サリーちゃんのその後
私が天使と悪魔のハーフだと分かった、あの出来事からざっと数年。
人間界と交友関係を築く為、私は人間界で暮らしてる。
やっぱ天界に居るよりも、退屈はせんな!
以前の留学と違って、悪魔姿を堂々と曝け出せるのが、何よりもいい!
まぁ、流石に服は着てるけどな。
でないと、ほぼ露出狂だもん。
……そう考えたらさ……文化祭時の私、アホ過ぎて黒歴史だわ……あぁー!
恥ずかし恥ずかし恥ずかし!?
「はぁはぁはぁ……ベッドから出ないと……」
人間界で暮らしてるからと言って、前までの自由気ままなライフスタイルではない。
あくまでも人間と同じ目線に立ってこそだ。
まぁ……つまり、現状の暮らしはこうなってんですよ。
「おはよー皆」
「あ、サリーちゃん♪ おはー♪」
「……はよ」
「今日も美しゅう……はぁん……」
「いい加減慣れろよ」
「あはは! おはようサリーさん! 朝っぱらから最可愛だね!」
リビングで早々に挨拶を返す、計5名とシェアハウス中なんですわ。
しかも、ハーフの私、天使の女の子、悪魔の男の子、そして人間の男2人と女1人の、ごちゃ混ぜのな。
まぁ、こんな事考えたのは天ピッピ達なんだけどさ?
ご覧の通りそれなりに仲良くはさせて貰ってますよ。
当初こそ3界シェアハウスに、人間達は前向きじゃなかった訳。
ただ、マジモンの私達が公になってからは、ぶっ倒れそうなぐらい前のめり。
お試し期間の小規模シェアハウス募集も、各々定員2名なのに1万超えとか、ザラだったもんな。
規模拡大された今じゃ、そこらじゅうにシェアハウスを見かける身近な存在になったな。
それでもまぁ、まだまだ定員は溢れてるのが現状だ。
♢♢♢♢♢
シェアメイト達とモーニングコミュニケーションを終えた後は、身支度整えて仕事場に向かうのが日課だ。
お堅苦しいスーツ姿だが、数年も着込んでりゃ、嫌でも身体に馴染むってもんよ。
んで、肝心の仕事ってのは、人間に天界魔界のあれやこれやの基本教養を教える、指導員だ。
交友関係を築く為に、そこらかしこに広まってる神話やおとぎ話みてぇな当てずっぽ情報より、直々に教える正確情報が大事だからな。
それに留学の仲介役も兼任だから、案外やる事が多いんだわ。
あ、猫の手も借りたいって、こんな時に使うのか、なるほど……。
♢♢♢♢♢
昼休憩、小一時間のリフレッシュタイムを充実する為、各々が動き出す。
テンプレな日常にも、メリハリが大事だと言われてるが、人間はそれが分かり易い。
そんなテンプレに私も染まっちまってるけどな。
「サリーさん♪ 今日も屋上でお昼?」
「うん! いつも誘ってくれてるのに、ごめんね?」
「いえいえいえ! 同じ職場でいられるだけで充分です!」
同僚を始め、後輩達のお昼のお誘いは遠慮させて貰ってる。
決して屋上でぼっち飯じゃないからな。
手作り弁当は2つ、2つだ。ふふふ……つまりそう言う事だ!
私が来るのを首を長くして待ってるだろうからな! 早く行ってやらんと♪
ナリユこと、新田成幸! 今行くぞ!
♢♢♢♢♢
「お疲れ様」
「……」
おいおいおいおい……今日も今日とて一緒に昼飯食うんだぞ?
しかも労い言葉そっちのけでソシャゲに夢中とは、いい度胸してやがるな。
……テメェがそう出るなら、目を塞いでやる。
「うぉ!? 暗?! 何!?」
「……」
「え? 本当に何? サリーさんでしょ? ねぇ!」
「気付くの遅っ」
「いて!」
たく……こちとら、1秒でも早く一緒の時間を過ごしたいってのによ……ふん!
