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走れ!

俺は走った。

火もまとわずに生身で走った。


昨日の酔いが残ってはいたはずだが、俺の足取りは軽かった。

まるで羽が生えたかのように進んだ。

以前走った時は、火がついていたが、その時よりも軽やかな気分だった。

こんな気持ちは初めてだ。

すれ違う皆が俺に怪訝な顔を向けてくる。

 

なんだ?ああ、俺笑ってんのか。

それに、こんな真夏に走る奴があるかよな。

そういえば俺着替えてないや、きたねー格好だし、どうも匂うかもな。

だけど、そんなの構うものか。

俺は行かなきゃいけないんだ。まっすぐに全力で。


もう迷う必要もない。






「モリー様から連絡が来てないって……いつから?」

「うん。昨日からかな?私ね、一日一通は手紙を書いていたんだけどね。それまでは絶対返事も来てたんだけど……」

「今回はなかったんや」

「うん、でも、お忙しいだろうし、そう言うこともあるかなと思ってた」

「でも、今日全然来ないのを見て……見捨てられちゃったんだなって……」

「そんなことないよ!」

「そうやで!見捨てられる理由がないやん!」

「で、でも、私いろいろ迷惑かけてただろうし、手紙もうっとうしかったのかも。元々無理やり誘ったものだし、もしかしたら別のお仕事が入ったのかも」

「そんなことないよ……」

「で、でも……」

「大丈夫だよ。イヅナちゃん。行こう」

「え?」

「行こうよ!もしかしたら何かあったかもしれないしさ。私達の助けが必要なのかもしれない」

「ドクダミちゃん……」

「そうやで、イヅナちゃん!らしくないで!いつもなら一人で走っていくのに!」

「で、でも……」

「大丈夫だよ。みんなで行こう」

「そうやで、行こう!」

「みんな……う、うん!行こう!」






ビーガー通りを飛び出し、俺は中央へ急いだ。

途中中央行の馬車とすれ違ったが、俺はその横を素通りした。

不思議な気分だ。

今の俺はいつでも倒れれそうなくらいなんだけど、どこまでも走ってけそうな気もしている。

馬車とすれ違う時何人かは眉をしかめて何人かは鼻をつまんでいた。

でも俺は気にしなかった。

今は一秒でも早く……行かなきゃいけない。

俺がバカをして、後れを取ってしまった。

それはもうしかたがないけど、まだ……間に合うはずだ。

俺は一心不乱に走った。



中央はすごい人通りだった。

北部魔界の閉鎖が解除されそうな雰囲気を感じたのか、みんなが戻ってきたみたいだ。

いや……それ以上だな。

以前よりも人がいる気がする。

俺は人波に少し気おされたが、一呼吸置いて、駆けだした。

みんな俺にいい顔はしなかったが、俺は気にしなかった。

大体……もうそんなの今更さ。

周囲なんて今はもうどうでもいい。

俺はあいつらに会わなきゃいけない。



広場を突っ切り俺は通りの十字路へ駆けて行った。

アカデミー通りと魔術通りが交差する十字路。

その手前には先日まで、冒険者通りの前でとおせんぼうをしていた衛兵が道の脇に椅子を置いて腰かけていた。

俺は走りながら、衛兵に一礼し、先を急いだ。

一応こいつらには、何度か世話になったからな。


「おい、モリー待て!」

通り過ぎようとする俺を衛兵が呼び止めた。

俺は足を止めて振り返った。

衛兵を無視したら後で何言われるか分からないからここはおとなしく従うが吉だ。

だが気持ちが逸っているから足踏みは続けていた。

「何か用か?済まないが、今急いでるんだ!」

足踏みしながら俺は言った。

「それじゃあな!」

そして、そのまま走り去ろうとした。

