↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/32

嫉妬

「……また、九条アリスが一位?」


薄暗い部屋。


大型モニターに映し出されているのは、人気ダンジョン配信者・九条アリスの配信ランキングだった。


その画面を見つめる一人の女性が、苛立たしげに唇を噛む。


彼女もまた、女性ダンジョン配信者だった。


活動を始めたのはアリスよりも早い。


容姿にも自信があり、配信でのトークにも自信があった。自分こそが人気配信者になると思っていた。


実際、最初の頃は順調だった。


登録者数も伸びていたし、ランキングでも上位に入っていた。


ところが――。


「なんでよ……」


アリスが現れてから、状況は変わった。


金髪ツインテールに青い瞳。


整った顔立ちに、強気で生意気な態度。


戦闘では雷魔法を派手に使い、視聴者を盛り上げる。


最初は一時的な人気だと思っていた。


しかし、アリスの登録者数は伸び続けた。


気がつけば、彼女のチャンネルは自分を追い抜き、さらに遠くへ行ってしまった。


「私のほうが可愛いのに……」


女性は鏡を見た。


整った顔。綺麗に手入れされた髪。流行を取り入れた服装。


自分の容姿に不満はない。


むしろ、アリスより自分のほうが可愛いと本気で思っていた。


それなのに、世間はアリスを選んだ。


「なんで、あんな女が……!」


机を叩く。


モニターには、アリスの配信アーカイブが映っていた。


そして、その隣には見慣れない太った男が映っている。


アリスの配信に突然現れた、冴えない中年男性。


「……何なのよ、このデブ」


最初は、ただの一般人だと思った。


ところが、アリスはその男を配信に呼ぶようになった。


魔物の知識が豊富で、戦闘中にも的確な助言をする。


視聴者からも妙に人気が出ていた。


「どうして、あんな男と一緒にいるのよ」


女性は画面を睨みつけた。


自分ならもっと見栄えのいい相手を選ぶ。


もっと人気のある探索者と組めばいい。


それなのに、アリスはあのデブを隣に置いている。


「……気に入らない」


女性は引き出しを開けた。


中には、小さな金属製の装置が入っていた。


数週間前。


女性は、とある裏通りにある怪しげな店を訪れていた。


店の中には、古い魔道具や正体不明のアイテムが並んでいる。


表向きは普通の骨董品店だが、裏では探索者向けの珍しい道具を扱っていた。


「いらっしゃい」


店主が声をかける。


「ちょっと珍しいものを探しているんだけど」


「どのような品を?」


「転移に関係するものよ」


店主は少しだけ眉を動かした。


「転移魔道具ですか。用途によっては危険な品もありますが」


「人を別の場所へ飛ばせるものが欲しいの」


「……人を?」


女性は笑顔を浮かべた。


「ちょっとした悪戯よ」


店主は彼女をじっと見たが、それ以上は尋ねなかった。


やがて、店の奥から小さな金属片を持ってきた。


それは掌に収まるほどの大きさで、表面には複雑な模様が刻まれている。


「これは転移トラップの起動具です。特定の魔力を流すことで、あらかじめ設定された場所へ対象を転移させます」


「対象って?」


「起動時に範囲内にいた者です。転移先は設定済みで、使用者が自由に選ぶことはできません」


「戻ってこられるの?」


「通常の転移手段では難しいでしょうね。転移先に帰還装置があるかどうか次第です」


女性は金属片を手に取った。


「面白そうね」


「扱いには十分注意してください。転移先の安全は保証できません」


「分かってるわ」


彼女は代金を支払い、その装置を持ち帰った。


そのときには、すでに計画を考えていた。


そして、アリスの配信当日。


女性は配信スタッフの一人に接触した。


関係者用の服装を用意し、スタッフに紛れ込む。


もともと人の出入りが多い現場だった。


機材の搬入や準備に紛れてしまえば、細かく顔を確認されることもない。


女性は帽子を深くかぶり、目立たないように振る舞った。


そして、健太とアリスが転移トラップの範囲に入った瞬間。


隠し持っていた起動具に魔力を流した。


――成功。


二人の足元に魔法陣が浮かび上がり、健太とアリスの姿が消えた。


残されたスタッフたちは騒然となった。


女性はその騒ぎに紛れ、何食わぬ顔でその場を離れた。


誰も彼女を疑わなかった。


現在。


女性は手に持った金属片を眺めていた。


「ふふ……」


口元が緩む。


「どう? 九条アリス。今頃、どこにいるのかしら?」


彼女は椅子に深く腰掛けた。


「配信もできない。スタッフとも連絡が取れない。帰れるかどうかも分からない場所……」


そして、モニターに映るアリスの笑顔を見た。


「デブと二人きりで、頑張りなさい」


くすくすと笑う。


「もしかしたら、もう死んでいるかもしれないわね」


指先で金属片を弄ぶ。


「それとも……あのデブに襲われたりして?」


女性は口元を手で隠した。


もちろん、本当にどうなっているのかは分からない。


転移先で魔物に襲われたのか。


二人で協力して生き延びているのか。


それとも、すでに命を落としているのか。


何も分からない。


だが、それでよかった。


「これで、邪魔者はいなくなったわ」


女性は立ち上がり、鏡の前に移動した。


自分の髪を整え、笑顔を作る。


「これからは私の時代よ」


アリスがいなくなれば、配信ランキングの上位に返り咲ける。


視聴者だって、いずれ自分のところへ戻ってくる。


そう信じて疑わなかった。


「ふふふ……あはははは!」


自室に高笑いが響く。


しかし、彼女は知らない。


転移させた二人が、ただ遭難しているだけではないことを。


おじさんは、異世界で十年以上生き延びた経験がある。


そして、アリスはその経験を吸収しながら、少しずつ強くなっている。


彼女の思惑とは裏腹に、二人は今も生きていた。


しかも、帰還するための手がかりを見つけようとしている。



女性は笑い続けた。


その笑顔が、いつか自分自身に向けられることになるとは知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。