出発準備
「アルガートン様と何話してたんですか?!」
「別に何も。世間話さ」
「せ、せ、せ、せえええええ」
「落ち着け」
「いや~ほんまに仲間やったんですね~」
「おまえ……まさか疑ってたのかよ」
「え?てへへへへ」
「へへへじゃないよ」
なんだかいきなり緩い雰囲気になった。
あいつもそうだがこいつらも相変わらずだ。
そりゃそうか、人間なんてそんな簡単に変わるはずないしな。
ってことは……俺も、何も変わってないんだろうな。
と……いうことは……。
「お前ら、知っての通りだが……」
俺は咳ばらいをし、背筋を伸ばして言った。
「今日は遊びじゃないんだぞ。準備を怠ると……」
「危険ですね!」
「は、はい!」
「分かってますってよぉ!」
そう言った三人の顔は確かに引き締まって見えた。
どうやら、もうそろそろ俺が言うことも少なくなってきたかもしれない。
ま、でもそれは、心構えの話だ。
冒険者ってのは……それができて一歩目だ。
「よし、じゃ、買い物……行くか!」
「はい!」
三人は元気に返事をした。
「まずは、帽子を買うぞ」
俺がそう言うと、三人は首を傾げた。
「帽子ですか?」
イヅナがそう言った。
「そうだ。魔界で生き残るのに重要な事……それは体調管理だ」
「体調管理……」
「まずは体調を万全にしないとどんな技や魔法を持っていようと無意味だ。風邪の時に全力で動ける人間がいるか?いない」
俺がそう言うと三人は頷いた。
「今回でいうとだ、炎天下の作業は、熱との勝負だ。そこをケアしていないと地獄を見ることになる」
かつて北部魔界でモーウールの毛を狩るバイトを真夏にしたことがあったが、あれは地獄だった。
「まず守るは頭部だ。そこを守らないと夜中でも焼けるような思いするし高熱が出る。次に首元だ」
「首元はどうやって守るんですか?!」
「ああ、タオルを巻く」
「ええ?!タオル!?」
「そうだ。あせも吸収してくれるし両得くだ」
「えーでもそれは……」
「何だ?」
「かわいくない……」
「かわいさなんぞは不要だ。どうせ見る奴もいないんだから、身を守るぞ」
そう言うとイヅナは不服そうな顔をしていた。
「ままままま!かわいい帽子買いにいきまひょかぁ~」
レイシーが膨れるイヅナにそう言った。
「ああ、そうだなとりあえず行くか。あとは必要物資がいくつかあるからそれ買って……飯食って夕方くらいにはかえる予定だ」
「おや、今日は、はやいですねぇ」
「明日に向けて休養は十分とろう」
「ほんなら!」
「ああ、行こうか」
俺がそう言うと、レイシーは懐から日傘を取り出して広げた。
「あついからね!みんなで入って行こう!」
レイシーがそう言うと、傘の下に三人寄り添った。
「なぁ、それ逆に熱くない?」
「涼しいですよ~!ね?!」
「え、う、うん!」
「不快じゃないからー、よし!」
「ならいいか」
俺は苦笑い笑いして、歩き始めた。
魔術通りの近くにある冒険者が通う帽子屋がある。
ここの帽子は丈夫で、通気性がよくて、何といっても安い。
しかし、まぁ、男からしたら最高だが……。
えてしてそう言うものはデザインが洗練されたものが多い。
まぁつまりは……シンプルで、機能的で……ダサい。
「かわいくない」
イヅナは店に入るなりそう言った。
「ほあー、すごい」
ドクダミちゃんは、いろんな形の帽子を興味深そうに見ていた。
「ほえーなんか……冒険って感じしますねぇ」
レイシーが店内を見回してそう言った。
店は丸太を合わせたような、小さな店で、古い木が熱されたような独特な匂いがしていた。
「かわいくない……」
「まぁ仕方ない。けど、いい物だから」
「いい物でもかわいくない」
今日のイヅナはどうも意固地だった。
「まぁまぁイヅナちゃん!かわいいの無いかもやけども、似合うの見つけよ!イヅナちゃん自体がかわいいから……かわいくなるよ!」
レイシーのフォローでイヅナはしぶしぶ納得したみたいだった。
ぶー垂れながらイヅナはレイシーと共にいろいろ被っては鏡の前に行ったり来たりしていた。
俺はそれを見て、とりあえず安心した。
「俺も自分のを選ぶか」
そうして俺も店内を物色することにした。
店内は壁一面に様々な帽子がつるされていた。
店の中央には大きなテーブルがあり、そこにも大きな枝分かれした木のようなスタンドが何本も置いてあり、そこにもとにかく商品が並んでいた。
そのため店内は見通しが悪くて、テーブル越しにいろいろ試着しているイヅナの姿があんまり見えないほどだった。
俺はイヅナ達と逆サイドに行って見た。
そこには大きなキノコの傘みたいな帽子をかぶって鏡の前でうっとりしているドクダミちゃんがいた。
