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05 5月15日 ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ

 第六信

     ジュディス・ガードナーよりアルヴァ・ガードナーへ

                        五月十五日






 お義兄様へ。


 お体の調子はどうでしょうか?

 お義兄様を送り届けた使用人から聞いた話によりますと、帰りの馬車の中で、大変気分が悪そうにしていたようなので、私もお祖母様も心配していました。

 それにお兄様は誰にもおっしゃらなかったようですが、家に戻られたときも時々、咳に赤い物が混じっていたのを私は知っております。

 折角少しずつですが療養所で快方に向かっていたお体が、また悪化したのではないかと畏れていますが、もう頼れる人はお歳を召されたお祖母様を除けば、お義兄様しかおられない事をご理解ください。


 それにしても大変な事になりましたね。

 なぜ、我が家にはこんなにも不幸が続くのでしょうか?

 ドナルドお義兄様が異国の戦場より戻られた、と聞いた時はやっと我が家にも明るいニュースが訪れたと思いましたのに……。


 あの日の昼過ぎの事でした。

 私は丁度、自室にてお義兄様が以前話題に出された本をよんでおりました。

 『アーサー・フィッツアルビーニ』の事です。

 まだ全部は読み終えてないのですが、なるほど、この本はお兄様のいう通り作者の内面をそのまま反映しているのですね。

 多くの人物がこの本には登場しますが、実のところ役割を与えられているのはホンの数人なのも気になりました。

 これならば、もっと登場人物を絞った方が分かりやすくなるのに、と思いました。

 以前、お義兄様は私に作家の才が有る、と言ってくれましたが、もし私がお兄様の言われるように作家となったとしても、このような分かりづらく、物語性が薄い本は書かないようにしたいと思います。


 後、『アルフォンシーヌ』も入手しました。

 でもこちらの本は私には合わなかったらしく、それでも五十ページ程は読み進めたのですが、それが限界でした。

 きっと翻訳本なのがいけなかったのでしょうね。

 私もお義兄様のように原著を読めればまた違った感想を持ったのかもしれません。

 その代わり同時期に入手した、『アラベラの冒険』については楽しくて何度も読み返しています。

 この本の作家は女性ですが、私にも頑張ればこのような楽しく読める本を書けるのでしょうか。


 少しまた筆がそれてしまいましたね。

 その時なのです、急に家の中が騒がしくなったのは。

 使用人が大声で何かをわめきたてる事が聞こえました。

 その騒ぎに気が付いた私は、何事かとドアを開けて、聞き耳を立てました。

 その時です、ハッキリと聞こえたのです。


「ジェイミー様、大変で御座います!ドナルド様が、ドナルド様が!」


 それを聞いた私は、てっきりドナルドお兄様がお亡くなりになったのかと思いました。

 異国で亡くなり、その御連絡がきたのかと。

 でも、次の言葉で、私の考えが間違っていると判明しました。


「ジェイミー様、は、早く、早くいらしてください、ドナルド様がお戻りになられました!」


 それで私はドナルドお義兄様が異国の戦地より、お戻りになったと知ったのです。

 私は急いで、廊下へと飛び出しました。

 その時、後ろを振り返ると、お祖母様が使用人に介助されながら、廊下を歩いている姿がみえました。

 私は慌てて、お祖母様に駆け寄ると、使用人と共に介助を手伝います。

 そして介助しながら、お祖母様の顔色を伺います。

 そのお顔は何か、戸惑っているような感じでした。

 それを見て、私は違和感を覚えました。

 お義兄様のお加減が悪くなり療養所にいる現在、ドナルドお義兄様のご帰宅は手放しで喜べるはずです。

 実のところ私は、先程勘違いしたように、お亡くなりになる事も考えていました。

 私より聡明なお祖母様なら、当然、同じような考えを持っていてもおかしくないと思います。

 でも、ドナルドお義兄様は我が家に戻ってきました。

 それなのに、お祖母様のその戸惑ったような顔は何なんでしょうか?


 でも、そのお祖母様の戸惑ったような顔はホンの一瞬で、スグに何時もの顔に戻りました。

 なので、私の見間違いかもしれません。


「ドナルドがやっと帰って来たのね。それで、今はどこにいるの?」


「はい、ドナルド様は戦友の方と客間に」


「戦友の方と?ヒラリーにもちゃんと伝えたのかしら?」


「はい、ヒラリー様にも伝えるようにいってあります」


 私達は出来る限り急いで、客間へと向かいました、

 客間に入ると、軍服姿の方が二人いるのが目に入りました。

 私は、スグにでもドナルドお義兄様が私に久し振りに出会った喜びの声を掛けてくれると思いました。

 でも実際は違いました。

 二人とも押し黙ったままったのです。

 そして、その内の一人が立ち上がりました。

 ドナルドお義兄様とは違う方です。

 恐らくこの方が戦友の方なのでしょう。

 そしてお祖母様に向かって一礼すると言いました。


「あぁ、ドナルドのお祖母様でいらっしゃいますか。私はアベルと言います。本日ドナルドを介助して連れてきました」


「ドナルドは、どこか悪いのですか?」


 私もお祖母様も、先程から一言も発しないドナルドお義兄様を心配していました。

 介助人が必要って事は戦場で大きな怪我でもして、それが治りきっていないのでしょうか?

 アベルさんに尋ねるお祖母様の声は、どこか震えているように感じられました。


「……はい、ドナルドは戦傷の為、一人で歩けない状態です。……ドナルドは――」


 そう言ってアベルさんは言いにくそうに言葉を切りました。

 ドナルドお義兄様を見ると、先程から俯いた切り、言葉を一言も発しません。


「……ドナルド、どうする?自分の口からご家族に説明するかい?」


 それを聞いたドナルドお義兄様は力なく首を振りました。


「……そうか、分かったよ。ドナルドは戦傷で視力を失ってしまったのです。近くで砲弾が着弾し、その破片をマトモに浴びてしまい、その破片が目に飛び込んだのです。破片はスグさま軍医によって取り除かれ、なんとか一命は取り留めましたが、視力はどうにもなりませんでした。……今、ドナルドの両眼は義眼になっています」


 アベルさんがそう言い終えると、ドナルドお義兄様はやっとご自分の顔をあげられました。

 元々はふっくらしたそのお顔はスッカリやつれ細り、顔には深くて小さな傷跡が沢山ついていました。

 そして、私は見てしまったのです。

 その目は、その目は瞳孔がなくなり、真っ黒な色のみをたたえてしました。

 そうです、あのセメレーの絵画に描かれている女性のような目になっていたのです。

 私は、しばらくそのドナルドお義兄様の目から視線を外せなくなってしまいました。


 ねぇ、お義兄様。

 ドナルドお義兄様が戻って来た事を喜ぶべきなのか、それとも戦地で重症を負ってあのようなお姿になった事を悲しむべきなのか。

 私はどうすれば良いのでしょうか?






 貴方の義妹、ジュディス・ガードナー。

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