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宝玉が残した言葉

四章に入ります。それではご覧下さいませ。

 「ふう、やっと宝玉を回収できたな」


 恭一は、その場に座り込んで達成感のこもった声をもらした。


 「ついにやりましたね恭一さん」


 ルキエナが恭一に近寄ってしみじみと言った。


 「気力を奪われた人達ってどうなるんだ?」


 恭一が疑問を口にする。


 「宝玉の力から解放されておるから、しばらくすれば気力を取り戻すじゃろう。おのしがハリセンで叩いて気を失わせた者たちも数時間のうちに目を覚ます」


 「そっか、よかった」


 ウアルフェの答えを聞いて恭一は安心した。


 「まあ気力がなかなか回復しない者も出るじゃろうが、場合によってはこちら側の管理神に頼んで回復してもらおう。元はといえばワシらの不手際じゃしのう」


 「そうか、そうしてくれると助かる」


 ウアルフェと会話しているとルキエナが恭一の服の袖を少し引っ張った。


 「どうした? ルキエナ」


 恭一がルキエナの方に顔をむけると、彼女が一点に目を向ける。

 恭一がルキエナの視線の先を追うと、風香のへたりこんでいる姿があった。


 「私は……なんてことを」


 風香は呆然とした顔で両手を見つめて体を震わせる。

 恭一とルキエナはうなずき合うと、風香の方にそっと近づいていった。


 

 「私の……私のせいでお父様が……」


 風香のこころに自責の念が押し寄せる。


 「それに……学校のみんなだって勝手に操ったりして」


 舞台の下で倒れ込んでいる大勢の生徒達に目を向ける。

 何でこんなことをしてしまったんだろう。

 何で宝玉の力に頼ってしまっだろう。

 自己嫌悪する気持ちと絶望感が風香の中に広がっていく。


 「涼原さん……」


 頭の上から声がして、風香が顔を上げると、恭一が立っている。

 恭一が風香のそばに腰を落として話しかける。


 「涼原さんは宝玉に利用されていたんだ。宝玉の力に頼ってしまったのは涼原さんのせいかもしれない。でも宝玉がそうするように仕向けたんだと思う」


 「神楽屋君……」 


 風香の頬に涙がつたう。


 「まあ、俺も操られていたあいてとはいえ、パンパン叩いて倒しまくっちゃってさ」


 恭一が舞台の下の惨状を見ながら頭を掻いた。


 「神楽屋君にもひどい態度をとってしまったわ。私の為を思って宝玉を手放すように言ってくれたのに……」


 「いや、まあ、少し傷ついたのは確かだけど」


 恭一が苦笑して答える。


 「ごめんなさい。どうしても宝玉を失いたくなかったの。あれを持っていると心が安らいだし、見つめていると元気になるような気がして……」


 「きっと宝玉が奪ってた気力を涼原さんに分けてたんだよ。涼原さんが宝玉を手放せなくなるように。生徒会の他の三人が体調崩したのに涼原さんが休まなかったのもそれが原因だと思う」


 「もしかして奈月達が休んだのは?」


 「ああ……宝玉に少しずつ気力を奪われていたからだろうね」


 「そう……あれも宝玉のせいだったのね……私が宝玉を肌身離さず持っていたから……」

 

 風香は顔をうつむかせて泣き続けた。

 

 「だいたいウアルフェの見立て通りだったみたいだな。宝玉が涼原さんに気力を分け与えてたなんて」


 恭一は泣いている風香をやりきれない気持ちで見つめた。


 「風香さんのお父様、大丈夫でしょうか」


 ルキエナが風香を心配そうに見つめて言う。

 恭一も風香の父親のことを思い出し、風香に声をかける。


 「涼原さん、お父さん、病院に運ばれたんだろう?連絡して迎えに来てもらうか、タクシーを呼ぶかした方がいいんじゃないか?」


 「えっ……でも」


 風香は顔をあげて涙で濡れた目で、倒れている生徒達を見る。


 「この人達はもうじき目を覚ましますから大丈夫です。ここは私達に任せてお父様の所へ行ってあげてください」


 ルキエナが風香に優しい声で言い聞かせた。


 「ありがとう、わかったわ」


 風香は涙をハンカチで拭うと、ケータイを取り出して掛けようとした。

 突然ケータイの着信音が鳴り響く。

 風香のケータイの画面に「黒田 着信」と文字が出ているのを見て、慌てて風香が電話に出る。


 「もしもし、風香です」


 その様子を恭一とルキエナが固唾を飲んで見守る。


 『お嬢様、黒田でございます。旦那様のご容態ですが生死をさまよっている状態でして、今しがた緊急手術が始まったところなのですが、執刀医の話では助かる見込みは半々くらいだそうで手術時間も長時間に及ぶだろうとのことです。お嬢様は高校にいらっしゃるかと存じますが、すぐに迎えの者を送りますので至急こちらにお越し下さい』


 「!?」


 風香が目を見開く。


 「聞こえたか?」


 「ええ」


 すぐそばで黙って見守っていた恭一達にも通話の内容が耳に入り、小声で確認し合う。


 「そう……わかったわ」


 風香は放心状態で電話を切った。

 電話を持つ手をだらりと下ろしてケータイを取り落とし、床に視線を落とす。


 「どうしよう……」


 風香が声を震わせる。


 「どうしよう! 私のせいでお父様がしんでしまう! お父様が!」


 風香が声をあげて泣き崩れる。

 どうにか泣き止ませようと風香に近づいた恭一にルキエナが、


 「恭一さん……宝玉が最後に言っていた言葉を憶えていますか?」


 と真剣な表情で尋ねる。

 恭一は宝玉の言葉を思い出しハッとする。


 「ククク、マアイイ、ドウセ風香トイウ娘ハ抜ケ殻トナル」


 「まさか!」


 恭一は立ち上がって険しい表情でルキエナを見る。


 「風香さんのお父様は宝玉に気力を奪われていますから」


 ルキエナが不安げな面持ちで答えた。


 「まずいのう、生きようとする気力も奪われておるじゃろうし、宝玉を閉じ込めたとはいえ、そうすぐ気力が回復するわけではない。このままだと助からぬぞ。宝玉の言っていたのはこの事か?」