「それはダメだぞ」
念のためにくぎを刺す。
「うぇ?!えーうー」
俺の言葉を聞いて、ドクダミちゃんはおろおろしていた。
「気に入ったの?」
「は、はいぃぃぃ……。だ、ダメ?」
ドクダミちゃんは精一杯の愛嬌を出してそう言った。
いつの間にそんなこと覚えたんだ……。
「ダメだ」
この子の将来のためにも、ここは厳しい態度で行かなきゃいけない。
正直言うと少し気持ちが揺らいだが……、俺は心を鬼にして、ドクダミちゃんから帽子を取り上げた。
「うあああ~」
「ダメだ」
俺は確固たる意志で首を横に振った。
帽子屋を出て、他の細やかな物資を買う。
「これなんですかー?!」
アカデミー通りの雑貨屋で見つけた変なにおいのする軟膏を俺はイヅナに塗りたくった。
「ひりひりするんですけどぉ~!」
「虫よけだ。冒険者の死因一位は蚊の媒介する伝染病だ。最重要アイテムだぞ」
「それはわかりますが、なんで今塗るんですかぁ~!」
「相性があるんだよ、こういうのには。いざ塗って見たら肌に合いませんでした~。じゃ大変だからな」
「う、うげぇ~!」
「我慢しろ!ドクダミちゃんを見習え!」
「ドクダミちゃんはなんで平気なの~?!」
「え?うーん。こういうの好きだよぉ」
「ドクダミちゃん匂いには耐性あるからね!あと毒っぽいのもいけるねん!」
「毒はわかるけど、においはなんで~!?」
「あんな汚部屋に引きこもっとるからなぁ!ははははははは」
「汚くないよ!」
「それは無理あるぞ。っていうか、掃除はお前の仕事だろ。誇るな」
「ありゃ~これはこれは!へへへへへ」
「へへへ、じゃないよ」
雑貨屋で備品を買ったら、お次はタオル屋に行った。
そのタオル屋は祭りで特別出店しているようだった。
「ほわぁ~」
「ほわぁぁぁ~」
「ほおうわぁ~」
ふわふわのタオルに顔をうずめて三人は声を上げていた。
「いいにおいする~」
「ふわふわ~」
「これはええもんやぁ~」
「君たちね。いいから選びなさいよ」
そのタオル屋は珍しい売り方をしていた。
まるで布のように、長いタオルをロール状にして、お好きな幅をお好きな長さに切って販売というスタイルだった。
タオルは色とりどりで、イヅナ達の手に乗るくらいの幅から三人が丸ごと包めるくらいの大きなものまであった。
「これは……なかなか面白いな」
興味深くいろいろ見ていると、店員が話しかけてきた。
「お決まりになりましたら、お好みの長さでカットしますよ」
「そうだなー。どれがいい?」
俺がそう言うと三人は思い思いの色を指さした。
「じゃ、これ首に巻いてちょうどいいくらいにお願いできますか?」
「はい。お任せください」
店員は慣れた手つきでタオルを裁断すると、リボンを巻くかのように三人の首にタオルを巻いて見せた。
「思ったよりも、気に入りました」
タオルを首に巻いて、メッシュの入った真っ黒な帽子をかぶり、冷たいオレンジジュースを飲みながらイヅナは言った。
「これいいものです」
「そうだろ?」
俺達は一通り買い物を済ませて、あの店に来ていた。
イヅナとデート中に見つけた、裏通りのプリンパフェの店だ。
今日改めて来店してみると、どうやらこの店は「アル・モーロ」という名前らしかった。
この間、俺達を接客してくれたおねえさんは今日はおらず、代わりに小太りで眼鏡をかけた店長が懸命に働いていた。
「ほえーたしかにええ店ですねぇ~」
「う、うん。静かできれいで……おいしい」
ドクダミちゃんは冷たいレモネードを飲みながらしみじみそう言った。
俺達は昼食がてら、休憩のためにこの店に来た。
ここなら話もしやすいし、これからも使わせてもらおうと考えているから紹介するにもちょうどよいタイミングだっあt。
「にしても驚きですね~。知らんうちにこんな店見つけるなんて!しかも、デート中やって?!」
レイシーがにやつきながら言った。
「うらやましいな~、あたしも大切にされた~い」
レイシーはそう言うと、口をすぼめて、くねくねした。
「やめろやめろ。いい店なんだ、迷惑になることするな」
「二人の美しき思いで……ですもんねぇ!かぁー!見せつけてくれちゃってまぁ!」
「お前ね……」
俺がレイシーの頭を掴んだ時だった。
店の中から、店主が料理をもって現れた。
店主は素朴な感じの男だった。
だが、雰囲気が柔らかくて、なんだか知的な雰囲気を感じた。
「お待たせしました」
店主はそう言うと出来立てのパスタをテーブルに置いた。
「残りもすぐお持ちしますね」
店主はそう言うと再び店の奥に消えて行った。
置かれた皿には山盛りのパスタが乗っていた。
結構量があったが、しかし匂いから察するに……。