「おい待て、お前なんだその恰好は。さすがにそんな恰好した奴を通すわけにはいかない」

「わかった、向こうで着替える。おつかれさん!」

俺はそう言うと、そのまま衛兵を無視して走った。

背中から、呼び止める声がしたが……多分気のせいだろうと思う事にした。






「おいおい、あいつ通して良いのか?兄者よ」

「追いかけえるべきかな?弟よ」

「うーん、あいつは不審者だ。でもポートマルリンカーさんの関係者っぽいからなぁ」

「それなんだけどさ、兄者よぉ。やっぱり怪しいよな」

「弟よ。お前も、そう思うかい?」

「そう思うだろ、普通さ。だってさ、あいつ最低な冒険者だぜ?いいうわさなんて何も聞かないじゃないか」

「そうだな」

「なのに、あのポートマルリンカーさんと知り合いっておかしいよな。それにいつも一緒のあの女の子も何者なんだろうな?」

「ポートマルリンカーさんのご息女のお友達らしいぞ」

「そうなのかい?兄者よ」

「そうなのだよ、弟よ」

「なるほど、で?その事あいつはどういう関係なんだ?」

「それは分からないけどよ」

「もしかして、あいつ……変態……なんじゃないか?」

「可能性はあるな」

「通報した方がいいんじゃないか?」

「いや、でも、ご息女はあのシャリオン校に通う才女らしいぞ。それにあの家政婦がいる家だぞ?そう簡単に不審者を家に上げるとは思えない」

「確かになぁ……、あの鬼メイドのシルア・モーキンスが居いるもんな」

「そうだ。だから……とりあえず俺たちは、危険物を持ち込んだりしていない限りは通すしかない。権限もないしな」

「歯がゆいな。俺の見立てでは、あいつは良く見積もっても、何かの犯罪に加担していると思うぞ」

「確かにな。だから俺達だけども注意深く見張っていよう。何かあれば……すぐに走っていくぞ!」

「おう!」






十字路もまぁ人が多かった。

俺は、比較的に人通りが少ない魔法通り寄りに走った。

「通ります!通りますよ~!荷物を運んでるので!急いでます~!」

流石に衛兵に止められたから、俺はこれ以上不審に思われるのもさすがに良くないと思った。

なので、急いでますって雰囲気を出して、一声かけるようにした。

よくよく考えたら、俺だってこんな良く分かんないでかくて汚い奴が走ってたら嫌な気分になる。

目立つのはしょうがないけど、嘘でもそれっぽい理由をきちんと言わないと、さすがに心配になるとおもう。

そりゃそうだよな。

他人の目線に立ったら簡単にわかることだ。

気が付くの遅いと思うけど以前なら、まぁ気が付かなかったと思う。

それで通報されて……恐らく、シルアさんには迷惑かけただろうなと思った。


荷物を持っているそう言うだけで、意外とみんな受け入れてくれたみたいで、道を開けてくれた。

話せばわかるんだな……。

まぁ完全に嘘でもないし……少し悪い気はするが、すまない。

これは俺だけの事じゃないんだ、手段を選んではいられないんだ。

許してほしい。

俺はでかい体をなるべくぶつけないように、人の流れの中に身を投じた。

人通りの激しい場所を何とか抜けてら、俺はすぐに冒険者通りの入り口に向かって走った。

その時だった。

通りに横断幕が張ってあるのが見えた。

「八月十日、蛍灯祭」

横断幕にはそう書いてあった。

蛍灯祭?今年は中止かと思っていたが……やるのか。

それでこの人通りか、それなら合点がいく、そう思った。



目を離したのはその一瞬だけだった。

一瞬でも……事故を起こすには十分な時間だった。


俺は横断幕から目線を切って、前を向いた。

その瞬間目の前に本を読みながら歩いている女の姿が見えた。

俺はぎょっとした。

こんな人多いところで、本読むなよ!

