出発進行
綺麗な鐘の音が青空に響いていた。
「ついに来たな」
俺達は、レンガ造りの駅を見あげた。
「そうですね」
「う、うん……」
「ほんまやね~」
俺達の胸中には色んな想いが去来していた。
本当に遠くて長い道のりだった。
しかし、忘れてはいけない……。
「ここが始まりだ」
俺は言った。
「ここを超えて一歩目だ。油断するなよ。ここからが本当の冒険だ」
「はい!」
「よし、行こう」
俺達は、決意新たに一歩を踏みだした。
駅の中は人でごった返していた。
外の静けさがウソのようだった。
大きな荷物を運ぶ商人や、派手な衣装の道化師、浮浪者のような奴から、料理人まで、さまざまな人間がいた。
「おわ!これどうなってるんですかぁ~!?」
様変わりした駅の様子にイヅナが声を上げた。
「ああ、忘れてたけど、もうすぐ本祭だからな。駅はまぁ毎年こうなる」
「ほええ……こ、こんなの……」
「改札まで行かれへん……」
レイシーとドクダミちゃんが、呆然としていた。
確かに、比較的にごつい人間や荷物を持っている人が多いので、女性や子供には少し厳しい環境のように見えた。
女性の上に子供のこいつらからしたら……まぁ厳しいだろうな。
「大丈夫だ。そのために、俺がいる」
俺はそう言うとマッチを擦った。
それを見て三人がにやりと笑った。
「ですね!」
「も、モリー様!」
「ほんじゃ、まぁ、あの作戦で行きましょか!」
「おう」
俺はそう言うと自分に火をつけ……そしてお嬢様方の前にひれ伏した。
「どうぞ、お嬢様方」
俺がそう言うと、三人は俺の肩に飛び乗った。
俺は三人をがっちりつかむと、力強く立ち上がった。
「よっしゃー!」
イヅナが叫ぶ。
「お、おおおわあー!」
ドクダミちゃんが叫ぶ。
「いっくでー!ドクダミサーカスの開園や!」
レイシーが高らかに叫んだ。
群衆は火だるまの大男が突然登場にざわめいた。
「なにあれ?」
「子供が三人もいる?!」
「ドクダミサーカス?どこかで聞いたような……」
駅に充満する謎と好機の声が俺達を包んだ。
俺はそんなものを意に解さず、改札への道を歩いた。
胸を張って堂々と。
まるで……我が道への凱旋って感じで。
「おおお~!」
イヅナが頭の上で驚嘆の声を上げる。
「すご~い!まるで人が……」
「やめろ」
イヅナが何か不穏な事言いそうになったので俺は止めた。
「お行儀よくしてなさい」
「はぁ~い」
イヅナは元気にそう言った。
「す、す、す、すごい……モリー様の世界はこんなに……」
ドクダミちゃんがわなわな震えながら言った。
「こんなに……広いんだ!」
「そうさ。世界は広いんだ。本だけじゃ分からかったろ?」
「はい……。あの、私、変かもですが……」
俺はドクダミちゃんの言葉を聞いて……いつもだろって思ったが口をつぐんだ。
「いますごくわくわくしてます」
そのキラキラした言葉に俺は少し心が痛んだ。
「へへへ、気にせんでいいですよ。モリー様」
レイシーが俺に耳打ちしてきた。
「私もそう思いましたよ?へへへへへ」
こいつは多分、一番問題児なんだろうなって思った。
それと同時に、どんな状況でもいつでも変わらないフラットな感性を持っている奴だとも思った。
意外とこういう奴が極限状態のPTを救ったりする……かもしれない。
恰好、俺達って……バランスがいいのかもしれない。
俺は再び、ドクダミちゃんを笑った事を悔やんだ。
ドクダミちゃん……俺もさ。
俺も、今結構……わくわくしてる。
そう思うと自然と口元が緩んだ。
雑踏かきわけ、いつもの受付の前まで来ると、あいつがいた。
つまらなさそうな表情で、片手に持ってる手旗をぱたぱたさせていた。
「よぉ、アッコ。久しぶり」
俺は受付にいるアッコに声をかけた。
「運がよかったですね。私は今あなたの馬鹿に付き合う気力がありません」
アッコは気怠そうに言った。
「そうじゃなければ今頃あなたはロリコン強姦魔ですよ。言葉には気を付けてください」
言ってることは以前通りだったが、アッコはなんだかしおらしかった。
「アプリコットおねぇさんどうしたの?」
イヅナが心配そうに尋ねた。
「おねぇさんね。寝てないの。眠らずにね……」
アッコはそう言うとわなわな震え始めた。
「このむさくるしい連中の!相手を!ずっとしてるのぉぉぉぉ!」
アッコはそういうと頭を抱えてぶんぶん振った。
「ほんとにブラック!この職場は真っ黒なの!」
「そうか。まぁ、お疲れ様」
「あなた……ホントに……言葉には気をつけなさいよね?」
アッコの声は震えていた。
俺はその顔を見て若干引いてしまった。
「すみません。アプリコット様。それで、俺達……」
「わかってますよ!」
アッコは投げやりな感じでそう言った。
どうやら少し、調子が戻ったみたいだった。
「どうぞ!」
アッコはそう言うと、受付から切符を取り出した。
