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11.ふたりの歩幅

陽咲がボランティアに参加したと聞いたとき、どこか安心した。

彼女が自分から「やってみたい」と言ったのは、事故のあと初めてのことだったから。


その日の夜、ベッドに腰かけて、陽咲は少し恥ずかしそうに報告してくれた。

「子どもたちがね、笑ってくれたの。

 私、緊張で声が震えちゃったのに。」

頬を赤らめて笑う姿は、前の夢を追っていた頃の彼女に重なった。

「すごいじゃん。……いや、本当にすごい。」

気づけば、言葉がこぼれていた。


――俺はどうだ?

陽咲が一歩踏み出したのに、俺はまだ立ち止まったままじゃないか。

事故の前、俺の夢はプログラマーになることだった。

でも今は、彼女のそばにいたい一心で介護やリハビリに関心を持ち始めている。

「夢を変える」ことが逃げじゃないのは分かっている。

それでも、自分が何を選びたいのか――答えはまだ見えなかった。


翌日、リハビリ室の窓越しに陽咲を見た。

絵本を抱えたまま、小さな子どもに手を振られて、嬉しそうに応える彼女。

あの姿を見て、はっきりと分かった。


――俺は、この人の歩幅に追いつきたい。

たとえ夢の形が変わってもいい。

彼女と同じように、前を向ける自分でありたい。


「なぁ、陽咲。」

帰り道、思い切って口を開いた。

「俺さ、ちょっと福祉の勉強してみようかなって思ってる。」

陽咲は一瞬驚いた顔をして、それから柔らかく笑った。

「翔汰が決めたなら、きっと大丈夫だよ。」

その笑顔に、胸のざわつきが静かに溶けていく。

まだ答えは出ていない。

でも、焦る必要はないのかもしれない。

大事なのは、ふたりで同じ方向を見ていること。


彼女が一歩を踏み出したなら、俺もまた一歩を踏み出す。

たとえ歩幅が違っても、隣に並んで進めるように。

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