No.280:青馬の貫禄
『9回の裏、邦南高校の攻撃は、9番、レフト、藤武くん。』
《さあ2対2の同点で迎えた9回の裏!!打席には1年生、俊足が売りの藤武!!》
夏井(セーフティ警戒な。先頭打者出して打順が1番なんてなったら大変だ。1点取られたらサヨナラ負けなんだ。)
ビュゥゥゥッッッッ!!!!!
藤武(外角直球!!!読み通り!!!)
青馬(お前なんかに俺の球が打たれてたまるかよ。バーカ。)
カクゥッッ!!!
藤武(クソ!カットボール!!!)
カツーン!
《初球を打ちに行きましたがこれはバットの先!!!》
夏井(まずい!)
《しかしこれは打球が死んでいる!!ボテボテの二遊間!!!セカンド伊藤が急いで処理する!!》
夏井(頼む伊藤!!)
伊藤(ここでこいつを出したら…マズイんだよ!!!)
《一塁は────────!?》
『アウトォォ!!!!』
藤武『クソ…。』
《上手い!!!セカンド伊藤の必死の守備!!!バッター俊足藤武のボテボテの打球、うまく処理しました!!!!!ピッチャー青馬の投手としての実力だけではありません!!!この守備力も含めての北頼高校の強さ!!!》
『1番、ショート、小宮くん。』
夏井(こいつさえ抑えれば次は不調の副島。)
小宮(バッテリー、まず確実に僕を撃ち取りに来る。そのときに顕著に現れるこのバッテリーの攻めは…)
(決め球に縦のスライダーを使ってくる。)
小宮(延長にはこちらとしてもしたくない。延長には持っていかない前提のこのゲーム。その前提での三投手の継投策。延長になるとチームとして想定外の事態が発生することになる。それじゃあ、後手を踏んじゃう…。つまり…)
“僕がこの青馬の縦スラを仕留めなきゃいけない。”
夏井(絶対に打たせない。ランナーを出せば大場に回る。大場は前の試合でサヨナラホームランなど、ここぞの場面で打つ能力がある。9回裏にランナーがいる場面で回すのは危険すぎる。)
ビュュゥゥゥッッッゥッッ!!!!!
ズッッバァァァァーーーーッッンッ!!!
≪142km/h≫
『ストライーク!!!』
《初球は外角低めへのツーシーム!!!そしてこの場面、好打者小宮にも関わらず初球からストライクをとる青馬大輔の完成度!!》
小宮(ツーシームか…。万が一バットを振られたときのために保険をかけてきた。)
夏井(どの球種でもストライクが取れる。そこが青馬の強み。)
小宮(冷静に考えよう…。縦スラは絶対どこかで使ってくる。カットボールは左打者の場合インコースが主。カーブは基本左には使ってこない。ましてやこの場面。カーブはない。ツーシームはいま使ってきたからないと思いたいけどそれを逆手に取られて追い込まれたらいよいよ何が来るかわかんない。)
《さあ2球目!!!》
小宮(テンポが早くなった!!考える時間を与えない気か!!)
ビュュゥゥゥッッッゥッッ!!!!!
小宮(な!?)
ズッッバァァァァーーーーッッンッ!!
≪147km/h≫
『ストライク!!ツー!!!』
《なんと青馬2球で追い込んだ!!強気のインコース直球!!!!》
夏井(いろいろ考えすぎなんだよ。こっちとしてはやりやすい。勝手に土俵から逃げてくれるんだから。)
小宮(一本取られた…。今のインコース直球は完全に予想外…。)
《さあカウントはツーナッシング!!!》
小宮(決めに来るのは縦のスライダーのはず。3球で決めに来るのか…1球外してくるのか…。)
《さあ青馬振りかぶった!!!》
小宮(いや外してくる!!!絶対に出したくないなら慎重に責めるのがキャッチャーとしての本能!!!この夏井って人も例外じゃない!!)
ビュュゥゥゥッッッゥッッ!!!!!
小宮(外角真ん中やや低め!!でもこれは…曲がって外れ──────)
ズッッバァァァァーーーーッッンッ!!!!!!
≪149km/h≫
小宮(…。………、…。)
『ストライーク!!!』
《見逃しの三振!!!!小宮のバットピクリとも動きません!!!好打者小宮を圧倒!!!》
夏井(ナイスボール。そしておめでとう。自己最速149km/h。)
青馬(鬼頭があんだけ熱いストレート投げてんだ。負けてられねえよ。)
夏井(ま、150km/h行ってないからまだまだだな。)
小宮(やっちゃった…。完全に読み負けた…。ここでストレートを続けてくるなんて…。)
『2番、セカンド、副島くん。』
《ここで次のバッターはキャプテン副島。今大会甲子園では打率1割を切る大ブレーキです。》