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24.微かな予兆

翌週の放課後、翔汰は少しでも身体を鍛えようとリハビリセンター併設の公園を走っていた。

「情けないな……」と苦笑しながらも、一歩でも強くなりたいと足を止めない。


走り終えてベンチに腰を下ろすと、隣に置かれたリハビリ用の器具に目が留まった。

握力を鍛える小さなボール。

「……誰か置き忘れたのかな。」

そう呟いた瞬間、視線の先に見慣れた姿があった。

――陽咲。

彼女は理学療法士に付き添われ、公園の小道をゆっくり歩いていた。

片手には杖。

もう片方の手には、さっきのボールが握られている。


翔汰の胸が一気に高鳴った。

ほんの数日前の図書館での再会。

それが偶然だと思い込もうとした自分。

でも、こうしてまた彼女と同じ場所にいる。

「これって……本当に、偶然なのか?」

陽咲も、翔汰の姿に気づいていた。

心臓が強く脈打つ。

どうしてここに?

でも、驚きよりも先に胸に広がったのは、不思議な安心感だった。


療法士が気を利かせてベンチに腰を下ろしたとき、ほんの一瞬、視線がぶつかる。

翔汰が軽く会釈した。

それだけで、陽咲の頬は熱くなる。

――声を、かけてもいい?

心の奥から問いが浮かぶ。

でも喉が固まって、言葉にならない。


翔汰もまた、同じ迷いを抱えていた。

ここで声をかけたら、彼女を困らせてしまうんじゃないか。

でも、このまま沈黙を選んだら、また後悔する。

二人の間に、言葉にならない想いが揺れていた。


帰り際、陽咲は母に付き添われながら歩いていた。

不意に、背後から小さな声が届く。

「……頑張ってるんだね。」

振り返ると、少し離れた場所に翔汰が立っていた。

彼は目を逸らすように笑い、すぐに走り去っていった。

その背中を見送った陽咲の胸に、ぽたりと涙がこぼれ落ちる。

悲しいわけじゃない。

胸の奥に、温かいものが灯ったからだった。


その夜、翔汰は机に向かい、また未送信の画面を開いていた。

「今日、頑張ってたね。」

文字を打ち込んでみる。

でも、送信ボタンには指を伸ばさなかった。

一方で、陽咲は日記に綴っていた。

「偶然が二度も重なるなんて、きっと意味がある。

 怖いけど、次は……私から言葉にしたい。」

互いにまだ遠慮と迷いの中にいる。

けれど確かに、二人の心には “微かな予兆” が芽生え始めていた。

それはやがて、大きな決断へと導く光になる。

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