探索に出発
2章です。この章から登場人物が増えていきます。
翌朝、恭一は目覚まし時計のアラームに起こされてベッドを出て、まだはっきり頭が覚醒しきっていないまま、ふらふらとした足取りでリビングへ向かった。
「おはようございます。恭一さん」
昨日の朝まで誰も居なかったはずのリビングから少女の声が聞こえてきたため、驚いて目を覚まし、リビングを見回すと、窓の近くで外を見ていたパジャマ姿のルキエナが立っていた。
「お、おはよう」
(そうだ、ルキエナを泊めてたんだっけ)
恭一は寝ぼけた状態から覚醒してその事を思い出した。
窓から射し込む朝日に照らされて艶やかにきらめく金色の髪の毛と紫水晶のような美しい瞳にしばらく見とれてしまう。
「恭一さん?どうかしましたか?」
ルキエナの声にハッと恭一は我に返る。
「いや、まだ寝ぼけてるみたいだ。顔洗ってくる。」
「そうですか。わかりました」
まだ抜けきっていない眠気をとばし、火照った頬を冷ますため、恭一は洗面所で顔を洗う。
冷たい水で完全に目を覚まして、リビングに戻ってくると空腹感が襲ってくる。
「じゃあ、朝飯つくるか」
両手を組んで上体を反らして伸びをしながら呟く。
「そういえば昨日は夕飯食べてたけど、そもそも神様って食事するのか?」
昨日のルキエナの様子を思い出し、恭一が質問する。
「いえ、食べなくても何の問題もありません。逆に食べても問題ないというか、いわゆる嗜好品といった感じですかね。貴方たち人間で言えばお菓子にあたる扱いです。ただそれでも滅多に食べませんね。お供えしてもらった物を一口食べるくらいですかね」
それを聞いた恭一は、誰もいなくなった神殿でこっそりお供え物をつまみ食いしているルキエナの姿を想像してクスリと笑ってしまう。
「え?どこかおかしかったですか?」
ルキエナが恭一に不思議そうな顔で尋ねる。
「いや、なんでもない。それで? どうする? ルキエナも一緒に食べるか?」
「いいんですか? それでしたら是非!」
「はいはい、ちょっと待っててくれ。出来上がったら呼ぶから」
「はい! 楽しみに待ってます!」
無邪気に喜ぶルキエナを微笑ましく思いながら、キッチンに入った。
食パンをトースターにいれてスイッチを押す。
コンロにフライパンをおいて火にかけ、その間に冷蔵庫から卵とソーセージを取り出し、フライパンが温まってきたのを確認してから油をしく。
フライパンに卵を落として目玉焼きを作りながら、余白の部分でソーセージに焦げ目を入れ、出来上がったら皿に盛ると、冷蔵庫からレタスとミニトマトを取り出し、水洗いして飾りつけた。
焼きあがったトーストをトースターから取って、皿に入れて食卓に置いた後、
「出来たぞ」
とルキエナを呼ぶと、ソファでくつろいでいたルキエナが嬉しそうに立ち上がって食卓にやってくる。
それを和やかな気持ちで見つめると、二人分のコップにオレンジジュースを注いだ。
「「いただきます」」
二つの声が同時に重なり、恭一とルキエナは食べ始めた。
「フフ、おいしいです」
「そっか、よかった。まああんまり手のかかったものでもないんだけど」
恭一が照れながら言う。
「そうだ、昨日ルキエナの服を洗濯しちゃったけど、神様の服って洗濯しても大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。でも神力を使えていれば、本当は洗濯する必要はないんです。神力で浄化できますから。そもそも加護がかかっているから汚れる事がないはずなんですよ」
「へえ、便利なんだな。さすが女神様」
そんな話をしているとルキエナの着ているパジャマの胸ポケットが光りだす。
ルキエナが胸ポケットからキューブを取り出すとテーブルに置いて右手をかざした。
キューブの光にウアルフェの姿が投影される。
「おお、なんじゃ、美味そうなもの食べとるな」
ウアルフェが興味深そうに食卓を見回す。
「よう、昨日振りだな。朝っぱらから何か用か?」
「うむ、地球の神との交渉に進展があってな。それを伝えにきた」
「本当ですか!?」
ルキエナが興奮気味に身を乗り出す。
