No.65:ハイレベル対決
(なんか今日の試合時間経つのはえーな…。)
翔真(こんなスゲーやつらと、欲を言えばまだまだ対戦していたい気分だ。だけどそうもいかない。本気で勝ちにいくぞ。)
鬼頭(1回戦からおまえみたいなやつとやりあうことになるなんてな…。今度こそ全力で打ちにいく…。)
(ふー。)
両者が呼吸を整える。
0-0だが両者の置かれている状況は大きく違う。
翔真のいる照丘小は1回戦敗退も当然な弱小校。
しかし一方の南阪小は最強のメンツが揃った超強豪。しかもゲーム開始直後から今まで大場翔真に11人連続奪三振を喫している。まだ3イニングほど残っているとはいえ、メンタルのあまりできていない小学生である、南阪小の選手は若干焦りを感じていた。
そして初球…
翔真が振りかぶる。
ビュッ!!
ゴウッ!!
鬼頭(どりゃっ!)
カーン!!
『ファールボール!!』
上村(さっき空振り三振したときとほぼ同じスピードだが今度は当ててきたか。さすが南阪の3番バッターだ。)
鬼頭『ちっ…。』
2球目…
ビュウッ!!
鬼頭(くっ…。)
カスン!
『ファール!』
鬼頭(くそ…。コースもど真ん中…。完璧なタイミングで打っているはずなのにどうしても差し込まれる…。)
翔真(やっぱスゲーやつらだ…。こんなに速い球放ってもついてきやがる。このままストレートを投げ続けても三振は奪えそうにない。だったらさ、)
(三振なんか奪いにいかなきゃいいんだよ。どうせ奪えないんだったらさ。)
鬼頭はピッチャーである翔真を睨み続けている。天性の洞察力を持っている鬼頭は翔真の見えない心の変化を感じとった。
鬼頭(なにか変わったぞ…。確実に…。まさかとは思うが…ここから…更に…)
翔真(三振なんか狙わずに…楽に、力抜いて…)
『指先!!!!!!!!!』
ビュウッッッッッ!
鬼頭(なにぃ!?!?!?!?)
上村(うぎゃあ!)
ドバーーーーーーーッッッーーッン!!!!!!!ガツーンッッッッ!!!!!!!
鬼頭『…!?…は??』
上村(ぐは…。な、何が起きた…)
上村が前を向くと、ボールが翔真の元へ転がっていた。
そして翔真がそれを拾うと一塁へ送球。
アウトが宣告された。
これでスリーアウトチェンジ。
しかしバッターランナーの鬼頭は走っていない。
鬼頭(な…な…なんなんだ!?今の1球…。目で追えなかっただと!?)
上村は何が起きたのかわからなかったが、自分の胸の辺りが猛烈に痛いのに気がついた。
ベンチに帰ると、翔真が寄ってきた。
『先輩、ちゃんと構えたところに投げたんだから捕ってくださいよ。』
上村はそのとき翔真の言っていることの意味がわからなかったが、自分のはめていたキャッチャーミットを見た瞬間、全てを理解した。
(キャッチャーミットを貫通した!?!?)
(いや、そうに違いない。じゃなきゃ紐が切れるはずがないじゃないか…。そして貫通したボールが俺の胸に直撃して跳ね返って翔真の元へ転がっていったのか…。そういうことか…。だけど…俺の新品のキャッチャーミットを壊す球威と球速なんて…。)
そのころベンチに帰った鬼頭は笑っていた。
(まさか、この試合中に更に進化するなんてね…。)
そのときの鬼頭の表情は、試合の先の事を考えている顔だった。
ゲームセット!!!!!!!
結局試合は南阪小が勝った。
スコアは
南阪| 000 000 1 |1
照丘| 000 000 0 |0
最終7回に疲れが出てきた翔真のボールをやっと南阪打線が捉え始め、最後の最後にエラーが出てしまった照丘が負けた。
しかし翔真は7イニングを投げ、最終回以外はすべてのアウトを三振で取り、20奪三振、被安打2、無四球のピッチングだった。
南阪小はその後地区大会を圧倒的な強さで圧勝していき、全国制覇をする。
この照丘戦以外はすべての試合で5点以上の得点を記録した。
大会が終わり、とりあえず引退した鬼頭は、ある日翔真の家を訪ねた。