第1話 カス・ドロップアウト
佐藤和樹という青年の人となりを一言で表すと、『真面目系カス』だった。
特に人に害意は持たないが、人よりもちょっと得をしたい。
だが別に悪事を働いてまで楽に稼ぎたいわけではない。
一般的な悪事に憤ったりもする。
それはそれとして人よりもちょっと得したい。
何か人生を変えられるチャンスが降ってこないだろうか?
そんなことを夢想しながら生きるごく一般的なゆるふわ新社会人。
そんな和樹は新社会人となって初めて迎えるフルタイム労働の1か月をこなし、無事ゴールデンウィークに突入し……。
「『承知しました、ありがとうございます』っと!退職手続き完了!! これで俺は自由だー!!」
退職代行で一ヵ月前に入社したばかりの会社を退職したところだった。
……何をやっているのだろうかこのアホは。
もちろん和樹は何の理由もなく退職代行を使ったのではない。
和樹なりにきちんと理由があった。
それは『圧倒的かつ、不可逆的な労働意欲の消失』である。
……何をやってるのだろうかこのカスは。
落ち着こう。
彼、和樹にも言い分があるはずだ。
別に会社に不満があったわけではない。
都内の中堅企業の総務部配属。
毎日満員電車に揺られてこそいるが、片道40分程度で漫画アプリを見ていれば過ぎ去っていく大したことはない苦痛。
では、なぜ退職代行での退職を決行したか。
ゴールデンウィーク半ばに和樹の手元に舞い込んできたあぶく銭が、和樹から労働意欲を奪っていった。
思い出に残る初任給の使い方をしたいと初任給が入ってもいないのに初任給相当額の全額をネット申し込みで買ってみたG1レース。
単勝ナーロッパガールはオッズ53倍の激熱大穴でしたね。
初任給を全部ぶち込んだ結果、月曜日に入金された金額は軽く年収三年分。
なお手取りではなく額面年収の三年分である。
「……あ、もう無理だわ。働くのアホくさ」
それは、和樹が五月病(偽)を発病するのには十分な金額だった。
やっぱりこいつ控えめに言ってカスである。
まじめに働いて壁にぶつかったり、ハードな職場でがちの五月病にかかった新社会人の皆さんに土下座すべきではないだろうか。
そんな、就活ガチャに失敗した社会人がみたら怨嗟の声が湧か上がりそうな理由で、和樹は払戻金が入金された月曜日の朝、出社するために満員電車に乗ろうとした足で数秒迷ったのち、あっさりとドロップアウトを決意した。
満員電車からUターンし、ネットで見つけた『退職代行サービス』のチャットに連絡。
数回のチャットと電話の後、即、代金を振り込み。
そして和樹の社会人生活は終了した。
(控えめに言って、最高の気分だぜえええ!!)
目先のあぶく銭で人生を全力でぶん投げるアホの姿がそこにはあった。




