あの日の夢
「なぁ完全に統率の取れた魔物っていると思う?」
ウーティが突然そんなことを言い始めた。
「うん?突然だね。そうだな……そんなこと考えたこともなかったね。統率の取れた魔物か……」
アルがそれを聞いて考え始めた。
「おうよ!もしかしたらそういうのもいるかも知んねーからな!」
「うん。面白い発想だね。そうだな。例えば、キラースズメなんてのはどうだろうか?彼らは個体のピンチを察知すると駆けつけて闘う」
「いや、それは俺のイメージとは違うなぁ……もっとこう作戦持ってる感じ」
アルの言葉にウーティはあやふやな感で返した。
「うん……作戦か」
アルがそれを聞いて再び考え始めた。
ウーティの雑な話題なんて適当に聞き流してりゃいいのにな……。
きちんと考えてやるなんて、優しいんだな。
「例えばアーミーアントはどうだろうか。群れで行動し、餌の為にほかの魔物を襲う」
「それもそうだけど……なんか違うんだよな。もっと頭がいいというか……」
「頭がいい……」
「そうだよ。そういう本能的な奴じゃなくてさ。相手を見て作戦練って罠にはめるみたいな」
「罠……それはつまり狩りをするということかい?」
「狩り!そうだなぁそのイメージが近いかもな。やるじゃん大将」
「ははは、ありがとう。でも、なるほどね。確かにキラースズメやアーミーアントは防衛本能で攻撃しているように思える。狩りかと言われれば違うように感じるね」
「そうだよ。あいつらは、自ら狩りに行ってるんじゃない。生活圏内に入った奴を攻撃している。ただの本能なんだ」
「うん。言われてみれば確かにそうだね」
「それとは違うんだ。もっと明確な意識を持って相手を狩る。そういう魔物だ」
「それは、つまり人間と同様ということだね?」
「そうだ!」
「うーん、どうだろうね?」
「俺はいると思うぜ!まだ発見されてねぇだけでな。例えばほらサルの魔物とかさ」
「どうですかねぇ……」
ステラがそれを聞いてつぶやいた。
「お?なに?お嬢ちゃん、否定派?」
ウーティがにやにやしながらそう言った。
ステラは苦虫を噛んだような顔をしていた。
口を滑らせてめんどくさいのに掴まってしまったって感じだった。
ステラはため息をつくと、口を開いた。
「魔物は動物が変容したものです。動物の知能では人間のように統率の取れた動きができるとは思えません」
「だからぁサルだよ。サル」
「サルでも一緒です。縄張りを広げたり移動することは確かにあります。ですが人間のように考えて狩猟する動物はいません」
ステラは断言した。
「確かに一理ある」
アルがステラの意見に同意した。
「おいおいまじかよ。さっきまでこっち派だったのに!じゃあやっぱいないっての?」
「いや、狩りをする動物はこの世界に存在していた」
「そうなの?」
「ああ、いる。例えば狼なんかがそじゃないかな?」
「狼は単独行動のイメージですがね」
「うん?まぁ確かに」
「おいおい大将!頼むよ」
「でも、群れで狩りをする動物はいるよ」
今度はアルが断言した。
「だから狩りをする魔物がいる可能性はあると思う」
それを聞いたステラがため息をついた。
「そんなの本当にいるのですか?」
「いるさ」
アルは自信満々だった。
「そんな動物聞いたことがありませんが」
「あるだろ?」
「ありませんよ」
「あるはずさ」
「そうですか。それで?」
「それでってのは?」
「名前は?何ですか?その動物の」
ステラは嫌気がさしたって感じでそう聞いた。
アルはにこりと笑って言った。
「ああ、その動物の名前は……」
目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。
生き……てる。
俺は自分の腕を見た。
あるな。
そして自分の頬をつねった。
「いててててて」
ちゃんと痛かった。
夢でもないか。
俺は気絶する前のことを思いだしていた。
確か、絶体絶命の時にブロンソンとランデルがきて助けてくれた。
その後荷台に乗せてもらって……。
