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奴が来る

「だ、大丈夫ですか?!」

初めに顔を覗かせたのはイヅナだった。

「ああ大丈夫だ。こんなの後ろから刺された時に比べれば……」

とは、言いつつ体温がだんだん低くなっていっているのを感じる。

視界も本格的にぼんやりとしてきた。

あーやばいな。

俺はそう感じていた。

死にはしないだろうが確実に落ちるな……。

しばらくして、他の二人が顔を覗かせた。

レイシーもドクダミちゃんも真っ青な顔していた。

「え?え?し、死ぬ?」

レイシーがうろたえていた。

「だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ……」

ドクダミちゃんは言葉が出ないみたいだ。

なるほど……落ちる前にやることが決まったな。

俺は懐からマッチを取り出して、死力を絞り自分を燃やした。

「だ、だいじょうぶですか?!」

イヅナがさっきよりも混乱していた。

「ああ、大丈夫。と言いたいが、これから俺は意識を失う。ただ多分、死にはしないと思う」

俺は言った。

「いいか、俺が落ちたら……イヅナ、おまえ駅まで走れ。そして人を呼べ」

イヅナは無言で何回も頷いた。

俺はそれを確認すると、イヅナに火をつけた。

そして頼んだぞというと、次に残りの二人を見た。

「レイシー、ドクダミちゃんを頼む。俺のことは気にするな絶対ドクダミちゃんを守れ」

「え?そ、それでいいんですか?」

「ああ、頼む」

俺がそう言うと、レイシーは頷いた。

「ドクダミちゃん」

俺はドクダミちゃんを見た。

「息を吸え」

ドクダミちゃんはしゃっくりするみたいに、息を吸った。

「落ち着けお前ら。死ぬわけじゃない」

俺は繰り返しそう言った。

音がだんだん遠く聞こえてきた。

こりゃ長くはもたないな。

「落ち着いて行動すれば……俺達なら何とかなる。だろ?」

俺はそう言うとイヅナに向けて拳を向けた。

イヅナはゆっくりと頷き、拳を合わせた。

その顔を見て俺は安堵した。

大丈夫そうな顔つきだ。

俺は言葉は信じない。

言葉だけなら何とでもいえるからな。

でも、言葉以外のことは強く信じている。

約束をした時に見せたイヅナの顔はそれに十分たるものだと思った。

俺は心配そうに見つめる三人を見ながら、ゆっくりと目をつぶった。


「ヨクモ……」

意識が完全に落ちる寸前だった。

どこかから、あの声が聞こえた。

「ヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモ」

その声を聴いた瞬間、俺の心臓が大きく鳴った。

まるで電気ショックを受けたかのように、落ちかけた意識が戻ってくる。

俺はすぐに茂みに顔を向けた。

そこには……風の球体ができていた。


風が球体になって渦巻いている。

風は周囲の埃と葉っぱを巻き込んでまるで生き物のように唸っていた。

小規模で圧縮された球体だったので、巻き込んだほこりなどで、中心にいる透明なスズメはその形を浮き上がらせていた。

「ヨクモォォォォ」

怨嗟の声が響くと赤い光が二つ、その瞳に灯った。

「あいつ!」

「まだ生きとったんか!」

イヅナとレイシーが戦闘態勢を取った。

「ユルサナイ!」

キラースズメはそう言うと、さらに強力な風を自分の周りに集めた。

それは周囲の物を巻き込んでさらに強大になる。

吹き飛ばすんじゃなくて、巻き込む風。

まだこんな風を起こせるなんて……。

かなりの生命力と魔力だ。

到底キラースズメとは信じられないほどのパワーだった。

イヅナとレイシーは渦巻く風に巻き込まれないように踏ん張っていた。

「イヅナちゃん!」

レイシーは叫ぶと、イヅナの前に出て、仁王立ちした。

さっきまで俺がやっていたのと同じ立ち位置だ。

「レイシーちゃん!」

イヅナはそう言うとレイシーの腰にしがみついた。

「吸い込んでんなら!」

「躱せないだろ!」

イヅナはそう言うと電撃を手に集めた。



俺はその瞬間を見て、違和感を持った。

おかしい。

直感だがそう思った。

こいつは複数のキラースズメを指揮できる知能を持っている。

俺達を罠にかける小賢しさも……。

