28.交わらない想い
「……ちょっと休もうか。」
リハビリの最中、翔汰がそう声をかけた。
陽咲は苦笑いを浮かべて首を振る。
「大丈夫だよ。まだやれるから。」
痛みが走っているのは、自分でもわかっていた。
でも、その弱さを見せることがどうしても怖かった。
だから、無理にでも笑ってみせる。
翔汰は、その笑顔に釘を刺されるような気持ちで胸が痛む。
――平気なわけ、ないのに。
――本当の気持ちを教えてくれたらいいのに。
だけど、問い詰めることもできなかった。
彼女が「大丈夫」と言うのに、自分が「嘘だろ」とは言えない。
その日の帰り道。
「翔汰って、最近……なんか変わったよね。」
陽咲が、ふいにそう切り出した。
「え? そうかな。」
笑ってごまかすが、心臓が跳ねる。
図書館でこっそり医学書を調べたり、動画でリハビリ方法を見たり。
そんなこと、もちろん陽咲には言っていない。
彼女に心配されるのが嫌で、秘密にしていた。
「前よりも、なんか真面目っていうか……」
陽咲はそう言いながら、ほんの少し寂しそうに目を伏せた。
――近づきたいのに。
――どうしてか、少し遠くに感じる。
陽咲は、自分の「秘密」のせいだと思った。
翔汰は、自分の「秘密」のせいだと思った。
互いに相手を想って隠したことが、結果的に距離を作っていた。
「……陽咲、俺――」
翔汰が言いかけた瞬間、陽咲は笑顔で遮った。
「帰ろっか。今日も付き合ってくれてありがとう。」
その笑顔は、やっぱり少しだけ痛々しい。
でも翔汰は、それ以上言葉を続けられなかった。
夕焼けに染まる帰り道。
二人は並んで歩いているのに、心だけが少しずつすれ違っていた。




