先生とモリー様
綺麗だなって思った。
誰もいない校舎。
窓から差し込む昼の陽光。
それに照らされて歩くナオさんの姿。
まっすぐで、迷いがなくて……その姿が、本当に綺麗だなって、そう思った。
ミクさんもああなっちゃうのも分かるなぁって……ちょっとそんなことを思った。
「ぎゃー!冷たいです!ポル先輩!」
急に廊下に絶叫が響いた。
「目ぇ覚めた?!」
「覚めました!覚めるに決まってますって!」
「ほんと?!じゃあ、何でもしていいならナオちゃんと何する?!」
「え?!なんでもですか?!」
「なんでも!」
「じゃ、じゃあ……一晩……」
「はあぁぁーい!」
「冷たいです!水をかけないでーーー!」
廊下の先から叫び声が響いてくる。
ナオさんは声を無視して歩く。
ナオさんは何事も無いかのように、角を曲がって、階段を下って行った。
ミクさんが少し心配だったけども、私もそれに続いた。
「まだ覚めてない!」
階段を降りても声が聞こえて来る。
「覚めてます!もう覚めてます!」
「ほんと?!じゃあ、何でもしていいなら~?!」
「も、モデルをお願いしたいです!」
「モデル?!なんの?!」
「デッサンです!」
「デッサン?!なんのデッサン?!なんでもいいよ?!」
「な、なんでも?じゃ、じゃあ……ヌー」
「ああああい!」
「ぎゃーーー!そんなの誘導尋問じゃないですかー!」
階段を降りても、悲鳴はずっと聞こえて来ていた。
一階まで降りて門を開き、ナオさんは外に出る。
私もそれに続く。
外に出て、門を閉めると、ようやく声は聞こえなくなった。
「はぁ……」
外に出るなりナオさんは深くため息を吐いた。
「まったく……」
ナオさんは頭を抱えて、首を横に振った。
その気持ちはよく分かる。
耳をすませばまだ微かに声が聞こえてくる。
なんていうか……とても元気だ。
「あのさ」
ナオさんがこっちを向いた。
「あっ、は、はい……」
「あいつら、毎日あんな調子だから」
「う、は、はい……」
「あんたは止めてね。今は誰もいないからいいけども……苦情が出たら部室も無くなるかもだからさ」
「あ、は、はい……が、頑張ります」
私がそう言うと、ナオさんはまたため息を吐いた。
そして、言った。
「鍵……」
「え?」
「ここ。玄関に植木鉢あるでしょ?この下に入れてる」
「あ、はい……」
「初めに来た人が開けるルール。で、最後のやつが閉めてここ入れる。分かった?」
「あ、はい……」
「ま、大体ミクが鍵係だけど」
「そ、そうなんだ……」
「私たちが帰らないとあいつ帰らないから」
ナオさんはため息を吐いて、そう言うと、再び歩き始めた。
ため息を吐くのは……苦労人の証だ。
モリー様を見てて、そう思った。
だから、きっとそうなんだと思う。
「うん……分かった」
私は返事をして、ナオさんについて行く。
ナオさんは歩きながら話を続けた。
「でさ、校門が7時30に開くんだけど、先生が来るのは8時以降。で、私たちの部活は先生が来るまで部室に入っちゃダメだから」
「そ、そうなの……?」
「危険物を扱っているから先生がいない間の活動は禁止されてる」
「ああ、そういう……」
「だから、基本は8時以降に部室前集合。8時30分開始ってことにしてる」
「はい」
「それまでに来てくれればいいから」
「あっ、は、はい……」
「ちなみに、顧問はヒルッツェベルガー先生だから。今日は会議の方でこっちにはいないけども、明日はいると思うから、見かけたら挨拶しといて」
「は、はい。えっと……ヒルツベルガー先生?」
「ヒルッツェベルガー先生。知らない?超変人」
「し、しらないかも……」
「ふぅん。あのさ、名前間違えないでね?名前間違えると拗ねるから、あの人」
「そ、そうなんだ……」
「あーと……そうだ」
ナオさんはそう言うと、ポケットから小さな手帳のようなものを取り出した。
手のひらに乗るくらいのサイズで……猫の柄が描かれていた。
ナオさんはそれを開く。
中には小さな紙が入っていた。
あれは……名刺?
