Ⅳ「頬を染めるは 秋の夕暮れ」
◇
夕陽が西側の山の向こう側に沈み始めたからか、教室の中はオレンジ色の光で染められている。それは「運命の部活終礼時間」まで、あと少しになったってことでもある訳で……
「できることなら今すぐ逃げだしたい」
「でも、どんな返事が返ってくるんだろう」
「もしかしたら、OK貰えるかもしれない」
「でもでも、断られることだって……」
「そしたら、全部終わっちゃうのかな」
そんな気持ちで心の中は今もぐるぐる回ってる。放課後から今までの時間、カオリと一緒にいたけど、正直何を話してたかなんてちっとも覚えてないよ。
「じゃ、行くよカナ」
「わ、わかった……!」
もしかしたら、わたしのこの気持ちは、今日で終わっちゃうかもしれない。けど、もう後戻りはできそうに……ない。
それにしても、何でこんなことになっちゃったんだろう?
いや、確かに「全然きっかけがないよ~」ってこぼしたよ?
そしたらいつの間にか……ホントいつの間にか計画が進められてたんだよ。それだけみんなが心配してくれてる?のは……まぁ嬉しいケド。
でもさぁ。
誰も「今すぐきっかけがほしい!」な~んて言ってないよね⁉
しかもなんでそれがジャンプアップして、いつの間にか「告る」話になってんのよっ!?発展しすぎにもほどがあるんじゃない?絶対に半分くらいは面白がってるよね?
しかもまだわたし、今までほんのちょっとしか話したことないのに、突然告白なんかしたら変に思われるんじゃないかな?
どうしよう、なんて言えばいいのか、全然分かんない!
「ちょっと待ってココロの準備が!ココロの準備がっ!」
「いったいどんくらい時間が経ってるって思ってんのよ。ほら早く!」
もう、逃げれるんなら逃げたい………!
◆
それにしても……だ。
いつまーでもキッカケがないまま、早くも10月。結局しゃべったのって、あの時のバスの時だけなんだよなぁ。まぁそりゃ同中でもないし、今まで特に何かを一緒にしたこともないし、接点が笑っちゃうくらい何もないんだから仕方ない。ほぼ「一目惚れ」に近い状態のままだ。
それに今のこの状態を、半分は楽しんでる自分がいる。
そりゃ両想いになりたいとは思うよ?思うけど、下手に言ってしまって、もしフラれたりするんだったら、それよりはこのままでもいいかぁって。ぶっちゃけGW明けにフラれて、その後もこう……クラスの女の子とちょっとあって、今は自分の気持ちをオープンにしづらいんだよ。こんなんバレたら絶対呼び出されそうだし。
そんな訳で、今はもう少しだけこの「秘めやかな気持ち」をそのままにしときたい。そういうのも良いんじゃないか?
いや、別に逃げてないぞ?片思いは片思いで良いところもあるって話だ。なんせ結論が出てないからな!
「そーいう事なんで、一つヨロシク」
「オッケー(笑)テツの気持ちはよ~く分かってるって!」
「サンキュー。理解してくれて助かる」
「ああ。任せろ」
後になって分かった事だけど、ここで誤算が一つあった。
まさか唯一知っているコイツがカオリと結託するとは思ってなかったって事だ。
オマエ、「オッケー(笑)」ってそっちじゃねーんだよ!バカヤロー!
◇◇
下駄箱のところには、同じクラスでサッカー部のクボっちが待っていた。
「おー来た来た。んじゃ、今から呼んでくるけど……その前に一度確認とった方がいいか?もし『脈無し』だったらそのまま帰ってもらうけど」
「うん……お願い。そっちの方がいい」
「オッケー。じゃ、ちょっと待ってて」
待ってる……けど、あと何分?
わたし、それまで耐えられるかなぁ……?
不安そうな顔をしている私の手を、カオリが握ってきた。
「大丈夫だよ、きっと」
「う、うん」
ねぇ、なんで「大丈夫」とか言えるの…?
◆◆
おーし、練習終わりっ!
夕日が沈む時間が早くなってきたから、部活の上りも早くなってきたな。うちは照明滅多な事で使わないし。
それにしても、ソフト部はグラウンドで見る事、ほとんどなくなったな。あのコ……『カナ』だっけ?今頃とっくに帰ってるだろうなー。
まぁ仕方ない。
はい着換え着替え。
「おい、ちょっといいか?」
「ん?クボか。どした?」
「いや、ちょっと話があるんだけど、いいか?」
「いいけど?」
なんだよ、ここじゃできない話か?
分かった分かった。
ズボン位は履かせてくれ。
え?荷物も持ってこい?
なんだよ、一体?
◆◆◆
「ぶっちゃけ聞くけどさ」
「?」
なんだ?なんかオレ、やらかしたか?
