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それでもお前は執事じゃない!  作者: 千早 朔
第十章

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第三十八話

「私としては、功基さんが常にお側にいるというのは心より魅力的に思えますが、その手で他の者に紅茶を注ぎ笑みを浮かべ言葉を交わすのかと思うと、やはり首を縦に振る訳には」

「……おい」

「ですがあの制服を着た功基さんというのも実に魅力的に思えますし……いっそ功基さんの担当範囲も私がカバーすれば」

「おい、邦和」


 名案だ、とでも言うように閃いたような顔をする邦和に、功基は嘆息しながら静止をかける。

 いつもより饒舌な様はその揺れ動く胸中を如実に反映していて、だからこそさっきから「今んトコそんな予定はない」と何度も否定しているにも関わらず、こうしてツラツラと『打開策』を並べ立てているのだろう。


「ったく、そんなにオレを『執事』にしてーのかよ?」

「違います。功基さんが『執事』としてその身を誰かの為に捧げるなどと言い出した日には、あらゆる術を使って全力で阻止させて頂く所存です。ですがあの店の『執事』はご存知の通り、どちらかと言えば肩書が先行している節がありますし、となると共に過ごす時間が増えるという利点が非常に好ましく思えますからに」

「あー喉かっわいた! 紅茶淹れっかな!」

「すぐにご用意致します」


 このままでは堂々巡りだ。

 功基の一声に立ち上がった邦和は『宝箱』を覗き込むと、逡巡する素振りをして功基を振り返った。


「あの、功基さん」

「ん?」

「ロイヤルミルクティーはお好きでしょうか」

「へ? あーまぁ、普通に好きだけども……。作れんのか?」


 茶葉を鍋に入れ牛乳で煮出すロイヤルミルクティーは、あの店では提供していなかった筈だ。


「少々、練習致しました」


 了承をとった邦和は緊張の面持ちで台所へ消え、続いて作業を重ねる音が届いてくる。

 練習。知らなかった。邦和が自宅で過ごせる時間なんて、ほんの僅かだろうに。


(……たぶん、だけど。オレの為、だよな……)


 白髪の店主の言葉が蘇る。同時に湧き上がってきた胸奥のこそばゆさを誤魔化すように、功基は膝横に控えていた黒犬を抱きしめた。

 数分して、例の和風なお盆にティーカップを乗せ、邦和が戻ってきた。机横に膝をつき、功基の目の前にティーカップを置く。

 エメラルドグリーンのそれはウェッジウッドのプシュケ。そういえば、この家で初めて淹れてもらった時もこのカップだったな、と懐かしく思いながら、功基はふと邦和を見た。

 今なら、このカップの持つ意味を、教えてもいいかもしれない。


「どうぞ、お試しください」

「……いただきます」


 カップを手に取り、口元へ近づけると甘いカカオの香りがふわりと届いた。

 アイリッシュモルト。あの時と同じ。

 薄く息を吹いてから、コクリとひとくち。独特のほろ苦い香りが口内に広がると同時に、舌上にほのかな甘さを感じた。

 美味しい。好みの甘さだ。教えた覚えはないのに、どうして邦和はこうも自分の好みをおさえてくるのだろう。


「ホント、お前ってすげぇよな」

「お口に合いましたか?」

「ん、すげー美味い。砂糖の配分はお前の好み?」

「いえ、それは……」


 邦和が気まずそうに視線を逸らした。


(ああ、もしかして)


「……そういえば、あの喫茶店の店主に、今度はお前と一緒に来いよって言われちまった」

「っ、行かれたのですか」

「結局、なんも飲まずに帰ったけどな。……ありがとな。それと、店主が『すまん』って」

「……いえ」


 意図する内容は伝わったのだろう。諦めたような顔で首を振った邦和が、視線を落としたまま口を開いた。


「……淹れ方は、店主に教わりました」

「つっても、かなり練習しただろ。砂糖の配分だって、お前がオレの為にって散々悩んで調整してくれたんだろーし。じゃないとここまで、オレ好みの味になんねーって」

「功基さん……」


 嬉しげに顔を上げた邦和が、次いで躊躇うように瞼を伏せた。

 それから覚悟を決めたように顔を上げ、不思議に首を傾げる功基を見つめる。


「……ならば、『ご褒美』を頂けませんか」

「ご褒美?」

「はい。新たな技術を会得した、『ご褒美』を」

「いいけど……高いもんはナシな」


 邦和がこうして強請ってくるなど珍しい。というか、初めてかもしれない。

 一体何がそんなに欲しいのだろうかと逡巡しながら言葉を待つ功基に、邦和が姿勢を正した。


「キス、してもいいですか」

「は? …………はぁ!?」


 至極真面目な顔を向けてくる邦和とは対照的に、言葉を理解した功基の顔が真っ赤に染まる。


(き、すって、キスだよな!!!???)


 わかりやすく混乱する功基が頷く前に、邦和が膝を寄せ功基との距離を詰めてくる。

 反射にのけぞるも、背もたれにしていたベッドマットが邪魔をして、それ以上逃げる事は出来ない。


「っえ、ま、ちょ」


 静止をかけるように邦和の肩を押し返すも、功基を捉える瞳は熱い。


「功基さん」


 重ねられた邦和の掌の体温と、懇願するような甘い響きを落とされては、もう、駄目だった。

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