 ウアルフェが腹立たしげな声でルキエナに同意する。


 「このままにはしておけまい。ルキエナ、恭一、お主らも風香殿の父君の元へ向かうのじゃ。風香殿の父君の気力を回復させるぞ」


 「わかりました、ウアルフェ様」


 ルキエナがウアルフェの指示を承諾していると、恭一がふと浮かんだ疑問を口にした。


 「なあ、ルキエナの力で直接、涼原さんのお父さんを治す事ってできないのか?」


 「さすがにこちらの世界の人間の生き死ににまでワシらが関わることはできん。そばにおるこちら側の管理神もそれは許可できないと言うておるな。ただ宝玉に奪われた気力を回復させるのは許可するそうじゃ」


 「そうか、さすがにそんなにうまくはいかないか」


 「じゃがお主らが行って、気力を回復してやらねばまず助からん。その後のことは医者の腕と父君の体力次第じゃな」


 「そっか、それなら行かないとな」


 「はい!」


 恭一はルキエナの目を見てうなずくと、泣き崩れている風香の体を軽く揺すって声をかける。


 「涼原さん、泣き止んで、このままここで泣いていたってどうにもならないだろう?」


 風香は頭を左右に振って泣き続ける。


 「君のお父さんが助かるか助からないかの話なんだ。ちゃんと聞いて欲しい」


 恭一の言葉にピクっと反応して泣き止むと、風香はゆっくりと起き上がって泣きはらした顔を見せた。


 「どういうこと……ですの?」


 赤く充血した目で恭一の顔を上目遣いに風香が尋ねた。


 「このままだと宝玉に気力を奪われた君のお父さんは生き抜く気力がなくて手術に耐えられらないらしいんだ」


 「そんな……」

 

 風香の顔が再び泣き顔になる。


 「話はまだ終わってない。このままだと助からないから俺達もタクシーで涼原を追いかけて病院に行って、君のお父さんに気力を送って手術に耐えられるようにするから。涼英総合病院だったよな?」


 恭一は風香の肩に手を置いて、彼女の目を見つめながら、落ち着かせるようにゆっくりと言い聞かせる。


 「ええ、その病院で間違いありませんわ」


 風香が少し落ち着きを取り戻して答える。


 「宝天市で一番大きな病院だな。そこならタクシーでも迷わずに着けそうだ」


 「涼原グループで経営しているので……」


 「ああ、なるほど。そこなら涼原グループ現総帥だったら優先的に処置してくれそうだ」


 「あの、本当に気力を送るなんてことできるんですの?」


 風香が恭一に恐る恐る尋ねる。


 「ああ、俺は宝玉の光に耐えられただろう?俺には女神様の加護があってさ。で、こっちの女の子、ルキエナは何を隠そう正真正銘、女神なんだ」


 恭一がそばにいたルキエナの体を引き寄せて風香に紹介した。


 「ルキエナです。よろしくお願いします」


 ルキエナが風香におじぎした。


 「ルキエナさん……女神様……あっ」


 風香はルキエナを見つめながら何かを思い出して目を見開かせた。


 「そういえば、宝玉が女神が性懲りもなく追ってきたとかなんとか言ってましたわ。それに突然姿を現しましたし」


 風香はルキエナの姿をぼんやりと見ていたが、ハッとした顔をして、ルキエナの足元に跪き、両手を組んで祈り始めた。


 「お願いです! ルキエナ様! どうかお父様をお助けください!」


 風香はルキエナに縋るような目を向けた。


 「風香さんのお父様の気力を回復することはお任せ下さい。ただし、それ以上の事は私の力が及ぶところではないので、確実に貴方のお父様が助かるという保証はできません。それでも構いませんか?」


 ルキエナは風香の目を見て静かに問いかける。


 「はい、少しでもお父様が助かる見込みがあるのなら、お願い致します」


 風香はルキエナに懇願した。


 「わかりました。私も病院に行きますから」


 ルキエナは優しく微笑みながら答えた。その微笑みはまさに女神らしいものであり、後光が射しているように見えた。


 「本当にありがとうございます」


 ルキエナの微笑む顔を見て風香は思わずひれ伏した。


 「す、涼原さん、とにかく校門に行っておいたら? 迎えが来るんだろ? 俺らタクシー呼んで追いかけるからさ」


 ひれ伏している風香に焦りながら、恭一が提案する。


 「そうですわね」


 恭一の言葉をうけて風香が立ち上がると、風香のケータイの着信音が鳴った。


 「お、迎えが来たんじゃないのか?」


 恭一が床に落ちている風香のケータイを彼女に手渡した。

 風香はケータイを拾って画面を見る。『奈月 着信』という文字が出ている。


 「奈月からみたいですね」


 風香は不思議に思いながらも電話に出た。


 「もしもし、奈月?」


 「やあ……風香。悪いんだけど君が私の代わりに生徒会長になってくれないか?」


 「奈月? どうしたのよいきなり」


 「なんか、君と自分の事を比較して惨めな気持ちになるのも飽きてしまってね。これから死のうと思う」


 その言葉を最後に通話が切れた。

お読みいただきありがとうございます。

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