No.243:屋久杉産スコアブック
天『俺はどーしたら越えられますかね。』
増田『は?』
天『え?』
増田『…。そんなの自分で考えて自分で答えを導き出すしかねぇだろ。』
天『ですよね~。』
てくてく…
増田『どこにいくんだ?』
天『ベンチ裏ですよ。アンダーシャツが雨でびしょびしょなんで替えてきます。』
増田『…。あいつ…、何かあったのか…?』
天『5回裏のグランドスラム、そしてさっきのタイムリースリーベース…。どちらも俺は文句のないベストのボールを投げた…。それを兄貴は…』
“認めるしか…ないっしょ…。”
吉川『なに笑ってんだ。気持ち悪い。』
天『いや、やっぱ…俺の兄貴って…スゲーんだなって…思ってただけですよ。』
吉川『なんだおまえ?もう負けたつもりか?』
天『そんなそんな。勝負はまだ…試合はまだ終わってないからこそ楽しみなんですよ。昔から思ってたはずなんですけどね。この人カッコいいって…。小さい頃はよくいっしょに野球やってたんですけど、もう何年も一緒に野球なんてやらなかったんで…。俺にとって憧れだった。兄貴は。だからこそ…野球を辞めた兄貴が憎かった…。でも…ほんとは心のなかで思ってたんですよ…。』
吉川『…?』
天『アメリカとか強いチームとか色んな環境で野球をやってたけど…』
“この試合が、人生で1番。楽しいんです。”
吉川『さっき重五郎にどーしたら越えられるか聞いてたな。』
天『はい。』
吉川『見つかりそうか?答えは。』
天『だいたい見当ついてますよ。兄貴に憧れてずっと野球してきた。兄貴のようなプレーヤーになりたくて野球してきた。でも、そんな俺に兄貴は言ったんです。「オリジナルをめざせ。」って。その後兄貴が憎くなったあと、この言葉をヒントに俺はアンダースローになりました。兄貴とは違う道で勝負しようと。』
吉川『…。』
天『だけどこれは本来自分の望んだ姿じゃない。俺は、兄貴と真っ正面からぶつかって、越えたい。』
…
…
ガチャン…
増田『ずいぶんと長かったな。着替えんの。ウンコでもしてたのか?』
天『この試合、勝ちましょう。』
増田『お、お、おう!』
(なんか気持ち悪い…。)
鳴島剣『ギャハハハハ!!お前バカかて!!テレビに映るかも知れねーぞ!?』
鳴島破『じゃあ次下川の番な!』
下川『いや、まだ武田もやってねーぞ!』
武田『おいおい!甲子園のベンチで鼻くそなんて食えねーよ!』
鳴島破『ギャハハハハ!!』
増田『あいつら…ほんと下らねえな。』
天(餓鬼だ…餓鬼過ぎるこの人たち…。)
武田『?どーした?天。お前も入りたいか?』
天『剣刃さん。破刃さん。さっきは生意気なこと言ってすいませんでした。』
下川『は!?』
鳴島剣『あらら…どぉしちゃたのぉー?』
天『力を貸してください…。勝つためには…あなたたちの力が必要なんです…。』
鳴島破『照れるなぁー。そんなこと言われちゃ。』
鳴島剣『まぁ身分がわかればいいんだよね。』
天『お願いします!』
武田『天が…』
来馬『頭を下げた…』
鳴島剣『!?』
鳴島破『!?』
増田(これにはさすがの悪童コンビもビックリだな。)
鳴島剣『…』
奥田(スゲーことになってんな…。)
鳴島破『やーめた。』
鳴島剣『だな。』
天『そんな…。』
鳴島剣『ウソぴょーん!』
鳴島破『協力してやるぴょーん!』
増田(うぜぇ…。)
武田(うぜぇ…。)
下川(うぜぇ…。)
吉川(うぜぇ…。)
奥田(うぜぇ…。)
来馬『う!』(ぜぇ…。)
天『よっしゃ…勝ちましょう!』
鳴島剣『ま、雨が止んだらの話だけどな。雨がやむまでははしゃがせてくれ。』
鳴島破『ギャハハハハ!!くすぐったいって!』
天(やっぱ…この人たち…。)
(((餓鬼だ…。)))
増田(このチーム…まだまだ強くなる…。雨が止んだらの話だけど…。)
来馬『おい。』
増田『なんだ?』
来馬『高橋(控え選手)がなんかいってるぞ。』
高橋『てるてる坊主、作ればいいんじゃね?』
増田『いい案だな。でもベンチには紙が…。』
酢子愛(すこあい:スコアラー)『ぎょっ!』
武田『良いもの見っつけたぁ!』
下川『紙だ!紙だ!』
酢子愛『ダメだ!神聖なスコアブックをてるてる坊主なんかにしてたまるか!!』
鳴島破『なんの騒ぎだ!?』
来馬『スコアブックでてるてる坊主作るらしいぜ!』
鳴島剣『ギャハハハハ!!たのしそー!!!』
酢子愛『俺のお手製で作った屋久杉産の純国産のスコアブックが!』
武田『屋久杉のスコアブックとかすげー!!』
吉川『でもなんでだ?屋久杉って世界自然遺産だろ!?なんで屋久杉のスコアブックなんて…』
酢子愛『自分で屋久杉けずって作りました。てへぺろ。』
増田(犯罪だぁぁぁぁぁぁ…!)