「これ、改札で見せてください。座席も書いてますから!くれぐれも間違えてほかの乗客に迷惑かけないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう」
俺はアッコから切符を受け取ると、改札へ向かった。
「ありがとう!行ってきます!」
「い、い、い、行ってきます」
「おみやげ買ってきますねぇ~!」
俺が改札に向かうと、三人がアッコに手を振った。
「じゃ、またな」
俺もそれに合わせて、手を振った。
「モウコリー!」
手を振る俺の背中にアッコが叫んだ。
「無事帰ってきなさいよ!あんたはどうでもいいけどー!」
「一言よけいだー!」
俺は顔をしかめて受付から顔を覗かせるアッコにそう叫んだ。
ちらっとしか顔見えなかったけど、きっとあいつも気にはしてくれてるみたいだ。
「素直じゃない奴め」
でも、なんだか結構うれしかった。
改札を抜けるとそこにあったのは列だった。
「マンダリアン号は10時出発です~。押さずに順番に列になってお並びくださーい」
若い女の駅員が声を張っていた。
「は~い。切符はこちらでは意見しますよ~!」
その隣に数名の若い駅員が並んでいた。
改札を抜けた人は、とりあえずそこに切符を見せて車両に並ぶ。
車両の正装や、荷物の検品が終わり次第乗客を乗せて行く流れだ。
俺はとりあえず、切符をその駅員に見せた。
駅員は俺達をとても不審な目で見たが、切符を見て顔いろを変えた。
「もしかして、北部魔界の作業の方ですか?」
「はい。そうです」
「でしたら、真ん中の4号車です。どうぞ、お気をつけて」
「ありがとうございます」
俺達は駅員にお礼を言って、4号車に向かった。
「ここ……だよな?」
俺は4号車の前で立ち尽くした。
「ですねぇ……」
俺達の目の前の車両にはでかでかと「4」と書かれていた。
先頭から数えても、確かに4号車だ。
俺は左右を見る。
つまりは3号車と5号車だが、そっちの状況というと……。
人が並んでいた。
すごく、多く、並んでいた。
しかし、4号車は……俺達だけだった。
人が溢れる駅構内に、不自然に空いた空間ができていた。
俺達はそこに立っていた。
「えーっと、とりあえず……下りるか?」
「え?あーそうですね」
三人は顔を見合わせてそう言った。
俺は頷くと、一人ずつ頭から降ろした。
しばらくすると、構内にベルの音が響いた。
と、同時に目の前の扉から駅員が飛び出して来た。
「清掃!終わりましたー!」
駅員たちは一斉に声を上げた。
すると、次はホイッスルの音が響いた。
「お疲れ様です!それでは皆様お待たせしました!ただいまより搭乗いただけます。順番に押さずに乗車くださーい!」
遠くの方からポッポの声が聞こえた。
と、同時にどよめきが起こり、そして人々が動き始めた。
「すごい!」
「あわわわわ……」
イヅナとドクダミちゃんがその凄味に圧倒されていた。
「ドクダミちゃん。そばにおいでぇー」
レイシーがドクダミちゃんを支えた。
「す、すごい……人が動いてるだけなのに!こんなにエネルギーが!」
「人って……す、すごいぃ……」
二人は感心しているようだった。
「そうだな。とりあえず、俺たちも乗りこむぞ」
俺はそう言うと、二人の背中を押した。
俺達の乗り込んだ4号車はガラガラだった。
「これは……どうみても特別待遇だな」
「ですね」
「もうけましたねぇ~いやぁ~旦那さん甘いなぁ~」
「ちょっ、ちょっと悪いかも……」
「まぁでも、あそこに入るよりかはマシだろ」
俺はそう言って、人でごった返す隣の車両を指さした。
「た、たしかに……あそこだったら、死んでたかも……」
「冒険始まってもないのに、死なれちゃ困るよ!」
「ははは、そうだな。ま、でも悪く思う必要はないさ。あるもの全部使っていかないとな」
俺は笑いながらそう言った。
「私!窓際行きます!」
「わ、わ、わ、私も!」
イヅナとドクダミちゃんが手を上げた。
「どうぞ」
俺は荷物を棚に上げながら、言った。
「やったー!」
二人は声を上げると、四人掛けの席の奥に座った。
俺はレイシーの荷物を受け取ると、荷物棚に置いた。
俺の荷物はでかすぎるので、申し訳ないが空いている隣の座席に置いた。
不用心だが、まぁ置いていても……そう簡単に持っていける重量じゃないからいいかと思った。
俺も席に着くと、みんなが窓の外を覗いていた。
「いよいよですよ!いよいよ!」
イヅナが座席に膝をついて跳ねていた。
「気持ちはわかるけど、お行儀よくしなさい」
俺はあきれた感じでそう言った。
「満員です!」
車内から身を乗り出して、若い男の駅員が叫んだ。
「承知しました。10時発のマンダリアン号、満車のため、まもなく、出発いたします。これからのご乗車は遠慮ください!