俺は周囲を見渡した。
周囲の光景はどこかの病院の一室って感じだった。
ちょうどその時、どこか遠くから汽笛の音が聞こえてきた。
どうやら、ここは駅の医務室のようなところのようだった。
助かったんだ。
俺は状況を理解するとほっと一息ついた。
一息つくと、今度は別のことが気になった。
「あいつらは無事か?」
恐らくは大丈夫だろうと思う。
俺は荷台に乗った時に確かにあいつらのぬくもりを感じていた。
だから、きっとあいつらも駅にいるはずだ。
俺はそう思うと、探しに行くために立ち上がろうと、体に力を入れた。
途端に全身に筋肉痛のような痛みが走った。
「あいっ!」
痛みのあまり変な声が出た。
まだ……傷は癒えてないみたいだ。
立ち上がるのは無理か……。
俺はベッドに横たわり、ため息をついた。
まぁ九死に一生だったんだ、しょうがない。
ブロンソンが助けに来た時、死に際に見る都合のいい夢だと若干思っていた。
そう思えば、こうやって助かっただけども恩の字だ。
高望みはよそう。
それに心配しすぎだ。
あいつらの雄姿は見たはずだ。
あいつらが戦う姿は立派な冒険者だった。
最後は少し危うかったが……まぁ信じてもいいレベルだと思う。
「そうさ、少しは信じてやろう」
俺は自分にそう言うと、あきらめてベッドに横たわることにした。
夢と言えば……。
俺はさっきまで見ていた夢の事を思い出していた。
あれはいつの冒険のことだっただろうか。
あいつらはあの後もそういう魔物がいたらどういう攻撃をしてくるかとか、対処法はどうかとか話していた気がする。
俺はよくこんな、寝る前の子供がするくだらない、たられば話みたいなことをこんな真剣にできるなと思っていた。
相当暇なのかバカなのか……なんて考えてたけど……。
「もう少し真剣に聞いときゃよかったかな」
今、思えばバカは俺の方だった。
魔界じゃ何があるか分からないのに。
可能性を論じるのの何がバカなことか。
「ウーティ……統制の取れた魔物はいたぞ。ま、キラースズメだったがな」
俺はそう言うと目を細めた。
今回遭遇したのが俺達じゃなくてあいつらなら……どうしただろうな。
きっと目を輝かせて……いろいろやるんだろうな。
そのいろいろは今の俺にはまったく想像がつかない。
けども……最後には必ず勝つ。
あいつらはそういう奴らだ。
「もう少し真剣にいろいろ聞いときゃよかったな」
結局いざその状況になって見たら、俺にはなんにも策は浮かばなかった。
バカみたいに同じ作戦を繰り返して……結局はやられてしまった。
こうしていると本当に自分の無力を感じる。
でも、後悔しても仕方がない。
これから……変えていければいい。
俺達は……生きてるんだ。
生きてる限り、やり直すんだ。
それだけだ。
俺は真っ白な天井を見上げた。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
目を閉じて体をベッドに預ける。
五感を切ると、背中がじんじんと熱を持っているのを感じた。
右手の痛みはほとんどないことから考えると……結構こっぴどくやられたんだな。
耳を澄ませると遠くの方から鉄道の汽笛が聞こえた。
さっきよりもはっきりとそれは聞こえた。
やはり駅なのかここは。
一瞬目を開けて、外の様子をカーテン越しに見ると……陽は明るかった。
と、いうことは……最低でも一晩は寝ていたようだ。
俺は懐をまさぐった。
それで気が付いたが、俺はどうやら入院着のようなものに着替えさせられていた。
もちろんマッチ棒なんてなかった。
まぁそりゃそうか。
あの服はどろどろだったし、血まみれだろうし……。
っていうか、あの夏服……卸したてだったな。
俺は再びため息をついた。
なんていうか、運がないな。
まぁ運がないのは昔からだ。
そう思ったが、今回助けられたことを思うと運があるのかもな。
なんて思って、俺は思案した。
そうだよ、運がないなら死んでいた。
俺には運があるのか?