なのになんでこいつは今……まるで誘い込むかのように……。



俺は反対側の茂みに目をやった。

念のために用心のつもりだったが……。

そこには……さっきと同じように石が浮いていた。



「屈め!」

俺は力の限りに叫んだ。

叫ぶと同時に、俺は最後の力を振り絞り、地面に手つき体を起こした。

えっ?と言ってイヅナが振り返る。

その瞬間背後から石が放たれた。

俺は後先考えずに石の前に体を投げだした。

できる限り全身を丸めて、両腕で頭部をガードして……。

決死の覚悟だった。



石はイヅナ達を狙っていたためか俺の腹部辺りに直撃した。

まるで、ヘビー級のパンチを喰らったような衝撃だった。

俺はあまりの痛みにその場にうずくまった。

「モリー様!」

イヅナが声を上げた。

「くっあ……」

全身から汗が出た。

視界が歪んでいる。

まるで水中にいるかのように音が籠って聞こえる。

全身から力が抜けて、俺は顔面から地面に倒れこんだ。



「モリー様!」

イヅナが俺に呼び掛けている。

しかし返事もできない。

もう指一本動かせなかった。

俺は祈るような気持ちで、目を閉じて耳を澄ませた。

「イヅナちゃん!危ない!」

レイシーの声が聞こえる。

「え?」

その瞬間、暴風が吹き荒れた。

「うっぐぐ!うおーー!」

レイシーが叫んでいる。

吹き荒れる風に冷気が混じっていた。

俺には見ることができないが……この感じ、わかる。

ドクダミちゃんが氷の壁を作ったんだ。

「くっそー!よくも!」

イヅナが叫んで、石が投げつけられた方向に電撃を放った。

同時に、何かが飛び去る音が聞こえた。

鳥の鳴き声が周囲から聞こえる。

動けないからなのか、死が迫っているからなのか、体や気持ちと相反して俺の頭はものすごい速度で動いていた。

そうか。

奇襲要因が一体。

兵士が三体。

司令塔が一体。

五体いたんだ。

初めの奇襲は兵士と奇襲役で行い。

その後兵士は司令塔のもとへ。

奇襲役は常に隠れていた。

司令塔がやられても冷静に、潜んでいた。

それに気が付けなかった。

透明を生かした戦術だ。

魔物のくせに……手の込んだことを……。



「に、にげろ……」

俺は心の中で叫んだ。

もちろん声は出なかった。

「逃げろ……逃げてくれ」

俺は祈る。

しかし、その思いは届かなかった。



俺の心と反するように三人の混乱する声が聞こえてくる。

「ドクダミちゃん危ない!」

「あかん!イヅナちゃん不用意に動いたら!」

叫び声が聞こえたと思ったら、何かが砕ける音がした。

投石で……氷の壁が割られたか。

「あかん!」

「壁が!」

三人は叫んでいる。


にげろ……。


「きゃあ!」

「イヅナちゃん!」

「レイシーちゃん、後ろ!」

「うぐっ」

「まずい」

「ドクダミちゃん!」

「イヅナちゃん!」

「レイシーちゃん!」

「いや!」

そうして周囲が明るく光った。

「イヅナちゃん!落ち着いて!」

「こいつら!こいつらのせいで!」


逃げて……くれ……。

俺は祈ることしかできなかった。

頼む……逃げて……くれ……。


「ユルサナイ」

声が聞こえた。

「コロス」

俺はその声に怒りを覚えた。

「コロスコロスコロスコロス」

こんな奴らに。

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」

ちくしょう。

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」

悔しさだけが募る。

でも、俺の体は……どうしても動かなかった。

聞こえてくるのは、ただ三人の混乱する声と、キラースズメの怨嗟の声。

腹の底から悔しかった。


あの子達は……こんなところで死ぬような子達じゃない。

俺みたいなつまらん男に騙されてこんなところで……死ぬような子達じゃないんだ。


俺は自分を鼓舞する。

立てよモリー、ここで立たなきゃ嘘だろ?

死んでもいいから、立てモリー!

俺は最後の力を振り絞る。

そして立ち上がるイメージをする。

最後に動いてあの子達の盾になるイメージだ。

そして、言うんだ。

「逃げろ」

俺が伝えれば……あの子達は逃げる。

助かる可能性があるんだ。

行け!今だ!立て!