あれ……名刺入れなんだ……。
「これ」
ナオさんはそう言って、名刺入れから一枚取り出し、私に手渡した。
「あ、ありがとう……」
私はそれを受け取った。
「こ、これは?」
「私らの名刺」
「名刺?」
「そ。まぁ、配る用。そこに私らの部活名とか連絡先とか書いてる」
「はぁ……」
「そこに先生の名前も書いてるでしょ?覚えといて」
「あ、はい……って、え?」
「なに?」
「も、もしかして……こ、この……上の?」
「そう」
「これ……なんて読むの?」
「ん?コールスターティンだよ」
「コール……スター……」
「コールスターティン・アーマロリエ・フォン・ブルーシュバック・アマスロ=ヒルッツェベルガー。覚えた?」
「うっ……が、頑張ります……」
「ま、天才なら余裕だよね?これくらい」
ナオさんはそう言って、冷たい笑みを浮かべていた。
正門の道まで歩いていく。
遠くの方から学校の鐘が鳴るのが聞こえて来た。
近くに立っていた柱時計を見てみると、もう13時を過ぎていた。
「もうお昼過ぎ……?」
「はや。おなか減ったな~」
ナオさんはそう言って吐息を漏らした。
「か、会議……ずいぶん長かったね」
私がそう言うと、ナオさんは前を見たまま言った。
「まぁね。あ、先言っとくけども、うまくいった」
「そ、そうなんだ……」
「てか、何の会議か知ってる?」
「えっと……品評会の参加の許可を……」
「そう。で、とりあえず参加はOKってことになった」
「そ、それはよかった……」
「……だから、もう引けない」
「……」
「あんた、やるって言ったよね?」
「う、うん……」
「なんて……別に、変に考えないでいいから。やるのは私たちだし」
「あ、う、うん……」
そこから先、ナオさんは何も言わなかった。
ただ、まっすぐに歩くだけだった。
無言の時間が続く。
道を進んで、正門まで続く道まで出た。
道には生徒が何人か歩いていた。
マレットやラケットを持っているのを見るに、部活帰りなのだろうと思った。
そのうちの何人かはナオさんに気が付いて、挨拶をしていた。
同級生ではないけども……知り合いなのだろうか。
私はこっちを見られないように、どこか他所の方を見ていた。
生徒たちは不思議そうな顔をしていたけども、私にも挨拶をしてくれた。
「あっ、ご、ごきげんよう……」
私は挨拶を返した。
目は見れなかった。
生徒たちは苦笑いして、通り過ぎて行った。
「それさ、人見知り?」
ナオさんは吐き捨てるようにそう言った。
「う、な、なんていうか……後ろめたさが……」
「なにそれ?」
「わ、わかりません……」
私がそう言うと、ナオさんはため息を吐いた。
「ま、いいや」
ナオさんは、ふいっと顔を背けて歩き始めた。
気まずい。
非情に気まずい。
私はナオさんの後ろを歩く。
ナオさんは何を考えてるのか分からない。
私はきょろきょろと周囲を見まわす。
気まずいし、誰か見ていないか気になったからだ。
きょろきょろしていたら、異様な光景が目に入った。
広い校庭を突っ切った先に校舎が見える。
そこは研究課程の校舎で、普段私たちはいくことのない場所だ。
その上、不登校だったから、どんな場所だったかなんてわからないんだけども……。
でも、一目で異様だってことが分かった。
窓が割れているからだ。
校舎の三階、そこの真ん中、二教室分の窓が綺麗に割れている。
窓ガラスのあったであろう場所には、今、無骨な木の板が張り付けられているだけだ。
その木の板には大きく黒いバツ印が描かれていた。
窓が割れるくらい、運が悪ければある話だと思う。
けど、全く修理されていないし、する様子も無いのはおかしい。
周囲の状況から見ても、数カ月放置されているように見えた。
「ねぇ、何見てんの?」
ナオさんの不機嫌そうな声が聞こえて来た。
はっとして、振り返ってみると、ナオさんが少し離れたところに立っていた。
「あっ……す、すみません!」
私は慌ててナオさんのところまで駆け寄った。
ナオさんは怪訝そうな顔で、私が見ていた方角を見ていた。
「ああ……あれ?」
ナオさんが割れた窓を見て、そう言った。
「あれは……何があったの?」
「ん?事故だよ」
「事故?」
「そ。なんか魔物が暴れたんだってさ」
「え?魔物?!」
「そう。なんか教授がやばい魔物を連れてきちゃってて……ミスって暴走したんだってさ」
「それ……どんな魔物だったの?」
「さぁ?普通に授業中だったから見てない。すぐに避難することになったし」
「そ、それ……どうなったの?」
「偶然、冒険者が視察に来てたからその人が退治したってさ」
「そうなんだ……でも、どうして窓を直してないの?」
「なんか、魔物の毒?かなんかが充満してるんだって。それが消えるまで誰も近づけないらしいよ」
「そ、そんなに強力な魔物だったの?」
「そうなんじゃない?その教授、死んだらしいし」
「え?死んだ?」
「らしいよ。ま、聞いた話だけど」
「その教授の名前って……もしかして、ドルビレイ先生?」
「ん?なに?知り合い?」
「ドルビレイ先生……なの?」
「あー確か、そんな名前だったかな?もう何カ月も前だから覚えてない」
「何カ月も前……?」
「10月か……9月の後半くらいだったかな?」
9月の後半?それって夏休み明け?
