リディアの警告
「――はぁ……、はぁ……、ははは、撒けたか」
「完全に振り切れたみたい」
ここは街外れの森の入口付近。あれからアリアたちと追いかけっこをし、ようやく撒くことに成功していた。
はしゃぎながらもけっこう走ったため、さすがにユウたちも息を切らしてしまっていたという。
「まさかこの歳で小さな子どもみたいに、おいかけっこすることになるなんて……」
「楽しかったか?」
「――べ、別に……」
リディアは髪をかきあげ、気恥ずかしそうにそっぽを向く。
「そのわりにははしゃいでたような」
「ッ!? ああいうのやったことなかったから、新鮮だっただけ!」
「ははは、愉快なやつらだからな。もしリディアがオレたちのパーティに入ってくれたら、ああいったバカ騒ぎを今後いくらでも味わえると思うぞ」
「ふ、ふーん」
リディアは髪をいじりながら、興味なさそうに返事を。しかしその口調から興味津々さがにじみでていたといっていい。
「――そこにユウがいるなら……」
そして彼女はユウを意味ありげに見つめて、恐る恐る手を伸ばそうと。
「ッ!?」
しかし突然リディアは手を胸元へひっこめ、表情を凍らせる。
「どうした?」
どうやらリディアはユウの後ろのなにかを見て、驚愕した様子。なので振り返り確認するが。
(今だれかいたような? それになんだこのイヤな感じ)
しかし後方にはなにも見当たらない。しかし一瞬、木の陰に人影を見た気が。あと身の毛がよだつような、邪悪な気配を感じたという。
「ごめん、せっかく誘ってもらったけど。アタシには課せられた使命がある。それを投げだすわけにはいかない」
リディアは悲しげに目をふせながら、ユウの横を通りすぎていく。
「――リディア……」
「ユウ、勇者の力をあきらめて、今すぐこの里から逃げて。そうすれば命だけは助かるかも。アタシはアナタに生きていてほしい……」
「え?」
彼女はすれ違いざまに、ユウへ切実に告げてきた。そしてそのまま去っていく。
今度は呼び止められず、彼女の遠くなっていく後ろ姿を見ていることしかできなかった。
(逃げてってどういうことだ?)
その間にも、意味ありげな言葉について考える。
リディアの言葉を信じるなら、おそらくこの里になにかやばいことが起こるということ。あとそれを知っているということは、彼女の正体はユウたちの敵の可能性も。
「あれ? ユウくん、もしかしてフラれちゃったのかな?」
「うわっ!? フェイいたのか!?」
フェイがユウを下からのぞき込み、冗談めかしに笑いかけてくる。
「うん、空気を読んで、遠くから見守っていたんだよ。なんかいい雰囲気だったし、邪魔しちゃ悪いかもって」
「その配慮助かるよ。アリアやデューナたちときたら」
「あー、二人のことは止めたんだけどね。その様子だとちょっかいかけられたのかな?」
「いろいろ問い詰められて、逃げてきたところなんだ」
「そっか。でも二人のこと、あまり怒らないであげてね。みんなユウくんのこと大好きだから、気になってしかたがないんだよ」
「そういうものかね」
「うん、だからわたしももちろん気になってるんだよ。さすがにユウくんたちの邪魔をするのは野暮だからおとなしくしてたけど、今なら問題ないよね! さあ、根掘り葉掘りあの子との関係を聞かせてもらおうかな!」
フェイはユウの肩をがっしりつかみ、目を輝かせてくる。
「ふぇ、フェイ? やけにテンション高くないか?」
「わたし恋バナってけっこう好きだからね。とくに人の恋路はいくら聞いても飽きないよ! というわけでお姉さんに包み隠さず話してごらん!」
「お姉さんって、オレたち同い年だろ」
「わたしのほうが早生まれでしょ。さあさあ、観念して聞かせて聞かせて♪」
フェイは基本冷静でしっかりしているが、たまにこうやってスイッチが入ってテンションがおかしくなるという。
「関係っていってもな。――うまく説明できないけど、なんだかあの子のことほっとけないというか」
「気になってしかたがないってことだよね! それってやっぱり恋じゃないかな! もしかして一目惚れってやつなのかも! きゃー!」
フェイはその場でぴょんぴょんしながら、はしゃぎだす。
「盛り上がってるとこわるいが、それとはまた違う気が……、いや、今はそれよりもだ! フェイ! もしかしたら、なにかやばいことが起ころうとしてるかもしれない! みんなにも知らせにいかないと!」
「え? やばいことかな?」
ユウの突然の主張に、フェイは小首をかしげる。
リディアの別れ際の言葉。もしかするとこの里に危険が迫っているかもしれないのだ。
「少年、それ以上はだめですよ」
「なっ!?」
声の方へ振り返ると、そこには見た目30代後半ぐらいの灰色の長い髪の男が立っていた。彼は一見ものやさしい温和な男に見えるが、その内から黑く冷たいなにかがにじみ出ているのを感じずにはいられない。近づいてはいけないと、人としての本能が警報を鳴らしていた。