俺は全身に力を入れる。

立て、行け、命を……燃やせ。



俺は目を開けて、地面に両手をつき、そして体を起こした。

「あ、あ、あ、あああああああ!」

俺は叫び、そして……地面に倒れた。

何かが切れた感覚があった。

体が凍り付いたかのように冷たくなった。

だ、だめなのかよ……。

俺は絶望した。

もう音も何も聞こえなかった。


嘘だろ。

嘘だよ。

嘘だと言えよ。


もしも、神様なんてものがいるのなら。

俺の消えかけた命を使ってくれてもいい。

転生なんてものがもしあるなら、そんなのも、もういらない。

俺の命のすべてを使ってもいいから、あの子達を助けてくれ。


そう祈った。


その時だった。

地面が揺れた。

小さな振動だったが確かに俺はそれを感じた。

「なんだ?」

その振動は静かな水面に小石を投げ込んだ時のような、小さな波紋のかけらのようなものだった。

「きのせいか?」

そう思った時だった。

もう一度振動を感じた。

その振動は地面を伝って、確かに俺に届いた。

「なにか……くる?」

その振動は、確かにこちらに近づいてきていた。


なんだ?

俺は消えかけた意識を集中させた。

どんどんどんどん、とその振動はだんだん大きくなってきていた。

なにかがこっちに近づいてくる?

まるで心臓の鼓動のようにそれは規則的に、そして力強く響いていた。

誰かが……くる?

そう思った瞬間だった。

消えかけた俺の意識でもはっきりとわかるくらいの轟音が轟いた。

確かに聞こえたその咆哮……。

それは……馬の嘶きだった。



すぐに車輪が地面を転がる音も聞こえてきた。

俺の心臓が再び動いたのが分かった。

まさか!そう思った時だった。

「見ろよ、ランデル!あいつらだ!」

ブロンソンの声が聞こえた。

「あの風!忘れねぇぜ!俺達を襲った奴だ!」

ブロンソンの声に呼応するように、ランデルが再び嘶いた。



「うおっしゃー!」

馬車の轟音と共にブロンソンが叫んだ。

それと同時にくぐもっていた俺の耳が再び音をとらえた。

「ぶ、ブロンソンさん!?」

「ら、ランデルぅ!」

あいつらの叫び声が聞こえた。

「やっちまえ!ランデル!!」

ブロンソンの勢いのいい叫びが聞こえた。

そして、それに応えるかのようなランデルの嘶きも……。



そして乱闘が始まった。

聞こえてくるのは馬が暴れる回る音。

鞭の音。

鳥たちの混乱した鳴き声。

風の音。

それらが、しばらく聞こえたかと思うと、急に辺りは無音になった。


ど、どうなった?

さっきまでの喧騒のせいか、今は耳鳴りがして……全く周囲の状況が分からなかった。

頼む……。

無事だと言ってくれ……。

俺は藁にも縋る思いだった。

死にかけていてこういうのも変だが、この間は生きた心地がしなかった。

頼むから、無事だと言ってくれ!

俺は心の底からそう祈った。

その時だった。

誰かが俺を抱え上げた。


「よう、兄ちゃん」

ブロンソンの声だった。

「みんな無事だぜ!すぐに医者に見せてやるからな」

ブロンソンは確かにそう言った。

そして……。

「モリー様!」

イヅナの声だった。

「死んじゃヤダ!」

イヅナらしい、元気な声だった。


「モリー様ぁ!」

レイシーの声だった。

「おきたら、いっぱいご奉仕しますからぁ!死なんでぇ~」

ああ、レイシーのいつもの調子だ。


「モリー様ぁ」

ドクダミちゃんの声だった。

「お願い……起きてぇ」

いつも通りの今にも泣きそうな声だった。


「うらやましいねぇ!色男!」

ブロンソンの声がした。

「あんた罪な男だよ、お嬢ちゃんをこんなに泣かしてよ!そんなで死んじまったら地獄送りでも生ぬるいってもんだぜ!」

ブロンソンが言った。

「もうしばらく我慢しろ!10秒で駅まで連れてくからよ!ぜってぇ死ぬんじゃねぇぞ!」

ブロンソンはそう言うと俺を持ち上げて馬車に放り乗せた。


「嬢ちゃんたちも乗んな!」

「はい!」

元気な声が聞こえると、馬車が揺れたのを感じた。

もう俺には音も光も何も感じなくなっていた。

そんな俺が最後に感じたのは、小さなぬくもりだった。

三人が俺の手を握っていた。


俺はそのぬくもりを感じて……完全に意識を失った

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