武田『まぁいいや!早いとこつくっちまおうぜ!』
…
そして10分後…
ぷらーん…
ぷらーん
酢子愛『もう…死期が近い…。俺の…俺の屋久杉スコアブックが…』
副島『おい…なんか向こうのベンチになんか白いのがいっぱい垂れてねえか?』
氷室『ほんとだ…てるてる坊主…ですかね?』
鬼頭博『は!?』
副島『どーした?』
鬼頭博『あのてるてる坊主から放たれる…種子島、屋久杉のオーラはなんなんだ…!?』
小宮『屋久杉は屋久島ですよ。』
副島『何が言いたいんだ。』
鬼頭博『いや、どっからどーみてもあれ屋久杉オーラだろ!たぶんスコアブックだ!』
副島『馬鹿か。屋久杉は世界遺産の1つだ。スコアブックになんてなってるわけないだろ。』
大場『博行先輩は自然が大好きですからね。』
鬼頭博『いや、絶対にあれは屋久杉産だ!』
…
そんなとき、
楽秦工業ベンチ
高橋『てるてる坊主は作りましたね…。さぁ今から大合唱の時間です。みんなで“止め”と大合唱しましょう。』
増田『お前はなんなんだ。高橋。初めてお前の声聞いたと思ったら。』
高橋『雨の化身気取りです。』
鳴島剣『俺小学校の合唱コンクールで大活躍したぜ!?』
鳴島破『ばか野郎!俺のが活躍したわ!』
武田『いくぜー!?』
『『『『雨、雨、止め、止め、うおりゃぁぁぁー!雨、雨、止め、止め、うおりゃぁぁぁー!雨、雨、止め、止め、うおりゃぁぁぁー!雨、雨、止め、止め、うおりゃぁぁぁー!』』』』
観客『ん?なんか聞こえないか?』
《これは…楽秦工業ベンチからなにやら大合唱してますね…。》
高橋『合唱コンクールin甲子園だぜ!!』
ポカッ。
増田『お前は引っ込め。怪しすぎるわ(笑)』
『『『『ラランラン!ランドセルは!!!てんてんてん、天使の羽!!!!!!背中にピッタリラランラン!!てんてんてん、天使の、羽!!!!!!!!!』』』』
増田(なんかただの合唱になってるーー!!)
『『『『負けないで!もう少し!最後まで!走り抜けて!!』』』』
増田『甲子園のベンチでカラオケをするなぁぁぁぁーーーーーっっっ!!』
パラパラ…
鳴島剣『お。』
武田『止んできた。』
高橋『ふっ。』
増田『なにドヤってんだ。』
高橋『僕をベンチに入れた甲斐がありましたね。ふっ。』
《これは…雨が止みましたね。審判団も出てきました。どうやらゲーム再開のようです。》
『4番、ピッチャー、鬼頭くん。』
《8回表、ノーアウトランナー二塁!さあ3点ビハインドの楽秦工業はこのチャンスをものにすることができるか!?》
西口(なにか違うぞ…。この打席の鬼頭天は…。なにか…目が輝いてやがる…。)
『プレィィッ!!』