さっきの練習中のシュートミスか?でも荷物を持ってこいってのも意味分からんし、大体呼び出しなんてしなくてもいいしな。となると……
「お前さぁ、師岡の事が好きだろ?」
……は?
ちょっと待て待て待て待てって。
そのこと知ってるのはたった一人だけだぞ?どこから?いつバレた?え?そんなにオレ分かりやすい行動してたか?とりあえずコイツに問いたださなきゃ。
「なんで知ってんだよ!?」
バレると色々メンドクサイから黙ってたのに……っておい?まさかそのニヤっとした顔……
「ふ~ん?そうかそうか。こんなアッサリ言うとはなぁ」
「ちょっ……⁉」
ハメられた⁉
うーわ自分からバラしたのか俺!
「ちょ、ちょっと待て!今のは……」
「まーまーまーまー。いいからちょっとついて来いって」
いや、ついて来いってどこ行くんだよ?
こっち下駄箱だろ?
何があるって…………
……!
マテ聞いてねーよ!
なんでカオリと「あの子」がいるんだよ!
◇◇◇
わ!来たヨ来ちゃったよ!
どーしよーどーしよー!
なんて言えばいいのもー!
…って、あれ?
でも
「ここに来た」ってことは?
え?
つまり?
……「そーいうこと」で……
いいの?
ホントに?
あーもうどんな顔したらいいの?
顔上げらんないよ
私の顔、絶対赤くなってる……!
そんな感じで固まってしまってるわたしの背中を、カオリが「とん」って笑って押してくれた。
「ほら、カナ?行きなよ」
「う、うん……!」
◆◆◆◆
これは想像していなかった……!
階段あがったらそこに例のコがいるって、誰が思う?
ついでにカオリもいるのはなんでだよ?オマエもグルかぁー!
「よっ。お疲れ様」
「お疲れ様って、カオリ、コレは……」
「嬉しいプレゼント、でしょ?この前誕生日だったじゃん」
「いや誕プレって………痛ってぇ⁉」
戸惑ってるオレの肩を「バッチーン!」と叩いて、カオリはにっこり笑って言ったんだ。
「おめでとう!」
は?
「オメデトウ」?
え?それは……えええ?
「ちょっと?流れが分からないんだけど?」
「いいからいいから。あとはごゆっくり~」
「じゃあな!おめでとう!」
なんでだよ?ろくにしゃべったことないんだぞ?ちょっと意味がわからない!
わからないけど、このままはマズイ!
と、とりあえず…!
「えーと……帰ろっか?」/// ///
「……ハイ」/// ///
あああああ俺のバカヤロー!(泣)もう少しこう気の利いたことの一つくらい言えよ!
「あ〜あ。私もカレシ、欲しくなっちゃうなぁ」
「……ありがとう、カオリ」
「どういたしまして。じゃラストサプラ~イズ!」
パンパンパンパンパンパン!
「「「おめでとー!」」」
「うわぁ⁉」
だぁぁ!みんな見てたのかよ!
んで学校でクラッカー鳴らすなうるせーよ!
嬉しいけど!
ほら恥ずかしそうにしてんじゃん!
夕日が差し込んであんまりよく顔見れないけど!
◇◇◇◇
恥ずかしかった!
嬉しかったけど!
これ夢じゃないよね?
一緒にバスに二人並んで乗って。
自転車に乗って途中まで送ってもらって。
「じゃあ、また明日」
だって。
「また明日」だよ!明日もしゃべれる約束できちゃってるんだよ!
ふふ、でもね。
ホントに何も話してないうちに始まっちゃったんだね。だってさ、わたしの「ニックネーム」をホントの名前って思ってたんだから。
「ところで、カナ……さん?」
「あ、それね、本名じゃないの。『もろおか・なつみ』で、『カ・ナ』なの」
「マジで?ごめん!オレてっきり……!」
って、すっごい謝ってたなぁ。ふふっあの顔。でもいいの。今から、いっぱい話して知ることができるんだから、ね。
あ、でも……私、ちゃんと伝えてないままだ。
◆◆◆◆◆
「……てわけで、付き合う事になったんだが」
「おー!おめでとう!ゴラッソー!」
「メッシみたいに言うな!……ったくお前、カオリにバラしたろ?」
「いや?聞かれたから答えただけだが?」
「それを世間一般では『バラス』と言うんだが?」
「ナイスアシスト俺!」
「うるせーよ」
「まぁまぁ。ところでなんて言って告ったんだ?」
……あ。
「お—い?」
「肝心な事、ちゃんと言ってなかった!」
「お前、それないわー……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とりあえず、明日こそ自分の口で伝えよう。
「キミのことが好きです」
って。