「すごいいい匂いしますね」
「ソースに手抜きがないな」
「ほあー、これはエビですか?」
「オマールエビのソースらしい。俺が頼んだ」
「そんなんあるんですか?!」
「イヅナは?」
「私はキラースズメのアーリオオーリオです。キラースズメ……結局食べれてないので」
「それんなもんまであるのか。うまそうだな」
「私はキノコのクリームパスタです」
「それも、いいな」
「あたしは水だこパスタとかいうのにしましたよぉ~」
「それも……いいなぁ……」
「モリー様!食い意地がすごいです!」
「め、珍しいです……モリー様の子供みたいな感じ」
そう言われて、俺は少し恥ずかしかった。
何も考えずに本音でそう言ったからだ。
本心でうまそうって思った。
「え?ああ、そうか?でも、まぁいいことじゃないか」
俺は言った。
「何回も来る楽しみがあるだろ?」
俺は照れ隠しで笑って見せた。
パスタはうまかった。
全員汗かきながら熱々のパスタをほおばった。
「キノコ、おいひい」
ドクダミちゃんは満足げにそう言った。
「キラースズメおいしい」
イヅナも満足げだった。
「タコおいしい」
レイシーも満足げだった。
「タコ好きなの?」
「私ですか?ええ、なんでか昔から好きなんですよ~」
「そうなのか」
「イヅナは肉が好きか?」
「はい!お肉大好きです」
「ドクダミちゃんはキノコ?」
「は、はい。キノコ好きです……」
「そうか……」
「モリー様は何が好きなんですか?」
「え?俺?ああー、酒かな。結構好きなんだ」
「え?そうなんですか?!」
「ああ、普段は飲まないがな。あとはペパロニロールが好きだな」
「なんですかそれ?!」
「田舎でよく食った。というか、毎朝それだったんだ。あれだけは時々食いたくなるな」
「じゃ、逆に嫌いな物は?」
「にんじん……」
「キ、キノコいがい……」
「野菜」
「そうか。わかった」
一通り食い終わると、みんなしばらくは無言だった。
ほあーと息を吐きながら全員腹をさすりながら、宙を眺めていた。
「あー腹いっぱいだな」
「そうですね!」
「レイシーも満足か?」
「はい~、おいしくて満足です~」
「うあー」
「ドクダミちゃんもおなかいっぱいや言うてますよ~」
「そうか。そりゃよかったよ」
「それじゃあ……」
イヅナが姿勢を正した。
それを見て俺も椅子に座りなおした。
「ああ、そうだな。そろそろ明日の……」
「デザートとしゃれこみましょうか……」
「でざーと……!」
「おぅいいねぇ……その提案、乗るで?イヅナちゃん」
イヅナの一言に残りの二人も反応を示した。
「え?お前らまだ食うの?」
「はい」
「でも、今……」
「別腹です」
「そうか……うん。まぁいいさ今日は俺のおごりだ。隙に食ってくれ」
俺がそう言うと三人はにんまりと笑った。
「では!僭越ながら……リーダーである、わたくしが……」
イヅナはそう言うと、立ち上がり店主を呼んだ。
「プリンパフェ四つ!あと紅茶も人数分お願いします!」
イヅナは胸を張って元気にそう言った。
「おいひい」
「おいひい」
「おいひい」
「ほうか」
俺達は運ばれてきたパフェをほおばった。
こういう物を前にすると人間は知能が落ちるらしい。
「よきよき」
「うむうむ」
デザート中俺達が発した言葉はそれだけだった。
「モリー様。この後、家に来てください。お父さんが呼んでます」
一通り食ってミーティングを行った後、俺達は解散することにした。
俺はそれぞれ用意すべき荷物をまとめたメモを全員に渡した。
「いいか。必要最低限でいいぞ。余計な物はくれぐれも持ってくるんじゃないぞ」
「はい!」
三人はそう返事した。
買い物は案外すんなり終わっていたので、ミーティングの後は、今日はこの辺で解散ということになったのだった。
「ごちそうさまでした!」
「ほんなら、また明日ね~」
ドクダミちゃんとレイシーとは十字路のところで別れた。
俺とイヅナは中央に戻って、プントの前で別れようかとした時に、イヅナが俺を家に誘ってきたのだった。
「え?ハクビさんが?俺にまだ何か?」
「あっいえ、普通にご飯ご馳走したいそうです」
それを聞いて俺は少し安心した。
またなんか錆だらけの剣をどこからか入手したのかと思って構えてしまった。
「あっ、あと……私の剣も砥いでほしいです」
「ああ、そういえばそんな約束してたな」
「はい!だから……その、あの、よければですけど……」
イヅナはそう言うともじもじしていた。
「わかった。お邪魔するよ。約束だからな」
俺がそう言うと、イヅナは嬉しそうに笑った。
「では!」
「ああ」
そうして俺達はイヅナの工房に向かった。