「うむ、まず恭一。お主が正式にルキエナの加護の対象として認められたぞ。これでお主はルキエナ神に仕える神官扱いとなる」
「うーん、なんか頼りないけど放っておけない女神様だしな」
恭一がニヤニヤしながらルキエナを見て軽口を叩く。
「恭一さんヒドイです……」
ルキエナがヘコんだ。
「冗談だってば」
恭一がルキエナを慰めるのを見ながら、ウアルフェが咳払いをする。
「オッホン、話を戻すぞ。それからルキエナと恭一を対象として神力を行使する場合、制限が解除されるようになったぞ。」
「ああ、それじゃあ元の服に戻っても大丈夫ですね。着替えてきます」
そう言うとルキエナは食卓から出て行った。
廊下から青白い光が漏れ出し、それがおさまると公園で出会った時の服を着たルキエナが今まで着ていたパジャマを抱えて戻ってきた。
「パジャマ、ありがとうございました」
「ああ、そこに置いておいて」
なんとなく脱ぎたてのパジャマを受け取るのが照れくさかった恭一はルキエナから顔を背けてそう言った。
「なんじゃ、似合っておったんじゃがな」
ウアルフェがルキエナをからかう。
「もう! ルキエナ様!」
ルキエナが顔を赤らめて怒り出す。
「フフフ、照れおって。まあ良い、続きを話そう。宝玉の力をこちらの管理神も非常に危険だと判断してな。優先的に協力してくれるらしいぞ。何かあればワシの方からアヤツに言えば、できる限り便宜を図ってくれるそうじゃ、但し、こちら側の人間が宝玉を拾っていた場合、危害を加えて強引に奪ったりするのはダメらしいが。まあワシらも神として、そのような事するつもりもないがな」
「そうですか!そういうことなら以前よりもかなり回収の条件が良くなりましたね」
ルキエナがやる気を漲らせる。
「うむ、そうじゃな。さて、ワシはもう少しこちらの管理神と協議を進めねばならん。イーゼリアの管理もあるしの。一旦交信をきるぞ。何かあれば呼ぶがよい。条件が良くなったからといって油断せぬようにな。無茶は禁物じゃ。それでは」
ウアルフェとの交信が切れた。
「……少し冷めちまったけど食事の続きにするか」
「そうですね」
恭一とルキエナは残りの朝食を食べた。
朝食を食べ終えた後、恭一達は宝玉回収の方針を話し合った。
「外も明るくなったしもう一度公園に行ってみないか?」
「そうですね。そこから宝玉の気配を私が探ってみます」
もう一度公園を調査することになった。
しかし恭一達が公園に向かおうと玄関と出た途端、
「ああ、キョー」
「げっ」
家の前で見晴に出くわした。
「おはよう二人共。いい天気ね。二人揃ってお出かけなんてデートか何か?」
見晴が笑顔で話しかけてくるが目が笑っていない。
「いや、ルキエナが出かけるっていうからえきまで送っていくんだ」
「ふーん……」
見晴が疑わしそうに恭一達を観察している。
「あっルキエナ、カバン忘れてるから取りに行こう!」
「え? は、はい」
見晴の眼光に耐えられず二人は一度家に引き返す。
「うーわなんだアイツ、家の前で張り込んでるみたいだ。刑事かっての!」
「こ、怖いですね」
「どうするよ、このまま二人でで出て行ったら、見晴に付け回されるぞ」
「そうですね……それじゃ私は姿を消しておきますよ。」
「そんな事出来るのか?」
「はい。私自身を対象とした神力の制限が解除されてますから姿を消せます。恭一さんだけが私の声と姿を認識できるようにしますから」
「なるほど、それならいけそうだな」
今度はルキエナだけ姿を消して外に出る。
外にはまだ見晴が居た。思ったとおり監視していたようだ。
「あれ? さっきの……ルキエナさんだっけ? あの子は?」
「ああなんかやっぱり親御さんと家にいることにしたらしい。俺が代わりに一人で買い物に行くことになった」
「ふーん……」
見晴は納得いかない表情で首を傾げながら帰っていった。
「はあ……やっと公園にいけるな……」
「そ、そうですね」
見晴の監視網を突破して一息つくと二人は公園に向かった。
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