07 6月12日 ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ
第八信
ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ
六月十二日
お義兄様へ。
あの後は家の中が大変バタバタとして、お手紙を書くのが遅れてしまいました。
もうわけありません。
その後、お身体の方は如何でしょうか?
赤い物も一度切りでお止まりになったと聞き、私は安堵いたしましたし、同じように心配していたお祖母様もホッと胸を撫でおろしていました。
お祖母様は自分がお義兄様を無理やり帰宅させた結果、病状が悪化されたのではないか?と、畏れていましたから。
こちらの天候は、最近は急に暑くなったり、かと思えば肌寒くなったりと不安定ですが、どうも明日からは穏やかになると使用人の一人が言っておりました。
お義兄様の方はどうでしょうか?
こちらと違い、療養所の方がしのぎやすい天候だったと思いますが、こちらからそう大きく離れているわけではありませんし、同じだったかもしれませんね。
お義兄様には言うまでもないでしょうが、天候にも注意してお身体をお大事になさってください。
家の中も何とか落ち着いてきて、私も手紙を書く余裕が出てきました。
ドナルドお義兄様が取り敢えず家に戻られた、という事で、お祖母様がささやかなパーティーを開かれました。
最初、ドナルドお義兄様は反対なさっていたのですが、最終的にはお祖母様に押し切られたようで、あまり派手にしないように、と条件を付けた上で了承してくれました。
結果としてですが、パーティーは無事に終わったと思います。
勿論、不安や心配事は山積みでしたが、何事も無事に終わってくれてよかったです。
久し振りにお花などで飾り付けられた会場はとてもとても華やかでした。
色々な人がひっきりなしに訪れては、お祝いやらお見舞いの言葉をかけていただきました。
お義兄様の言われた通り、ドナルドお義兄様のお戻りは多くの方にとっても、重大な関心事だったみたいです。
最初のお客様は五時半頃に現れました。
七時半には演奏家達が複数の馬車に分譲してやってくると音楽が奏でられました。
そして八時頃にはひっきり無しにお客様が訪れるようになったのです。
その中には私と仲の良いフランシス・ノードリーとミッシェル・バウンディも来てくれていたので、パーティーの大部分の時間は彼女らと楽しくお喋りしていました。
ドナルドお義兄様の顔には真っ黒なサングラスが掛けられており、ずっと椅子に座ったままで、そばには常にお義姉様が付き添っていて、ドナルドお義兄様にお客様の事を色々と説明したりしていました。
お客様もいろいろ察しているのか、特にドナルドお義兄様の様子を聞いたりせず、当たり障りのない挨拶だけして離れていくようでした。
結局の所、お客様は六十人程だったでしょうか?
もしドナルドお義兄様がまるっきりの健康体でお戻りになっていたら、きっと百人を超える規模になったと思います。
私は途中から暑くなってしまったので、比較的涼しいバルコニーへと避難しました。
そこからはお客様の様子を見ながら静かに音楽を聞く事が出来るのです。
私はバルコニーと会場を行ったり来たりしながら時を過ごしました。
十時過ぎぐらいから目に見えてお客様が減り始め、最後のお客様がお帰りになったのは十二時近くになってからでした。
お義兄様やお祖母様はもっと早く引き上げていて、会場では主にお義姉様がお客様の応対をしていました。
多くの殿方に囲まれていたと思います。
マーレイ様、シン様、C・ジョーンズ様、マシューズ様、ペイジ様、オールドリッジ大佐(この方はドナルドお義兄様の上官だった人みたいです)、そしてエリクソン様とワーズワース様、ボルネオ様といった方々です。
お義姉様は女性の私からみてもとてもとても美しく素敵な方ですから、殿方がお話ししたがるのも仕方のない事かもしれません。
女性ではオールドリッチ様やホプキンス様と良くお話しをしていたようです。
久し振りに聞く、プロの演奏家の音楽も大変素晴らしい物でした。
『ザ・レッドクロスナイト』や『オー・ローザ・ベッラ』、『愛の挨拶』など、私の好きだった曲も沢山演奏されました。
歌を歌われていた人は女性なのですが、有名な人だったようです。
たしか……ネリー・メルバとかいう人だったと思います。
私は知りませんでしたが、きっとお義兄様はご存知かもしれませんね。
本来なら私ももっとお客様の応対をしなければならなかったのだけれど、社交界デビュー前の女性はこういった場ではあまり表に出る事は望ましくないと聞いています。
その為、お義姉様にご負担をおかけしてしまい、本当に申し訳ないと思いました。
先程、パーティーについては問題無く終わったと書きましたが、翌日からドナルドお義兄様の体調が悪くなってしまったようです。
あのパーティからずっと、寝たり起きたりを繰り返しています。
ドナルドお義兄様のその様子をみると、あのパーティーは開くべきでは無かったのでしょうか?
でも、あのパーティーがなければきっと今でも、毎日の様にお客様が訪れてしまって、かえってドナルドお義兄様はお疲れになったかも知れない、と考えると難しいところです。
手紙の余白に書いてあった、私への神の祝福は大変嬉しかったです。
でも私には神の祝福はお兄様にこそあってほしいと思っています。
お兄様もお身体にはお気をつけください、そして一刻も早くご回復して戻って来てください。
神の祝福がありますように。
貴方の義妹、ジュディス・ガードナー。




