12.交わる未来
「福祉の勉強してみようかな。」
昨日の翔汰の言葉が、まだ胸の奥で余韻を残している。
自分が一歩を踏み出したことで、彼まで前を向いてくれる――。
その事実が、嬉しくて、少しこそばゆい。
数日後、翔汰は図書館から分厚い参考書を抱えて帰ってきた。
「とりあえず入門書、読んでみる。」
ぶっきらぼうに言いながらも、その目は真剣で。
ソファに腰かけてページをめくる横顔を、私はしばらく眺めてしまった。
――あの日、支えてもらってばかりだった自分が、今は背中を押す側になれている。
そんな気がして、胸が熱くなる。
一方、翔汰の心にも複雑な思いが渦巻いていた。
プログラマーになる夢は、決して嫌いになったわけじゃない。
コードを書いているときの集中や達成感は、今でも忘れられない。
けれど、目の前にいる彼女の存在が、夢の優先順位を大きく変えてしまった。
「夢を変えることは、裏切りなのか?」
そんな問いが頭をよぎる。
だが、陽咲の笑顔を見るたびに、その問いは少しずつ霞んでいった。
――俺が望んでいるのは、夢を守ることじゃなく、彼女と未来を描くことなんだ。
ある日曜日、陽咲が誘ってくれた児童施設でのボランティアに、翔汰も同行することになった。
「見学っていう形なら、大丈夫だって。」
少し緊張した面持ちの彼に、私は微笑んだ。
施設に入ると、子どもたちの明るい声が響いてきた。
翔汰は最初こそ戸惑っていたけれど、気づけば子どもに囲まれていた。
一人の男の子が差し出した積み木を受け取り、一緒に塔を作る翔汰。
その表情は、夢中になってコードを書いていたときと同じだった。
「翔汰、楽しそう。」
思わずつぶやいた私の声に、彼がこちらを振り向き、照れくさそうに笑った。
帰り道、翔汰は珍しく自分の胸の内を語ってくれた。
「やっぱり俺、プログラマーっていう夢も諦めきれてないんだ。」
「でも、今日みたいに誰かの力になれることも、すごくやりがいがある気がする。」
私は黙って耳を傾けた。
迷っている彼を否定することは、絶対にしたくなかった。
「どっちを選んでも、翔汰の未来でしょ。」
そう言うと、彼は驚いたように私を見つめてから、ふっと笑った。
二人の未来は、まだ定まっていない。
でも――互いに一歩ずつ進んでいけば、きっと同じ場所で重なっていく。
夢の形は違っても、歩む道は交わる。
そう信じられる時間が、確かにここにあった。




