた陽射しは、やけに眩しく感じられた。
昨夜あれほど泣いたはずなのに、不思議と心は少しだけ軽かった。
翔汰が「一緒に背負う」と言ってくれた。
その言葉が、胸の奥にまだ温かく残っていたからだ。
けれど、現実は待ってくれない。
玄関先で小さな鞄を手にした陽咲を見つめながら、翔汰は言葉を探していた。
「……行くのか。」
「うん。少しだけ、一人で考えたいの。」
陽咲は笑おうとしたが、その笑みはどこか脆かった。
引き止めたい衝動に駆られた。けれど翔汰は唇を噛む。強く握った拳に爪が食い込む。
「……分かった。でも、無理はするなよ。」
「ありがとう。」
そう言い残して陽咲は背を向けた。
その小さな背中が角を曲がるまで、翔汰は立ち尽くしたまま動けなかった。
その日の午後。
翔汰はバイト先からの帰り道、見覚えのあるシルエットを遠くに見つけて足を止めた。
公園のベンチに腰掛け、包帯を巻いた足を気遣うように組み替えている陽咲の姿。
――偶然、また会ってしまった。
心臓が跳ねる。声をかけるか迷う間に、陽咲の前にひとりの男性が現れた。
年上らしく見える落ち着いた雰囲気。手には資料らしき封筒を持っている。
「リハビリ施設の件、前向きに考えてみてはどうですか。」
低く穏やかな声が響く。翔汰の胸がざわついた。
――誰だ、あの人は。
陽咲は小さく頷いていた。その横顔には安堵と迷いが入り混じり、翔汰には見せたことのない表情が浮かんでいた。
気づけば、翔汰の足はその場に釘付けになっていた。
声をかけることもできず、ただ影に紛れて立ち尽くす。
胸の奥で、昨夜交わした言葉が揺らぎ始める。
「俺が全部一緒に背負う」――そう言ったはずなのに。
なのに今、陽咲は別の誰かに支えられようとしている。
帰り道、夜風に吹かれながら翔汰は拳を震わせた。
「……俺は、まだ弱いんだな。」
その悔しさが、体の奥から込み上げる。
このままでは駄目だ。
ただ想いを叫ぶだけじゃ、陽咲を守れない。
そう気づいた瞬間、翔汰の心に小さな炎が灯った。
――陽咲と生きていくために、俺は変わらなきゃいけない。