それを聞いた列の整理をしていた駅員が声を上げた。
「扉閉まります。離れてくださーい!」
駅員の声と同時に扉が閉まった。
「おっ!ついに!」
イヅナが身を乗り出して、窓を覗いた。
列車の汽笛が鳴る。
「おお!」
その瞬間微かな振動が起こった。
「なんですか?!この揺れ!」
「魔力炉が入ったな。もうすぐ動くぞ」
「す、すごい……」
「うえー!すごいエネルギーや!」
レイシーとドクダミちゃんは拳を握りふるふる震えていた。
各々初めての経験になにかを感じているようだった。
「ドクダミ!」
今にも発射というタイミングで、窓の外からドクダミちゃんを呼ぶ声が聞こえた。
窓の外を見ると、そこにはポッポが息を切らして走り寄ってくる姿が見えた。
「お父さん!」
ドクダミちゃんが身を乗り出した。
俺は、座席から腕を伸ばし、窓を開けてやった。
「ドクダミ!会えて良かった」
「お父さん!私も!」
ポッポは、ドクダミちゃんの手を取った。
「ドクダミ、気を付けて。何かあればすぐにモリーさんに頼るんですよ」
「う、うん」
「あと、向こうにいる職員には話をしていますから、何かあったら遠慮せずにすぐに言うんですよ」
「う、うん……」
「あと、ガリアダンジョンにも職員がいます。駅も今回のお祭りにお店を出してます。何かあったら……」
「う、うん!すぐに頼る。絶対に無理はしない」
ドクダミちゃんがそう言うとポッポは寂しそうな顔をしていた。
すごく、心配してるんだけど、でも、いつまでも子供じゃない。
信じてあげなきゃいけないんだってわかっている顔だった。
親心だな。
「ポッポ。必ず帰るよ」
「おじさん!大丈夫ですよ!私達、最強ですから!」
「おい……」
「わかってます!油断もしません。だから最強なんですよ!」
イヅナは根拠のない、でもゆるぎない自信を見せた。
「そう言うわけですよ、旦那さん。私も全力で守るんで!安心してください」
レイシーがそう言うとポッポは窓から身をねじ込みレイシーの頭を撫でた。
「あなたもですよ」
「へ?」
「怪我無く無事に帰ってくるんですよ。あなたも家族なんですから」
「あっ……あー、はい」
レイシーは珍しくなんだか照れているようだった。
「帰ったら、みんなで祝勝会をしよう。もちろんその時は私も帰りますから、シルアさんにご馳走用意してもらいましょう」
ポッポは体を戻し、今度はドクダミちゃんの頭を撫でて言った。
「う、うん。楽しみにしてる」
「もちろん!イヅナちゃんも来てください!」
「はい!ありがとうございます!」
「モリーさんも是非!」
「お、俺もですか?!す、すみません、ありがとうございます」
俺が頭を下げると、列車が少しづつ動き始めた。
ポッポは反射的に窓から手を放し、車両から距離をとった。
「う、動いた?!」
「ついにだな……」
「おっおわぁぁぁぁ」
「すっごいエネルギーや!」
わずかな振動と共に列車が加速を始めた。
それを見たポッポはホイッスルを3回吹き、叫んだ。
「出発進行!」
その声と同時に汽笛を鳴らした。
列車はあっという間に速度を上げた。
すぐにポッポの姿が小さくなっていった。
ポッポは姿が見えなくなるまで、ずっと敬礼の姿勢を崩さなかった。
俺達はその姿が見えなくなるまで、手を振った。




