神具を携え舞い戻る
体育館に到着した恭一達は風香の姿を探した。
風香は舞台の上に立って、恭一たちを見下ろしている。
「フフフ、よく戻って来れたわね」
風香が余裕の笑みを浮かべてそう口にする。
「それじゃあ歓迎してあげましょう」
その声と共に体育館にいた生徒達が一斉に動き出す。
恭一が動き出した生徒達にハリセンを構える。
脱出した時の倍ほど人数に増えており、しかも生徒達に混じって体育教師の姿が見える。
「これは手ごわいかもしれないな」
恭一は気を引き締めてハリセンを握りしめた。
「それじゃみんな、やっちゃって」
風香の声と共に操られた生徒が一斉に恭一達に襲いかかってきた。
「ウオオオオオ」
雄叫びとともに恭一が突撃する。
「フフフ、無駄なあがきよ」
風香は舞台の上から恭一達が戦う姿を嘲笑しながら観戦していた。
予想に反して善戦しているようで恭一達はなかなか倒れない。
「まあ、それも時間の問題でしょう」
そう言って余裕の表情で見続ける。
しかし、時間がたつにつれ、風香の顔から余裕がなくなっていき、焦りの色が見えてきた。
恭一がパーンという高らかな音を鳴らしながら、襲い来る生徒達の頭をハリセンで叩き次々と倒していく。
「そんな……どうして?」
風香が動揺した声を発する。
「アノ男ガ持ッテイルノハ神具ダロウ、アレデ叩カレタ者ハ、神力ヲ身ニ受ケテコチラガ操ルコトガデキナクナッテイル」
「そんなことって!」
風香がうろたえて後ずさる。
そうしている間に恭一が最後の一人を倒して舞台の上に上がってきた
「さあ、涼原さん、観念してもらうぞ」
「こっちに来ないで!」
「涼原さん、頼むからその宝玉をこちらに渡してくれ」
「いや! いやよ!!」
恭一が近づくと風香が宝玉を抱えて後ずさる。
「これは私のものよ! 絶対に渡さない!」
「そうか、それじゃあ仕方ない。力ずくで奪うしかないな」
恭一はハリセンを構えて風香に近づく。
「涼原さんが気を失ってる間に宝玉をもらうことにするよ。大丈夫、痛くないから」
恭一は優しく声をかけながら風香に向けてハリセンを振り上げた。
「ククク、ソレデイイノカ?我ヲ回収スルトコノ娘モ無事デハスマヌゾ?」
「どういうことだ!?」
恭一が宝玉に鋭く叫ぶ。
「我トコノ娘ノ魂ハ繋ッテイル。コノママ我ヲ回収ソレバ、コノ娘モ道連レヨ。後ニ残ルノハコノ娘ノ抜ケ殻ダ」
宝玉からクククと忍び笑いが聞こえる。
ルキエナが目を閉じて風香に向けて手をかざす。
「確かに風香さんの魂と宝玉の間に経路ができて繋がっているようです。このまま回収すると風香さんの魂まで奪うことになってしまいます」
ルキエナが目を開け、悔しげな声で状況を伝えた。
「そんな、それじゃどうすれば?」
恭一は焦りの表情でルキエナに尋ねる。
「宝玉を手放すように説得して、風香さんが宝玉の事を心から『必要ない』思わせることができれば、経路は切れます」
「ここまできて結局説得か。まあ家を出るときはそのつもりだったしな。やってみるか」
恭一は風香の目を正面から見つめて説得を試みた。
「涼原さん、その宝玉は本当に危険なんだ。そもそも他人の気力を奪ったり思い通りに操ったりするなんんて普通じゃないってわかるだろう?」
「いやよ! この宝玉の力を使ったらお父様もお母様も『好きにしていいっ』て言ってくれた! 生徒会のみんなも『私に頼らない』って言ってくれた! この宝玉があれば私は自由になれる! この宝玉があれば誰も私に『涼原さんならできて当然』って言わない!」
「そうか、みんなの期待に応えようとしすぎてプレッシャーに押しつぶされそうになってたんだな。でも宝玉の力を使ったからって本当にそれが解決するのか?宝玉で気力を奪って、考える気力すら無くした相手に都合のいいこと言わせたって本質的には何も変わらないんじゃないのか?」
「それは……」
恭一に言われて風香は自分の行動を振り返って気づく。
気力を奪った相手に自分の都合のいい事を言わせて浮かれていただけだった事に。
それがいつの間にか学校中の人達の気力を奪って操っている。
こんなことに何の意味があるのか。
「風香さん、貴方はその宝玉を使っているつもりかもしれませんが、経路を通じて貴方の判断力を鈍らせて、宝玉が貴方を利用しようしてるんですよ」
ルキエナも風香の説得に加わった。
「私は……」
風香が戸惑いの視線を宝玉に向けたその時、突然ケータイの着信音が鳴り響く。
風香はポケットからケータイを取り出すと通話ボタンを押した。
「もしもし、風香です」
『お嬢様! 執事の黒田でございます! 実は旦那様が交通事故に遭われて涼英総合病院に運ばれたそうです! 今しがた連絡があったばあかりでくわしいことはわかりませんが、何でも旦那様の飛び出しが原因だとか――』
電話の向こう側の執事はいきなりのことで動転しているのか声が大きくて、通話の内容が恭一達にも漏れ聞こえていた。
「飛び出しか、まあ気力を奪われて周りをロクに見ずに歩けばそうなるよな。俺たちが学校に来る時もそんな女生徒がいて、助けてたから遅れたわけだし」
「!?」
通話の内容を聞いて思わず口にした恭一の言葉に、風香はハッとして目を見開いて宝玉を見る。
『詳細がわかりましたらこちらから連絡致しますので』
その言葉と共に通話を終え、宝玉を見つめたままケータイをポケットにしまう。
「私が気力を奪ったからお父様が?」
震えた声を上げ、宝玉から遠ざかろうとした。
「ムッ経路ガ切レル、風香ヨ、我ニ身ヲ委ネルノダ」
宝玉が強く光る。
しかし風香はうつむいて首を小さく振って宝玉を見ようともしない。
「私がこんな力に頼ったせいで……」
風香はその場にへたりこむ。
「経路が切れたぞ! チャンスじゃ恭一! 一気に宝玉の力を抑えて回収してしまうぞ! そのハリセンで宝玉を叩け!」
「了解!」
ウアルフェに言われるまま恭一は風香のそばに浮かんでいた宝玉をハリセンでかっ飛ばす。
パシーーーン
弾き飛ばされた宝玉が壁に当たって床に転がる。
「よし! ルキエナ! 徹底的に宝玉の力を封じるぞ!!」
「はい!」
ルキエナが宝玉に右手をかざして光を当てる。
「クッ、オノレーー!!」
宝玉の翠色の光が徐々に弱まっていき、一度強く光ると、
「ククク、マアイイ、ドウセ風香トイウ娘ハ抜ケ殻トナル」
という言葉を残して光が完全に消えた。
「そんなことはさせません!」
「うむ! その通りじゃ!」
キューブが強く光り、光が照射された先に宝石箱が出現する。
「ワシとこちら側の神との共同作業で造った箱じゃ! その中に宝玉を入れてフタをすれば宝玉の力を完全に防げる!」
「よし!入れるぞ!」
恭一は宝石箱の中に宝玉を入れて蓋をした。
「よし! 箱はこちらで回収しておく」
ウアルフェの言葉と共にキューブから出る光を浴びて、宝石箱が消えていく。
ついに恭一達は宝玉を回収した。
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