ごきげんよう
(127)
偶然か、はたまた必然か。
似たような目標に、似たように熱く語る姿。
ベニはじっと話に耳を傾けつつも、覚えるのは胸騒ぎばかりであった。
「旦那、ちょいと聞きたいんだけどねぇ?
あたしはつい最近、なんともお花畑な夢物語を聞いたのさ。
そいつはフワフワした酔狂な奴ではあったが、馬鹿じゃーない。
そんな奴が突然、なーんの説明もなしに消えちまいやがった。
そうかと思えば、旦那の口から似たような話を聞いたもんだ。
…こりゃあ一体、どういうことなんだろうねぇ?」
依然、こちらに背を向けたままのカラスに対しベニは問いかけた。
「さぁ…?
どうも、ベニ様は何か勘違いしておいでのようですね。
私はその方を存じ上げませんし、先程語った目標も独自に思い描いたもの。
恐らく、何かしらの接点を疑っておられるのでしょうが…残念ながら、ご期待には沿えそうもありません。」
確かに、似たような話を聞いただけで接点を見出そうとしたのは乱暴ではあった。
しかし、ベニの勘がここで逃してなるものかと告げているのだ。
「そうかい、そりゃあ残念だよ。
てっきりお前さんと奴は繋がっていて、そのバックには上の奴らが噛んでると思ったんだけどねぇ。」
確証など何処にもない。在るのは数々の疑問だけ。
なぜ、イブキは天へと駆け上がっていったのか。
なぜ、アカキノを守るように天から雷鳴が轟いたのか。
そして、なぜ…カラス族内部に人工的な会合の間があったのか。
「ベニ様は想像力が豊かでいらっしゃいますね。
私にはなんの事やら、さっぱり分かりません。」
やっとこちらに向き直ったカラスは、不意にその顔を上げた。
「ただ一つ…あまりご自身を過信なさらない方が身のためです。」
その瞬間、オジイノとベニは衝撃を受けた。
「お、お主は…誰だ!?」
そのカラスは、まだあどけなさの残る若いカラスであった。
「ふふふ。…とても残念ですが、今回は引きましょう。
オジイノ殿そしてベニ様、どうかよくお考え下さい。
そして次回こそは色よいお返事…お待ちしております。」
カラスは綺麗に一礼すると、ふわりと舞い上がった。
「待ちな!何を一方的に…!
あの子は、咲はどこにやったんだい!」
カラスが舞い上がるのと同時に、ベニは火炎を吹き出した。
しかし巧みな飛行技術でひらりと躱される。
「ああ、そうでしたそうでした!
お嬢さん、そしてアカキノ殿ヨギノ殿は、しばらく私どもがお預かり致します。
しかしご安心を、用が済めば直ちにお返しいたします。」
カラスは憎たらしい程にこやかにそう告げると、不意に頭上を見上げた。
「皆様、この度はわざわざお越し頂き、誠にありがとうございました。
どうやら、タイムリミットのようです。
もう間もなくで、当屋敷は崩壊を始めます。」
さらりと告げられた事実に、2体は目を見開いて驚いた。
「本来、もうしばらく猶予があったはずなのですが…オジイノ殿にしてやられました。」
そう、風穴の開けられた部分に目をやり、カラスはクスクスと笑った。
「それでは皆様…ごきげんよう。」