No.15:プロ野球選手の息子
島谷倫『キムタロ…。ここで一本頼む…。』
氷室『先輩…。』
邦南ナインは必死にキムタロのバットが目を冷ますことを願っている。
木村(…無理だ。俺は武器なんてないし…。)
豊己(太郎…。)
木村(小さい頃から野球をやってきて、ずっと一生懸命やってきて…。)
木村『だけど…。だけど…。』
(ズバーン!!)
『ストライク!!ワン!!』
木村(いくら練習を一生懸命やっても…。試合で打ったことなんて数えられるくらい…)
(スカッ!!)
『ストライク!!ツー!!』
大場『明らかなボール球だろ…。』
木村(だめだ。俺なんかにこんな名門のエースの球なんて打てるわけねえ…。みんな…ごめん。)
誠(このバッター…。ここ最近まったく当たってないしこの打席も狙い球を絞れてない…。見せ球は不要だな。3球で片付けるよ。兄貴。)
誠がサインを出す。
健太(わかった。)
健太がうなずく。
(バン!!)
木村(やばっ!!)
ストレートがアウトローに決まった。
『ボール!!カウントワンボールツーストライク!!』
誠『ちっ。わずかに低かったか。でも次で終わりだ。』
木村(助かった~。見逃し三振じゃかっこつかないよ。でも次でどうせ三振だな…。)
『キムタロ!!』
一塁コーチャーボックスから声がした。
松坂『キムタロ!!お前!!今までなにやってきたんだ!?思い出せよ!!俺らが一年生だった頃を!!』
木村(…!!1年の…とき。あの頃は部員もいなくて上の学年も大学受験とかいってみんなやめてったなぁ。結局夏の大会も1年の頃は人数不足で出られなかったなぁ…。)
松坂『どんなに部員が少なくても、夏にいろんなチームと戦いたくて…少しでも多く勝ちたくて…!!一生懸命やってきたじゃんか!!』
副島『そうだろ!!あのキツい練習で何度も何度も倒れたりしたじゃんか!!』
島谷倫『お前だって!何万本とバットを振ってきただろ!!その手を見てみろよ!!』
木村(みんな…。)
松坂『お前なら打てる!!あとはその1球にかけろ!!』
大場『先輩!!』
慶野『打ってください!!』
木村(…!)
健太がセットポジションに入る。
健太(バッターの目が変わったな。気を抜くわけにはいけないかもな。)
木村(絶対打つ!!満塁にしてくれたみんなの努力を無駄にはできねぇ!!)
木村(あのフォークは狙っててもなかなか打てるもんじゃない。ここはストレートに絞って…!!)
健太が投げる。
ビュッ!!
(カクッ!!!)
誠(コイツがフォークを狙う可能性は0%!!兄貴のストライクをとるフォークで…見逃し三振だ!!)
木村(1・2の…3!!)
(カキーン!!)
健太『えっ…?』
誠『えっ…?』
木村『えっ…!?』
ビュー!!ポンッポン!!
大場『よっしゃぁ!!!!!!』
打球は右中間をまっぷたつに破った。
ツーアウトだったのでランナーのスタートがよく、一塁ランナーも一気にホームインした。
これで一気に3点を返し、9-8。
点差はわずかに一点差となった。
健太『今のアイツ…フォークを狙ってたか?』
誠『いや。確実にストレート狙いだったはずだ。』
健太『ならなんで俺のフォークを?』
誠『わかんねぇ。兄貴のフォークを狙わずにいきなりヒットにできるなんて享神高校の桜沢以来じゃねぇか?』
健太『アイツは別格だ。俺でもアイツには敵わねぇからな。』
誠『ずいぶんと弱気だな。8点もとられて気が狂っちまったのか?』
健太『んなわけねーだろ。まあ享神とは決勝にいかなきゃ当たらねぇんだから今考えることじゃねぇ。ツーアウト二塁だ。次は8番だし落ち着いていくぞ。』
誠『だな!まだ一点差だ!よろしく頼むぜ!兄貴!!』
長岡『おいおい…。今のフォークをツーベースだぜ!?』
南『案外やるね。ガリ勉高校のくせに。』
豊己『今のヒット…今の打席、太郎は明らかに直球狙いだった。だがとっさの反応でヒットにした。成長したな。太郎。それでこそ俺の息子だ。』