第59話 ぶっかけ逃亡海水浴
「おっとそろそろ昼めし食うか」
和樹が手元のスマートウォッチを覗くと時刻は既に一時半。
腹の虫が鳴り始めるじかんだった。
「ウチお腹ぺこぺこやぁ」
「私もです」
「よし、じゃあ俺が売店で何か買ってくる。二人は、パラソルの下で待ってろ」
和樹は財布を片手に、売店へ走った。
海の家の売店は、長蛇の列。
十分以上並び、ようやく手に入れた焼きそば三人前を抱えてパラソルに戻る。
(あ゛?)
そしてビーチパラソルの前で和樹の怒りゲージが一気に上がる。
パラソルの下に見知らぬ男たちがいたのである。
四人。
いかにもちゃらそうなマッシュヘアな奴もいれば金髪グラサンな奴もいる。
が、全員が全員、こう、雰囲気がチャラいのである。
いわゆる、ナンパ師だろうと推測できた。
「ねえねえ、君たち、外国人? めっちゃかわいいね!」
「どこから来たの? ヨーロッパ? アフリカ?」
「一緒に遊ばない? てか耳長いね? 本物? まじやべーじゃん」
カス子とエリーニュスは、ラッシュガードの前で手を握りしめながら、困った顔をしていた。
「ワタシ、ニホンゴワカラナイ」
「オーケーおーけボディランゲージとかは? あ、俺英語しゃべれるよ?」
最近日本語を覚え始めたカス子が数少ない覚えたての日本語で拒絶の決まり文句を言うものの、ナンパ師はめげずにボディーランゲージでナンパを継続する。
「てか今時ニホンゴワカラナイはネタじゃね? 絶対しゃべれるっしょ君」
そうして手をつかもうとするオールバックムキムキなナンパ師A(仮称)。
とりあえず今持っている焼きそばをぶっかけてやろうかと和樹は振りかぶる。
しかしそれよりもさきにエリーニュスがクーラーボックスから何かを取り出したかと思うと、四人に躊躇なくぶっかけた。
「「「「え?」」」」
ナンパ師四人は一瞬あっけにとられる。
そして。
「「「「お、おほぉ!?❤」」」」
同時にキモイ声を上げながら砂浜に倒れる。
「あ、あ、あ、あつい、からだが、あつい!?」
「な、なんだこれ、うあああ!」
「やばい、やばい、やばいぃぃ!」
ナンパ師たちは、悶絶しながら、砂の上を転がり回っていた。
周囲の海水浴客が、ざわつき始める。
「え、なに?」「あの人たち、どうしたの?」「熱中症?」「変なクスリじゃないよね?」
どう考えてもやばいオクスリです本当にありがとうございました。
悶絶するナンパ師を一旦無視し、和樹はエリーニュスに声をかける。
「えっと、エリーニュス……何かけたんだそれ?」
「精力ポーションと回復ポーションのミックスです」
和樹の問いに対しエリーニュスはにっこり笑いながら答えた。
「じつ精力ポーションと回復ポーションって組み合わせると死ぬまで射精するかオーガズムを繰り返すヤバイ相互作用があるんですけど」
「ちょっとまて、そんなものをぶっかけたのか!?」
イキ過ぎて死ぬようなものをぶっかけたとあっけらかんというエリーニュスに和樹は動揺する。
「あ、いえ。この世界はマナがないので……精々1時間悶絶し続けるだけかと」
「なら、いいか」
和樹は別に博愛主義者ではない。
適切にナンパ師に報復ができるのであれば特に咎めるつもりは無かった。
それはそれとして問題はもう一つ。
流石に男4人が悶絶して転がっている絵面は騒ぎになる。なった。
遠くのライフセーバーが、こちらに向かって走ってくるのが見えた。周囲の視線も、完全にこちらに集まっている。
「やばい、騒ぎになる。逃げるぞ!」
もしかしたら警察沙汰になるかもしれないと思った和樹は逃亡を決断した。
「え、パラソルはどないするん?」
「どうせ返さなくてもデポジットが帰ってこないだけだ! ほっとけ! 荷物もあとで買えばいいから放置! 行くぞ!」
とりあえず水着に着替える前に来ていたパーカーなどだけ持って三人は逃亡する。
後ろから、まだ「おほぉぉ!」という悲鳴が、断続的に聞こえてきた。
(悪は滅んだ!)
ナンパ師の惨状にざまあと言った感想を感じながら和樹は内心ほくそ笑む。
どっちかと言うとお前らの方が悪だぞ? 過剰防衛って知ってる?




