No.93:島谷倫暁、涼太、兄弟の絆
『さあ夏の甲子園予選、夏の高校野球愛知県大会準決勝第一試合、猪子石高校 対 邦南高校の試合は現在延長14回の表、邦南高校二死満塁で9番の島谷倫暁がバッターボックスに入ります!!!!』
『『『耀く光に未来が聳える!!!!!!!見上げる大空、希望を胸に!!!!!!!あーあー!!!!!羽ばたこう!!!!!!!!!!大海へ!!!!!!!!!!!!誉れ高き、若人よ!!!!!!!!!自らの行方をいざゆかん!!!!!!!!!!!!!!我が邦南高校!!!!!!!!!!!!!!』』』
『さあ邦南高校側一塁側のスタンドでは校歌の大合唱!!!!!!!!!ここで打てるか!?!?9番の島谷倫暁!!!!!!!!!もしここで打てば勝ち越し!!!!!!そして今大会打席数こそ少ないものの打率7割超の1番鬼頭に巡ります!!!!!!!!!!!』
島谷涼『兄貴、打てないけど、守備より打撃の方が好きらしいですよ。』
木村『あいつ。入学当初は守備も打撃も俺より悪かったんだぜ。特に守備は超絶下手だった。ホントどこも守れるポジションなかった…。3年夏の地方大会でアイツが不動のショートやってるなんて到底考えられなかったくらいに。』
島谷涼『兄貴、あんま打てないじゃないですか?』
木村『ああ。俺みたいにな。』
島谷涼『でも兄貴。高校入ってから一度も夜に素振りすることを怠らなかったんですよ。僕、毎日見てました。家のベランダから…。その時の兄貴がスゲェカッコよく見えて、野球って楽しいんだろうなって思って僕、高校から野球始めました。』
ズバァーーッッッーッン!!!!!!
《 142km/h 》
『ボール!!!!!!!!!!』
『やはり球威と制球が乱れてきたか!?猪子石のエース小木曽にとってはここがこの試合の正念場だ!!!!!!!!!!』
島谷涼『1回、聞いてみたことあるんです。』
木村『…?』
島谷涼『なんでそんなにバット振るの?それってそんな楽しい?って…。』
ズバァーーッッッーッン!!!!!!!
《 147km/h 》
『2球目はアウトコースの直球にバット振り遅れて空振り!!!!!!!ただここにきてまだ147km/hを叩き出します!!!!!!!!最後の力を振り絞ってきた!!!!!!!!!!!これでカウントは1ストライク1ボール!!!!!!!!』
島谷涼『その時、兄貴が言ったんです。』
ズバァーーッッッーッン!!!!!!
『外のスライダーにバットが回ってしまった!!!これで2ストライク1ボール!!!!!!!!ピッチャー有利のカウントになった!!!!!!!!!!!!!』
島谷涼『だって俺、打てないもん。バット振ることしか考えられねえ。って。』
木村『…。…!!』
島谷涼『やっぱそーゆー気持ちをずっともって今まで野球やって来たんだと思います。お世辞にも兄貴は打撃がいいとは言えない…。でも兄貴なりに毎日家の中庭で雨の日も雷の日も。雪の日も風の日も…。ずっとバットを振ってきた…。こーゆー場面で打てるのなんて、そーゆー事を続けてきた人の特権みたいな感じじゃないですか?だから兄貴、打ってくれますよ。僕、兄貴を信じてます。』
木村『ああ。トモアキなら打ってくれる。』
渡辺(ヤス、しんどいかもしれない。だけどここでこの球行くぞ!!気合いいれろよ!!)
小木曽(インハイ直球!!力と力のぶつかり合いって訳だろ!!!!)
島谷倫(学校のみんなが…みんなが応援してくれてる。なのになんでこんな緊張もせず打てそうな気持ちなんだろう…。こんな場面で打てるなんてほんの一握りの人間だけ。俺は打てなくて毎日欠かさずバット振ってきた…。でもその背景には、こーゆーほんの一握りの人間になりたい…。なってやる。って気持ちがあった。)
『『『今が、その、ほんの一握りになれる最後のチャンス!!!!!!!!!!!!!!!』』』
渡辺(来い!!!!!!!!ヤス!!!!!!!!!!!)
小木曽(おうよ!!!!!!カズキ!!!!!!!!!!!!!)
ビュウウウッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
島谷涼『兄貴!!!!!!!打てぇーっ!!!!!!!!!!!!!!』
カアァッッッッッッキィィィーーーーーーッッッッン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
『大きーーーい!!!!!!!!!!!!!!打球は前進守備のセンターの頭の上!!!!!!!!!!!!これは悠々のセンターオーバー!!!!!!!!!!まず三塁ランナーの西口がホームイン!!!!!!!!!!!!!!続いて二塁ランナー松坂がホームイン!!!!!!!!!三人目も一気に還ってきた!!!!!!!!!!!!!!!!!』
『『邦南勝ち越し!!!!!!!!!!!!!!!!延長14回、ツーアウトフルベースから9番の伏兵、島谷倫暁のセンターオーバーの走者一還3点タイムリースリーベース!!!!!!!!!!!!!!!!!!これで一気に10-7としてきた!!!!!!!!!!!!!猪子石のエース小木曽はなんとまさかまさかの10失点!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』
島谷涼『か…かっけーっ!!!!!!!!!!!!!兄貴!!!!!!!!カッコよすぎるよ!!!!!!!!!!!!!』
島谷倫『今まで俺のやってきたこと…間違ってなかった…。』