嫌それは無いと思う。
運を持ってるやつを見たことがあるが、奴らは信じられないくらい……それこそ俺じゃ到底あり得ないような出来事が舞い降りていた。
それを見ると俺は確実に運がないはずだ。
俺は逆に運がない奴の姿も見たことがある。
誰にも助けられずに、悪くもない奴が……転落することもあった。
それを考えると俺には救っている人がいる。
ドーソンさんや、ポッポ、ブロンソン、シルアさん、そしてイヅナ達。
そこで俺は気が付いた。
ああ、そうか。
ドーソンさんのところに行ったのは俺が田舎を飛び出す覚悟をしたからだ。
シルアさんやポッポに出会ったのもイヅナ達と共に行くと覚悟したから。
イヅナ達と出会ったのは思い切ってあいつのPT募集に飛び込んだからだ。
俺を助けるものは……俺の運を運んでくるものは……。
いつだって俺が覚悟を決めて行動したときだけだった。
「ブロンソン……助けてよかったな」
俺はそう言うと、大きく息を吸い、全身の力を抜いた。
ベットの上で目をつぶり、数字を数える。
意味のないことを考えるとよく眠れるからだ。
1、2、3、4……。
窓の外から、蝉の声が聞こえる。
その喧騒が今は逆に心地よかった。
窓から風が吹き込む。
ああ気持ちがいい。
5、6、7……。
遠くから駅員の話声のようなものが聞こえる。
何やら騒がしそうだ。
8、9……。
完全に意識が闇に溶けてきた。
ああ、寝れる。
そう思った時、外からまた風が吹き込み、そして……。
「おわあぁぁぁぁぁぁ」
ドクダミちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
「うぐっう!」
俺の混濁した意識は一気に現実に引き戻された。
「あかん!」
レイシーの声が聞こえる。
「ドクダミちゃんが大変なことになっとるぅぅぅ!」
そして、思いっきり地面を蹴る音がした。
外がどうなっているかは分からない……。
が、どうやら、ドクダミちゃんが大変なことになっているようだ。
「うばぁああああ」
叫び声は続く。
「何それ!面白そう!変わって!」
今度はイヅナの元気な声がした。
どうやら、ドクダミちゃんが大変なことになっているが、イヅナからしたら面白そうなことが外で起きているようだ。
俺は窓をみた。
きっとすごい呆れた顔をしていたと思う。
一体何をしているんだ!
俺は見えもしないのにもぞもぞと頭を動かしてどうにか片鱗でもつかめないかと抗った。
しかし、当然外の様子は分からない。
じれったい……くそ!覚悟するか。
俺が痛みを覚悟で立ち上がろうとすると、外から三人の騒ぎ声と、馬の嘶く声が聞こえた。
あいつら……馬で遊ぶのは危ないぞ!
俺は完全にいてもたってもいられなくなっていた。
体を起こそうとするが、やはり痛みで力が入らない。
それにとても腹が減っていた。
これじゃ、火事場の力もでやしない。
俺は何か食うもんがないか周囲を見た。
すると窓と反対側に、何かバスケット籠のようなものが置いてあるのが見えた。
俺はそれに手を伸ばす。
中身は見えないがつるつるとした感触が腕にはあった。
これは……リンゴだな?
俺はそれを籠からとると、上着で軽く皮を拭くとそのままリンゴを口に運んだ。
水水しい触感が口いっぱいに広がる。
うまい。
栄養素がそのまま溶けて体に浸透しているようだった。
みるみる体に力が戻ってくるのを感じた。
一口、二口……そしてあっという間にリンゴは無くなってしまった。
俺は再び籠に手を伸ばし、もう一つリンゴを掴むと無我夢中でむさぼった。
そしてもう一つ、もう一つ、次々籠のリンゴを平らげた。
6個ほど食ったところで籠は空になったようだった。
もうないか……そう思って俺は籠を漁ってみた。
すると、何かが俺の手に当たった。
乾いた……木の箱のようなものだ。
俺はそれを指ではじいてみた。
するとそれはかさっという乾いた音を出した。
これは……。
俺は思わず微笑んだ。
「病人に差し入れするもんかね?」
俺はそう言うと籠に最後に残ったマッチ箱を取り出した。
二本のマッチを擦る。
陽の中でも明るく灯がともる。
俺には太陽よりも美しく見えた。
「通り中に火をつけるなんてさ……そんな野暮なことはしないさ」
マッチ棒の先端に灯るからいいんだ。
この今にも消えそうだけど、全力で自分を燃やしている感じがいいんだ。
マッチが半分まで燃えた位で俺はマッチを宙に放り投げた。
そして左右の掌にひとつずつ、火を持ってきた。
俺は一つを飲み込み、一つを自分につけた。
体の底から活力がみなぎるのを感じた。
もう、背中の痛みも消えている。
「分かってますよ。無理はしません」
俺は誰ともなく、誰かにそう言った。
「ただ、少し、お散歩するだけですからね」
そう言うと、俺はベッドから勢いよく飛び起きた。




