No.94:力尽きたエース
『1番、ライト、鬼頭くん。』
『さあ3点勝ち越して尚ツーアウトランナー三塁で1番の鬼頭を迎えます!!』
渡辺(敬遠って選択肢もあるぞ。)
小木曽(俺が敬遠嫌いなの知ってるくせにいちいち話題に出すな。)
渡辺(悪い悪い。)
小木曽(っていっても…。)
(コイツだけは今の俺じゃ抑えられる自信が全くねえ…。)
鬼頭(今日俺は6の4。相手バッテリーも警戒している。敬遠気味になるかもしれん。だから基本外か低めのボールで勝負してくるはず。)
鬼頭が小木曽をチラッと見る。
小木曽(もう延長14回、ツーアウト。抑えても打たれてもコイツと今日対戦することはこれが最後だろう。コイツに4本も今日打たれてて、最後に敬遠で逃げるなんて絶対にやりたくねえ…。コイツを抑えなきゃ勝っても負けても腹の虫がおさまんねえ…!!)
鬼頭(はいはい。勝負ね。)
鬼頭は天性の洞察力で小木曽の心理を完璧に読み取った。
鬼頭(俺も5本目打って試合を決めたいところだね。)
『さあ小木曽がセットポジションから投げる!!』
ズバーーーーーッッッッッーッン!!
《 141km/h 》
『初球は高めに浮いてしまってボール!!!!明らかにボールとわかる球!!やはり小木曽は疲れてきたか!!』
鬼頭(141km/h?そんなんじゃない…。球速も明らかに10km/h程落ちてきたが球の勢い…球威が10km/h差以上に落ちている…。下手すりゃこりゃ上社西の朴昌圭よりも遅いんじゃねえか…?)
ビュウッ!!
ククッ!!
バーン!
『ストライク!!!!!』
鬼頭(置きにきたカーブで苦し紛れにストライクを取りにきたか…。この程度の直球なんか簡単に打ち返せるし、もうスライダーでストライクを取ってくるコントロールもない。スライダーだったら見逃せばボール。または甘くなったら強打する。チェンジアップだったら直球との緩急が小さくなってきているから対応するのも簡単だ。カーブをもう1球って可能性は無いだろう。なぜなら2球続けてこの俺からカーブでストライクを取れる精度があったらとっくに序盤から多投するはずだからな。もう敬遠するしか猪子石が失点を防ぐ方法はないぞ。)
小木曽(負けたくねえ…。世代No.1ピッチャーを目指す俺が地方大会のバッターになんか絶対打たれたくねえ…。もう10失点してても…ここで食い止められなきゃ、みんなに申し訳がたたねえ!!)
渡辺(スライダー以外じゃ絶対に対応される!!頼む決まってくれ!!!!!!)
ビュウッ!!!!!!
カクッ!!!!!!
小木曽(嘘だろ…。)
渡辺(曲がりが早い!!だが運良くボール球だ!!)
鬼頭(バッテリーも驚きの曲がりの早さ。ただボール球だ。見逃してくれると思ってるんでしょ?)
『ごめん渡辺くん。おれ、そんなお人好しじゃないからさ。』
渡辺(コ…イツ…。)
(ボール球を強引に…!!)
カッキイィィーーーッッッーーッン!!!!!!!!!
『インコース低めの完全なボール球を強引に引っ張った!!!!!!!!!!!!!!!飛距離は十分だがこれはファール!!!!!!!!!!!』
渡辺(あの打ち方で…どんな飛距離してんだ…コイツ…。)
『大ファールだ!!しかしカウントは1ボール2ストライク!!!追い込んだ!!!!』
渡辺(追い込んだとはいえ…もうヤスの球じゃ無理だ…。限界なんてとうに超えている…もう…)
小木曽(立ってるだけでこんなにしんどいんだな…。ここまで来ると…。相変わらず暑いし…10時プレイボールだったよな…。もう1時50分か…。もう4時間も試合やってたんだな…。すっげぇ短い…。そんでどんどん暑くなってる…。)
バン!
