No.283:意地か、それとも哲学か…
カキィーーッン!!
《打ったがこれも打球に力がない!レフトの桑原がガッチリ捕ってスリーアウト!!!延長11回の裏も邦南高校、ランナー出すことができません。》
野中『試合がやはり、動かないな。』
川越『青馬もドラ1確実投手だけあって無難に3人で、それも投手戦に備えて省エネモードにまた切り替えて球数を抑えてる。一方大場は対照的に延長10回のリリーフから今6者連続奪三振。』
野中『流れが…どちらにも無いことは確かだな…。』
川越『よくやってるぜ…邦南ナインも…。北頼相手にこの試合だからな…。』
北頼|000 100 100 00 |2
邦南|000 002 000 00 |2
『延長12回の表、北頼高校の攻撃は、1番、サード、氏神くん。』
氏神(俺は今日5の0。リードオフマンを任せれてる以上、これ以上無様な格好はできないぜ…。)
《さあ初球!!!》
ビュゴォォウゥッッッーーッッ!!!!
スッ…
松坂『そんなことあると思ってたぜ!!』
《セーフティバントを仕掛けてきた!!!》
コン!!
西口『な!?』
《これは絶妙!!しかしサード松坂のダッシュもいいが!?》
松坂『出すもんかよ!!!』
《一塁へ送球!!!》
松坂『はっ!』
氷室『マジか!!!』
《あーっとこれはファースト氷室の頭の上!!!悪送球だ!!!バッターランナー氏神は二塁へ!!!!》
西口(ノーアウト二塁…。打席には2番…。)
《ワンヒット、ワンエラーでノーアウト二塁!!北頼高校、願ってもないチャンス!!》
『2番、セカンド、伊藤くん。』
西口(次は…風岡蓮太郎…。バントで来るのか…はたして…。)
吉峰(バントで一死三塁にしたところで風岡は歩かされる可能性が高い。それでもまだ青馬がいるから期待はできる。ただ青馬も先程の対戦で大場にお手上げ状態じゃった…。)
《この場面なんとしても1点が欲しい北頼としてセオリーは送りバントで三塁に進めることだが!?さあどう攻めてくるか!?》
吉峰(伊藤は右打者だが右打ちも上手い。ましてや速球派の大場が相手。左打者で引っ張れとはちと酷じゃ。その面で運は味方じゃ。)
伊藤(ここが勝負所ってことですか。嬉しいねぇ。)
吉峰(進塁打なんていらないぞ。お前が一本決めてくるのじゃ。)
《さあ初球!!!》
ビュゴォォウゥッッッーーッッ!!!!
西口(まずは外のボール球で様子見…。って、まずい!!)
大場(あかん!ストライクになっちまう!!)
伊藤(外角直球!!やや甘め!!)
カキィィィーーーッッンッッ!!!!
西口(まずい!!やられた!!)
《コースに逆らわずライト方向へ強打!!!!!!!!》
氷室『うぉぉぉ!!!!!』
バシィィッッッッッ!!!!!
伊藤『くそが!!!』
《アウトだぁぁ!!!ファースト氷室、ダイビングキャッチ!!!伊藤の打球は痛烈でしたが氷室のファインプレーでファーストライナー!!!ワンナウト二塁!!》
『3番、センター、風岡くん。』
風岡『あの時の借りはまだ返し終わってないぞ。大場翔真。』
“今こそ、返す時。”
西口(氷室に助けられたとはいえまだワンナウトで得点圏にランナー。そんで打席に風岡…。スキを見せればやられる…。次の制球ミスは文字通り命取りですよ…。翔真先輩…。)
風岡(大場の場合ストレートとフォークの2球種に絞ればいい。)
青馬(キャプテン打ってくれ~。正直俺大場を打つのは自信ねえよ…。)
風岡『お前はまだ…鉛か純金か判断してなかったな。』
西口(…?)
風岡(純金だといいがな。)
ビュゴォォウゥッッッーーッッ!!!!
スッッットォオォーーーッッーンッッ!!!
ブンッッッッ!!!
《初球はフォーク!!!空振りを奪ってきました!!!》
鳴島破『あれ?なんか今日キャプテン空振り多くね?』
鳴島剣『調子悪いんじゃね?』
鳴島破『いや、調子は悪くないだろ。バカか。あのホームラン忘れたか。このクソ餓鬼。』
鳴島剣『お前は一言二言多いんだようんこヤロー!!!』
赤嶋『すげぇな…邦南は…。普通1試合にこう何度もキャプテンの空振りなんて見れるもんじゃねーぞ。』
風岡(このフォークは違うな。)
野中『おいおい…。いくらなんでも自由すぎるだろ。』
川越『敬遠ってのは考えないのかね…邦南は。怖いもの知らずにもほどがあるな。』
野中『この攻めは吉とでるか、凶とでるか…。』
西口(ためらわずに振り切ってきた。今のがストレートなら間違いなくやられてた。)
ビュゴォォウゥッッッーーッッ!!!!
スッッットォオォーーーッッーンッッ!!!
ブンッッッッ!!!!!!
《今度もフォーク!!!!また空振り!!!!》
風岡(俺に迷いはない。こいつが本物なら必ずストレート勝負。俺の目に狂いがないならこいつは本当の純金。)
《なんと風岡を2球で追い込んだ邦南バッテリー!!!》
西口(最後もフォークでいきましょう!!ストレートは危険です!!)
ブルン…
大場が首を横に振る
西口(!?)
大場(ここは俺の納得行く球をいかせてくれ。)
西口(正気か!?翔真先輩!!)
大場(ストレートいかせろ──────────)
西口(エースの意地か…キャッチャーの哲学か…。)
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赤嶋『おめでとう西口。完敗…だよ。』
西口『こちらこそ、赤嶋さんとこんな試合ができて光栄ですよ。同じキャッチャーとして一人の目標でもありましたし。』
…
西口『ここぞの場面で打ち取れる確信があるボールを…首振られたら…?』
赤嶋『そ。ピッチャーを手懐けるのがキャッチャーの役割でもあるだろ。優しく撫でてピッチャーのわがままに付き合うか、厳しくムチ振って自分の言うことを聞かせるか。お前だったら、どっちを選ぶ?』
西口『それは…その時がこなくちゃ…わかんないですね…。そんな深く考えたことないんで…。』
赤嶋『ハハハ!まぁ、そーだよな。』
西口『赤嶋さんだったら…どーしますか?』
赤嶋『それがねぇ…俺もわかんねえんだよなぁ…。』
西口『へぇ…。でも赤嶋さんがそーゆー状況になったときどーゆー選択するのか見てみたいですね。』
赤嶋『さあね。ムチ振るのが良いこととも思わねえ。でもピッチャーのわがままに付き合うことも良いことじゃねえよな。』
西口『なんか考えると頭いたくなってきますね。この話題。』
赤嶋『俺は地元帰るけどよ、お前らのこれからの試合はテレビで観る。もしも今後そーゆー場面が来たら、じっくりお前の答えを見てみるとするよ。』
“エースの意地か…キャッチャーの哲学か…。”
西口『来なきゃ良いですけどね。』
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赤嶋『おいおい…。マジでこんな場面で来ちまったよ。バッターがその辺のやつだったらまだしも…キャプテンなんだぞ…。』
西口(赤嶋さんだったら…どーするかな…。)
《大場首を振った!!!そしてサイン交換が長いぞ!!!悩むキャッチャー西口!!!》
大場(俺のストレートで…片付ける!!)
西口(フォークなら確実に…。)