ただまぁ、私の寛大な心に免じ、言い訳ぐらいは聞いてやってもいい!
ただし! 事の次第によっちゃ、鉄拳制裁だぞ!
「で、言い訳は」
「つ、ついサリーさん似の子がいて、育成が夢中に……すんません……」
ふ、ふーん? 私似の子の育成ねー?
嘘偽りが無いか、確認させてもらおうじゃないか。
どれどれ……お、おぅ……色が違うだけで、ほぼほぼ私じゃねぇか!
育成レベルも他キャラと段違……イベ回収もコンプ寸前……。
「今すぐアンインストールするので、お許し」
「し、しなくていい! 許す許す!」
「ほ、ほっ……あ……」
「?」
「時間差で恥ずかしくなってきた……」
か、顔赤らめんなよ!普通は逆だろ!
てか、私が見えないところで私を意識し過ぎじゃん!
嬉しいかよ!照れるかよ!
こっちまで赤くなんじゃんかよ!もうもうもう!
幸せかよ! ずっと続けよ!
……でも友達以上恋人未満……なんだよな……。
進展したいのになぁ……もっと虜にしてやりたいのにさ!
……まぁ……今の手の届きそうなもどかしい関係が悪くないから、平行線を辿ってるんだけどな。
いや、正確に言えば、ごくごく緩やかーに右肩上がりし続けてますけどね!私はな!
成幸君も……多分!
はっ! 貴重な2人だけの時間が勿体無い!
今日の手作り弁当はな……愛情たっぷり手捏ねハンバーグメインの、栄養バランスボリュームもりもり弁当なんだ!
ふっふっふ……前々から食いたいって言ってたんだ。
蓋を開けてびっくりしやがれ!
「はい。お弁当」
「あ、ありがとう」
ドキドキ……早く……早く玉手箱を開けるんだ!
「あ、そうそう! ミカエさんの動画、急上昇一位だったね!」
狭間ミカエの話かい!
アイツは天界でVtuber界初の、天使と悪魔のハーフVtuberとしても活躍してるそうだ。
人間界にもちょくちょく顔を出して、人間の友人達と会ってるそうだが、プライベートはプライベートだ。
私がいちいち知った所で、どうする気も無い。
つーか、今は弁当タイムだろうが! ミカエは今関係ないでしょうに!
「むぅ……ハンバーグの感想聞きたかった」
「え!? あ、ちょ待ってて! ……わぁ、美味しそう……」
「み、見た目もいいけど、食べて」
「だ、だね。いただきます……」
試行錯誤を重ねて666回目の最高傑作……どうか、胃袋を鷲掴みしてくれ!
「……」
「ど、どう?」
「……サリーさん」
「は、はい!」
な、何だ急に見つめてきて!? ぴゃー?! 隣に座ってるから尚更破壊力がぁ!?
心臓の高鳴りが聞こえちまうよぉ!?
「今度の休み、時間ある?」
「……へ?」
な、何だ急に? 休み自体は問題ないが……ハンバーグの感想を聞きたいんだけど。
「だ、大丈夫だけど……は、ハンバーグはどうだった?」
「当たり前に今までの中で、一番美味しかったです」
「あ、お、ぅん……」
どストレートな褒め言葉が一番効くじゃんか……もう~♪
にしても、成幸君の方から休みのお誘い?なんて初めてじゃね?
も、もしやこれは……ぞ、俗に言う……で、デートってヤツなのでは!?
だとすれば、今日の帰りに一張羅を新調しなきゃ!
「サリーさん?」
「え? な、何?」
「お弁当食べないのかなーって」
「あ。つ、ついつい……」
ふ、ふぅー……危ない危ない……お弁当があって良かった良かった。
飯食いの時ってのは、にやけ面を誤魔化すには持って来いだからな。
ただまぁ……そんな面もいつの日か自然に見せられたらいいな。
の前に……成幸君を尊い美少女悪魔サリーの虜にさせてやるんだから!




