30 9月7日 ジュディス
私がお義兄様に手紙を出してから。まだまる一日もたっていなかった。
手紙を出したことによって、どのような影響をお義兄様に与えるか、それが今の私にとって一番気になる事だった。
しかし、朝、食堂で出会ったお義兄様の様子はいつもと変わらない――ように私には思えた。
私達は、義務的な挨拶だけ済ませると、それ以降お互いに喋ることなく食事に集中した。
そして、先に食事を澄ませたのはお義兄様だった。
お兄様は一言も私に語り掛けることなく、それどころか私に一瞥の視線すら送らずに食堂を出て行ってしまった。
私は少し悲しい思いをしながらも程なく食事を終え、同じように食堂を出ようとした。
その時でした。
誰かが食堂に近づいてくるような足音が聞こえると、食堂の扉が静かに開かれた。
その誰かとはお義兄様でした。
お義兄様は使用人に背を向けるような格好になると、無言でポケットから一通の手紙を取り出し、それを私の前に差し出しながら、一瞬、真剣な眼差しを私に向けた――ような気がした。
私は躊躇いながらもその手紙を受け取ると、お義兄様もう用は済んだとばかり食堂から出てってしまい、もう戻ってくることは無かったのでした。
この時の私の気持ちは、とてもとても文字では現せそうになかった。
「最愛の義妹 ジュディスへ――」その宛名を読み取っただけで、私は心が大きく躍動するのを感じました。
同じ家で過ごしながら、私と同じように手紙を書いてくれたのだ。
私と同じようにこの手紙の中身はきっと口に出して言えない様な事が書いてあるのに違いありません。
それは、決して私を安心させる様な内容では無いのかもしれない。
けれど、今のような心が宙に浮いているような状態が続くよりかは、どんな内容だって構いません。
例え、想像を絶するような内容が書かれていたにしても、その結果を受け入れる覚悟が私ににはありました。
チラリと使用人の様子を見ると、私には目もくれず黙々と食べ終わった食器を片すという己の職務をこなしており、私がお義兄様より手紙を受け取った事なぞ気が付いていない様子でした。
私は急いて食堂を出て自分の部屋へと急いで向かうとベッドに腰を下ろしその手紙を食い入るように読んだのです。
それはキチンとした便せんではなく、ノートの一部にかかれたページを切り取ったと思える手紙でした。
そしてそれとは別に正式な便せんも添えられていて、そこにはこう書かれていた。
「私はもうこれ以上、己の秘密をジュディスに黙っている事は出来なくなったよ。
だから今の私が打ち明けれる手段でジュディスに伝える事にする。
ジュディスの手紙は私の心を大きく揺さぶった。
私は今、その揺さぶりに耐えながらこの手紙を書いている状態だ。
今の私はもう、ジュディスが知っている私では無いのかもしれないね。
でも、ジュディス、どうか私を嫌わないでほしい。
ジュディスに嫌われたら、今の私は本当にどうにかなってしまうのだから。
ジュディスが私に対して、家族の情とは違う感情を持っている事は私にもうすうす気が付いていた。
ジュディスが我が家に引き取られたからもう十年にもなる。
それだけ長い間一緒に暮らしているんだ、私にもわかるさ。
だけど私はそれをあえて見て見ぬふりをしてきた。
一時の気の迷いだと思いたかったし、それに幼いころに身近な異性に対して恋心を抱いても、それが永遠の愛に繋がる事は少ないと知っていたからだ。
……でも、そうしてジュディスに接している内に、私も少しづつジュディスに惹かれていったようだ。
良く、男性は女性よりも思いを忘れるのが早いとか、愛が長続きしないとか聞いた事がある。
でも、私は今の今までジュディス以外にこんな気持ちになった事は無かった。
ただ、私は自分の事をある程度理解している。
私は身体も心も弱く、男性として立派とはとてもとても言えないだろう。
ジュディスにはもっと相応しい男性がいるはずだ。
そんな私自身を否定する言葉が心から次々と溢れて来る。
そればかりかジュディスも声をひそめているだけで、影では私の事を非難しているかもしれない、などと思うと心が張り裂けそうになるんだ。
でもそれとは別に、わたしの事を誰よりも分かっているのはジュディスだろうとも感じている。
そして心の奥底ではきっと私の事を信じていると思う。
アルヴァ・ガードナー
追記
私の運命が今後どうなるか、自分自身でも分からない。
それでも、ジュディスと一日でも長く一緒にいられる事を願っている」
最後まで読み終えた私は、まるで放心してように暫くはなにもする気になれませんでした。
こんな手紙を読まされては、とてもとても心のが平穏に戻らなかった。
せめて、三十分――いや、一時間はそれだけを考えて過ごしたかった。
そうしなければ心が平穏に戻るのは不可能だと思えてなりませんでした。
でも、心には不思議な幸福感が有ったのは事実でした。
私はいつまでもこの感動が続いて欲しいと願いながら、ベッドに横たわると目を閉じるのでした。