『ボール!!!これはチェンジアップか!?しかし完全に浮いてしまって全く効果なし!!!!』
渡辺(もう変化球は使い物にならねえ…。もう…打たれるしか…。)
渡辺がマウンド上の小木曽を見る。
ぼーっ…
小木曽(ダメだ…。)
渡辺(ったく…。)
『タイム、お願いします。』
『タイム!!』
『さあキャッチャーの渡辺がマウンドに行きます。』
渡辺『なにぼーっとしてんだ?ここはマウンドだぜ?』
小木曽『わりぃ…。』
渡辺『…。』
小木曽『なあ…カズ『『敬遠、したいのか?』』
小木曽『え…。』
渡辺『もう1回言う。敬遠したいか?』
小木曽『…。ああ…。俺は鬼頭に…負けるイメージしかない…。打たれることしか想像できねえ…だから…』
渡辺『それが…お前の答えか…?』
小木曽『…。あ…。ああ…。俺の勝手なわがままですまねえ…。ただ…勝負に負けても…試合には絶対勝ちてえ…。絶対に甲子園いきてえ!だからさ…慶野で勝負させてくれ…。』
渡辺『…。……。あぁ。わかった。』
芝田『なーに言ってんの?ヤス。』
根本『敬遠なんか今まで1度もやったことないくせに。』
小木曽『お前ら…いつの間に…。』
笠井『ここで3回目の守備のタイムか…。正直延長15回に取っておきたかったが…ここが使い時って判断したんだな。あいつら。』
坂本成『別にヤスがそうしたいなら俺らは従うよ。だけどさ。敬遠なんてヤスらしくないよ。』
日根野谷『やられっぱなしで野手達も悔しいんですよ。』
芝田『もし打たれても俺がすぐリリーフしてやるからよ。』
根本『なんなら俺だって準備しとくぜ?』
日根野谷『僕も準備万端です。』
坂本成『お前はチビだから無理だろ!』
日根野谷『チビもチビなりに一生懸命生きてるんですからね!!可能性は否定しないでくださいよ!!』
渡辺『はいはい!黙れお前ら!!』
小木曽『わかったよ。やるだけやってみる。』
根本『そうこなくっちゃ!!』
芝田『決定~!!』
小木曽『バックに迷惑かけると思う。』
日根野谷『オッケーですよ。』
根本『こーみえて俺ら無失策試合続いてるからな!!』
芝田『信じていいぜ!!』
小木曽『ありがとう。』
渡辺『しゃあ!じゃああれいくぞ!』
『『『 PUSH OUR LIMIT!!俺たちの限界に、挑戦!!!!!!!!! 』』』
渡辺『さあいくぞみんな!!!!!!』
根本『猪子石魂見せつけてやろうぜ!!!!!!!!!!!!』
『『『 しゃあああああああ!!!!!!!!!』』』
鬼頭(さあ来い!!小木曽泰大!!!!!!)
渡辺(俺のミットにぶちこんでこい!!!!)
『小木曽がセットポジションから!!!!!!勝負の1球!!!!!!!投げる!!!!!!!!!!!!!』
鬼頭『ど真ん中直球!!!!!!!!!捉えた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
カッキイィィーーーッッッーーッン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
小木曽『そーゆーことか…。』
渡辺『やっぱ、限界だったか…。』
『打球は場外に消えた!!!!!!!!!!!!!!1番鬼頭の、2点をさらに追加する、右中間、場外への大ホームラン!!!!!!!!!!!!!』
『『『鬼頭!!!!!!!!』』』
『『『かっこよすぎるぞ!!!!!!!』』』
『『『最高だ!!!!!!!』』』
『ダイヤモンドを一周して今鬼頭がホームイン!!!!!!!12-7!!!!!!!!!9番島谷倫暁の3点タイムリースリーベースのあとの1番鬼頭、特大の場外ホームランで2点をさらに追加し延長14回表、邦南高校一挙5点!!!!!!!!!!!!!!!!』
小木曽『実力の、差だな。』
《 139km/h 》
渡辺『よく頑張ったよ。ヤス。』
芝田『あとは任せろ。』
小木曽『ごめん…。みんな…。』
渡辺『泣くのは勝ってからだ。邦南がヤスから5点取れたんだ。俺らだって大場から5点くらい取れるさ。』
芝田『ヤスの投げたボール、絶対忘れねえから。』
渡辺『ああ。ヤス球を受けた、14イニング、241球は絶対無駄にしねえから!!!!!』
小木曽『ホント、頼りねえエースですまねえ…。大…あとは、頼んだ…。』
『猪子石高校、シートの変更をお知らせします。』
守備位置の変更↓↓
小木曽→長澤:1→4
芝田:5→1
根本:4→5
大場『小木曽、下げるんですね。』
鬼頭『ああ。もう野手としてプレーする体力すら残ってねえんだろう。』
『ストライク!!!バッターアウト!!!!チェンジ!!!!!』
《 147km/h 》
『2番慶野は空振りの三振で14回表は終了。ただし邦南高校一挙5点を上げました。』
大場『2番手で147km/hか。選手層厚いね。』
鬼頭『とにかく5点差だ。焦らず一つずつアウトとっていくぞ。』
大場『わかってますよ。任せてください。』
『延長14回の裏、猪子石高校の攻撃は、4番、キャッチャー、渡辺くん。』
『プレイ!』




