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06 5月20日 アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

 第七信

     アルヴァ・ガードナーよりジュディス・ガードナーへ

                        五月二十日






 義妹へ

 

 私の身体の事を心配してくれてありがとう。

 ジュディスが心配してくれたお陰か、身体の方は回復しつつあり、療養所に戻ってから赤い物は一度切りで止まりました。

 退屈と引き換えに、ここは身体にとっては良いところだと再認識したよ。

 とはいえ、まだ本調子にはほど遠いし、机に向かってこの手紙を書いていると、身体が酷く疲れたようになるのが正直な所ですが、療養所に戻って来た当初の、半ば寝たきりの状態よりもかなりマシといえる状態になりました。

 今は朝の九時から夜の九時ぐらいまではベッドに横たわる必要はなくなった。

 と、言っても長椅子などで安静にしている事が大前提なのですが……。

 もう少し回復すれば、以前のように外への散歩も医者から認められると思っています。


 初めてドナルド兄さんの様子を見た時のジュディスの驚きようは、きっと私の想像を大きく超えていたのだろうね。

 私の場合は、ジュディスからの手紙でドナルド兄さんに大変な事が起きたのを事前に覚悟していたのだけれど、それでもショックが大きかったのだから。


 あの、朗らかで優しかったドナルド兄さんは、スッカリ別人のようになっていたね。

 とはいえ、ドナルド兄さんはまだ異国の戦地から戻って来たばかりだ。

 ジュディスやヒラリー義姉さんが親身に介助すれば、また元のドナルド兄さんに戻ってくれるかもしれない。


 滞在がまる一日にも満たなかったせいか、ドナルド兄さんの胸の内を、私は推し量ることが出来なかった。

 元々、心の中の問題は、例え夫婦や親兄弟と言った身近な親族でも、なかなか全てを打ち明ける事が出来ない物だからね。

 特に私も、ジュディスもヒラリー義姉さんも、ドナルド兄さんより年下だし、兄さんの性格から言って、年下の者に心の内を全てさらけ出す、という事は考えにくいだろう。

 逆に私なんかはドナルド兄さんに相談する事が多かったぐらいだ。

 ジュディスもきっとそうだったのではないのかな?

 兄さんが心の内をさらけ出すのに一番可能性があるとすればお祖母様なのだけれど……、以前のドナルド兄さんならば、老い先短いお祖母様に頼るような事はなかったと思うけどどうなんだろうか?

 父上が生きていれば……、いや、その事は言ってもしょうがあるまい。


 とにかく私達に出来る事は、ドナルド兄さんに寄り添い、新しい信頼関係を築き上げる事ではないだろうか?

 もう治らない目の事は兎も角、心におった傷は癒すことができるのだから。


 現実的な問題としても、早くドナルド兄さんには立ち直ってもらわないと困る。

 父上亡き今、ドナルド兄さんはガードナー伯爵家を継いだ人物なのだから。

 ドナルド兄さんの動向は一族にとっては非常な関心ごとになっている事をジュディスにも理解していて欲しい。


 本当ならここで私が、ドナルド兄さんの補佐をする立場にいるのは分かっている。

 でもこの病気は治るのにとてもとても時間がかかる物だ。

 そして、治れば良い物の、治ることなく、亡くなる人も少なくない、という事を知っていてほしい。

 昨日も、療養所で親しくなった人が亡くなりました。

 名前はカトーという人で、療養所に入ったのは私より後の人でした。

 歳は三十半ばぐらいだったと聞いています。

 いつも、治って外にでたら、アレがしたいコレがしたいといっているような人だったな。

 そんな人が一たび症状が悪化すると、あっという間に亡くなってしまいました。

 最後の四十八時間は眠っている方が、起きている時間よりの長くなっていました。

 顔つきも随分と変わってやつれていましたが、今考えると、アレが噂に聞く死相という奴だったのでしょう。

 スグに病気が治る事がない、と分かってはいたのですが、こんなに早く彼を失うとは思っても見ませんでした。

 そして、さららに恐ろしかったのは、その最後の言葉だ。

 私は死の間際、彼に「何か欲しい物はあるか」と尋ねたのだけれど、その答えは私の予想とは違っていたんだ。

 ジュディス、なんて言ったと思う?

 なんと彼は「死」とだけ短く言うと、


「神よ、私にこれ以上、苦痛を与えないでください。私に最後の慈悲を与えてくださるというのなら、苦痛の無い『死』をお与えください」


 と、か細い声で言ったんだ。

 そして、その言葉から程なくして、彼は亡くなったよ。

 その時はまるで、私の未来を見ているようで、背筋が寒くなったのを覚えている。


 おっと、こんな事を書いてしまってはジュディスやお祖母様をさらに心配させてしまうかもしれない。

 お祖母様にはあまり不安にさせるような事はいわないでおいて欲しい。

 これ以上心配掛けると、ただでさえ老い先短い寿命が、縮んでしまうかもしれないからね。




 追記、ここで終わりにしようと思ったけど、余白に書いておきます。


 ジュディスに神の祝福がありますように。

 ジュディスまで病気になる事があったら、きっと家の中は火が消えた様になってしまうだろう。

 ジュディスのその明るい性格で、きっとヒラリー義姉さんや、お祖母様も助けられているのに違いないのだから。






 健康を祈って。

 貴女の義兄 アルヴァ・ガードナー。

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