これは躱せない。

俺はぶつかる覚悟をした。

問題があるとしたら俺がでかいということと……どう見ても、こいつは……。

今からぶつかるこの女は……。


「危ない!」

俺は咄嗟に叫んだ。

「え?きゃあ!」

女は本から目線をこっちに向けて悲鳴を上げた。

俺はできるだけ減速したが、健闘空しく俺と女は地面に倒れた。

「すまん。よそ見してた」

「ええ、大丈夫です。私の方こそ、すみません。よそ見を……」

そう言えば……前もこんなことあったな。

なんて急に思った。

まぁ、あの時はこいつの意識はなかったが、今はばっちりと目が合っていた。

「モリー……さん?」

「よぉ、ステラ」

気まずい空気が流れた。


俺は素早く立ち上がり、落ちていた本を拾うと、ステラに手渡した。

ステラは呆然とした感じで、それを受け取った。

俺はステラに手を差し伸べる。

「ああ、はい」

そう言うとステラは手を取って、立ち上がった。

「怪我無いか?」

俺が聞く。

「え?ああ、はい。大丈夫です」

「そうか!よかった。すまなかった。それじゃな」

俺はそう言うとその場を立ち去ろうとした。


「いや、待ってください!」

ステラが叫んだ。

「あなた何やってるんですか?そんな恰好で、こんなところで!」

ステラが俺に詰め寄ってきた。

「これには事情があっただな」

そういう俺の呼気からアルコールの匂いを嗅ぎつけたのか、ステラはすべてを理解したような表情を一瞬見せた。

そして俺の姿をしたから上へ見ると、軽蔑の眼差しを向けた。

「あなた……最低ですね。まさか、まだ懲りてないのですか?」

「おっしゃる通りだ」

「開き直るのですか?」

「なぁ!ステラ!」

俺はそう言うと、ステラの肩をつかんだ。

ステラはびくっと体を震えさせた。

「すまなかった」

俺は頭を下げた。

「あ、謝ったからと言って……」

「そうだよな!だけどさ、俺あいつらと冒険に行きたいんだ!」

俺はまっすぐそう言った。

「いや、ですから……」

「お前も、そうなんじゃないか?大切に思ってる人がいるだろ?」

「な、何の話ですか?!」

「冒険してほしくない人だっているだろって!心配してくれる人!」

「そ、それは……そうですが……」

「でも、お前も冒険に行くだろ?」

「わ、私の場合は……!」

「一緒だよ!」

俺は言った。

「お前もあの子達も大切なんだ!」

何か言葉足らずだと思った。

というか自分でも何が言いたいのかは分からなかった。

「な、なにをぉ……?」

ステラも困惑してた。

「あーつまり、今はあれだけど、でも、あー、とにかく見ててくれ!」

俺はまっすぐにステラの顔を見たそう言った。

「絶対に帰ってくるから。絶対に!」

俺は勢いに任せた。

「だから、待っててくれ」

俺はそう言った。

「……は、はい」

ステラはもう何が何だか分からない様子だった。


「じゃあな!気を付けてな!」

俺はそう言うと、背中を向けて走り出した。

俺はちらりと、肩越しにステラの方を振り向いた。

ステラはその場に呆然と立っていた。

「そうだ、ステラ!」

俺は立ち止まった。

言っておかなきゃと思ったからだ。

「この間はありがとう」

「は?な、なんですか急に……」

「俺さ、冒険者向いてないと思う。冒険に行く資格もなかったと思う。お前のおかげでそれが分かったんだ」

「そ、そうですか……」

「でも、俺、やっぱり、それでもあいつらと冒険に行きたいんだ」

「いまさら、何を!」

「だから見ててくれ!」

「はぁ?」

「必ず帰ってくるから!そんで証明する。俺もできるんだってさ!」

「あ、あなた……本当にさっきから一体何を……」

「そういうことだ!」


俺は一歩的にそう言うと、また、背中を向けて走り出した。



大きな男が走り去っていく。

あの人は一体なんなの……?

正直、私も先日は言い過ぎたと反省していた。

それでも、しょうがないかと私は思っていた。

それほど、あの人の態度は最悪だったと思った。

なのに、なんなの?昨日の今日で。

まるで人が変わったかのような態度で……。

人間そんな簡単に変われたら苦労なんてありません。

あの人はそう言う事を理解していない人だと思ってます。

そしてそれは事実でしょう。

今までのやり取りでそれはもう明白です。

「無責任な事ばっかり……言って」

私は憤っていた。

「何かあったら、責任なんて取れるはずがないじゃない……」

無責任な行動だと思った。

「……」

だけど、私にも心配してくれる人は、もちろんいる。

冒険してほしくないと……思っているのかな?

でも、それとこれは話が違う。

私は大人だし、ライセンスもある。

認可された冒険者だ。

でも、あの人はグレーゾーンを走っている。

荷が重い。

あの人には無理だ。

そう思う。

だけど……。



私はあの人が、走り去って行った道を見た。

「あの人、あんな顔……してたかしら」

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