No.298:決戦前日
ザーーーー!!!
ザーーーー!!!
【今日の夏の甲子園決勝戦、啓稜学院 対 邦南の試合は雨のため中止が決定されました。明日の午後1時、プレイボールとなります。】
片野『というわけで今から今日は調整に入る!!疲れがたまってるはずだ!!適度に体を休めるのも練習の1つだ!!巨家と動美の指導のもと、明日に向けて体を整えるぞ!!』
『『はい!!!』』
片野『小宮、大場、鬼頭、来い。』
『『『はいっ!』』』
片野『昨日も言ったように決勝戦の先発は大場、おまえでいく。準備に抜りはないな?』
大場『当然ですよ。エースの座は渡さないですよ。』
片野『本人は強がっているが実際何があるかわからん。ふたを開けてみれば大乱調、なんてこともあるかもしれん。だから小宮、鬼頭もいつでも登板はあると思っていろ。』
小宮『はい!』
鬼頭『はい!』
大場『決勝戦の先発だぜぇぇぇ!!!!』
小宮『うらやましー!』
鬼頭『…。』
大場『テンション上がるぅぅぅ!!フナッシー!!』
鬼頭『ハハハ!』
小宮『いいなー!いいなー!打たれたらすぐ代わってくださいね!すぐリリーフするんで!』
大場『青汁プシャーーー!!!』
鬼頭『…。』
小宮『なんでそんな憂鬱な顔してるんですか?』
鬼頭『…!…憂鬱?んなわけねえだろ。俺も明日先発したかったな!』
小宮『ですよねー!翔真先輩せこい!博行先輩だって投げたがってますよ!』
大場『ぐはははは!』
鬼頭『ま、翔真が完封してくれるのを俺は願うよ。』
小宮『悔しいけどそれですね!だから先発がよかった!!』
鬼頭『だな。』
…
巨家『おい!次!島谷の兄貴の方来い!』
島谷倫『はいっ!』
小宮『博行先輩、今日は投げないんですか?』
鬼頭『ん?あ、あぁ。ちょっと肩張ってるからさ…。』
小宮『まあそうですよね。甲子園では2回戦から連投ですからね。動美さんいま空いてるんで診てもらったらどうですか?』
鬼頭『せやな。あとで診てもらうわ。』
小宮『今は?』
鬼頭『今は…ちょっと他にやりたいことあっからさ。』
(肩なんか張ってねえよ…。ってな。)
ズバァァァーーッンッ!!!
西口『よし!今日はこれで終わるぞ!!明日に影響出るとダメだからな!!』
小宮『了解。最後に軽く立ち投げだけしていい?』
西口『ちょっとだけやぞ。』
大場『西口。次俺の球受けてな。』
西口『はい。小宮があとちょっとで終わるんでそのあとなら。』
大場『りょーかい。』
…
西口『翔真先輩!良いですよ!』
大場『おーっす。』
小宮『なにボーッとしてるんですか?』
鬼頭『ん?あ、あぁ。昔のこと考えながら黄昏てただけだよ。』
小宮『今日は投げないんですか?』
鬼頭『うん。ってかさっき言ったやろ。』
小宮『キャッチボールも?』
鬼頭『うん。』
小宮『肩張ってる割には、動美さんのとこにも行かないですし、どうしたんですか?』
鬼頭『別に、どーってことねえって。なぜそう聞きたがる?』
小宮『ちょっと向こうの部屋いきましょ。博行先輩。』
鬼頭『なんで?』
小宮『いや、飲み物欲しいんで。あっちの部屋に自販機あったんで。』
鬼頭『はいよ。』
ズバァァァーーッンッ!!!
西口『ナイボールです!!こりゃ啓稜もキリキリ舞いにできますね!』
大場『ぐはははは!!!!ぐはははは!!!』
ガチャン…
小宮『先、入ってください。』
鬼頭『んだよ。なんか様子が変だぞ?』
ガチャン!
鬼頭『この部屋暑いな。』
ズバァァァーーッンッ!!!
『ナイボール!!』
鬼頭『翔真の球の勢いはいいな。ドア閉めてもこの部屋にミットの音が聞こえてくる。』
『とぼけないでくださいよ。』
鬼頭『は?』
小宮『どーしてそーやって隠すんですか?』
鬼頭『…。なにを?』
『『とぼけないでください!!!!!』』
鬼頭『…。』
小宮『そんなに…チームメートが信用できませんか?』
鬼頭『…。おまえ…いつから悟った?』
小宮『ついさっきです。三人で喋ってたときに。なんとなく。』
鬼頭『お前らに言ったところで…なんかメリットがあんのか?』
小宮『メリットうんぬんの前に…チームメートだからこそ…知る必要があると思います。』
鬼頭『お前の言い分もわかる。確かに俺は今肘が痛い。猛烈に痛い。だけどそれをみんなが知ったら…迷惑じゃんかよ…。』
小宮『それはただの綺麗事です。信用してくださいよ。』
『信用…してるからこそ…だよ…。』
小宮『…?』
鬼頭『信用してるから…お前らのこと大好きだから…裏切れねえんだ…。お前らの期待、をな…。』
小宮『…。』
鬼頭『この事は監督にはもちろん…誰にも言わないでくれ…。そもそも最初から分かってたんだ。こーなることは…。』
小宮『…?』
鬼頭『俺の右肘はもう…二度と治らない。』
小宮『え…』
鬼頭『決してよくなることはないんだ…。』
小宮『でもまだ…』
鬼頭『まだ、なんだ?何が言いたい?』
小宮(こんな怖い博行先輩…初めて見た…。)
鬼頭『止めたところで無駄だぜ?俺はいつでも監督に指名されればいく。』
小宮(言わなきゃ…。)
鬼頭『絶対に誰にも言うな。頼む…!』
鬼頭が小宮に頭を下げる。
小宮(ダメって…言わなきゃ…!)
鬼頭『俺の人生や…。頼む…!』
小宮(この人を止められるのは…僕しかいない…!!)
鬼頭『勝ちたいんだ!!絶対に!!』
小宮『…。』
鬼頭『勝ってみんなと笑顔で終わりたい!!どのみち俺の肘はなおんねえ!!だから最後くらい…最高の喜びをみんなで…』
小宮(止めないと…。言わないと…。ダメだ、って…。)
鬼頭『勝ちたいんだ!!!!!』
小宮『わかりました。誰にも言いません。』
鬼頭『…哲都…!』
小宮『練習、戻りましょ。』
鬼頭『お、おう。せやな。』
(これで…良かったんだよね。)
(これで…本当に…。)
(神様がそこにいるなら…どうか…。)