つまり……南部魔界から戻ってすぐくらい?
「知り合いなの?」
「な、南部魔界に渡るときにご一緒したの。帰りも一緒だった。先生がいないと渡ることもできなかったかも……」
「ふぅん。そうなんだ」
「し、死んだの?」
「そう言ってたよ。残念だね」
ナオさんはそう言うと、ふいっと顔を背けた。
「気になるなら、戻って先生にでも聞いてみたら?」
「あ……う、ううん。きょ、今日はやめておく……」
「そう。じゃ、行くよ」
ナオさんはそう言って、再び歩き始めた。
私もそれに続く。
「あのさ……」
歩き始めてすぐ、ナオさんが言った。
「聞きたいんだけどさ……」
「な、なに?」
「魔界に……透明な魔物っていた?」
「え?と、透明?」
「うん。それか、透明になれる魔物」
「……透明はいなかったかな」
「いないの?」
「いないかどうかは……分からない。同化する魔物はいたけども……」
「同化?」
「地面に潜ったり……木と同化して、意のままに操る魔物はいた」
「ふぅん……魔物ってそんなことできるんだ」
「そ、そうだね。で、でも、それは……かなり強力な魔物だったよ。普通の魔物はそこまではできなかった」
「そうなんだ」
「ど、どうしてそんなことを聞くの?」
「……ま、いろいろあって……」
「い、いろいろ……?」
「気になるなら明日あいつらに訊いてみればいいよ。私よりも詳しいはずだから」
ナオさんはそう言うと、立ち止まった。
気が付くと、もう正門の前に到着していた。
「明日は迎えに来ないよ。部室まで、もうひとりで来れるでしょ?」
「う、うん……あ、ありがとうございます」
「ん。じゃ、また明日」
ナオさんはそう言うと、部室に戻って行った。
こっちをちらりと見ることも無く……ナオさんは去って行った。
校門を出て、私は振り向いた。
ナオさんの背中がどんどんと離れて行く。
私はその姿をぼんやりと眺めていた。
ナオさんの姿が見えなくなると、全身に悪寒が走った。
そして、私は逃げるようにその場を立ち去った。
足早に学校から去る。
時折、背後を振り返りながら……人が多い場所まで急いで歩いた。
歩きながら、私は思った。
ドルビレイ先生が死んだ?
魔物の暴走のせいで?
しかも、魔物は偶然いた冒険者に処理された?
そんなのって……そんなことって……あるんだろうか。
あのドルビレイ先生が……違法な魔物を?
しかも、毒が何カ月も残留するほどの強力な魔物を?
あの先生がそれを授業中に暴走させる?
ドルビレイ先生が危険なことをしないかと言われれば、そういう人ではないとは思う。
でも、生徒を危険に巻き込むようなことをするような人には思えない。
そんな下手をするような人じゃない。
事故だった?
ほんとうに?
もしも、そうじゃないとしたら……。
故意に魔物を暴走させた人がいる?
そして、ドルビレイ先生を……。
何のために?
誰が何のために……ドルビレイ先生を?
理由は分からない。
けど……もしも、ドルビレイ先生の死が仕組まれたものだとするならば……。
その原因は……何?
はっきりした原因は分からないけども、私たちが関係していないとは言い切れない。
ドルビレイ先生は私たちのせいで死んだ……の、かもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられない気持ちになる。
どうして?この心臓のせい?
それとも……もっと別の?
何にせよ、誰かが何かを知っている。
たぶん……あの南部魔界で起きた出来事の何かを……。
何よりも怖いのは……それを実行した誰かは今もどこかにいて……。
そして、今も隠れているんだろうってことだった。
ドルビレイ先生を殺した誰かはまだいる。
もしかしたら……それは学校の中にいるのかもしれない。
もしかしたら……わたしの事を、今も見ているのかもしれない。
そう思うと怖かった。
闇の中から、悪意を持った、何者かが私を見ている。
そう思うと……足がすくんでしまう。
地面を踏む感覚がない。
まるで、雲を踏んでいるかのような気分だ。
他人の悪意を感じ、私は怖くなってしまった。
ここは魔界じゃない。
ここに逃げ場はない。
お家ですら……安全じゃない。
人の方が魔物よりも怖い。
私は逃げるようにお家に帰った。
お家の玄関を開けると、私はその場にへたり込んでしまった。
気が付かなかったけども、全身が汗でぐっしょりだった。
「お嬢さん?!どないしました?!」
へたり込んでいるとシルアさんが飛んで来てくれた。
「うわ!汗ぐっしょり!何があったんですか?!」
「う、あ、あの……」
「学校で意地悪されたんですか?」
「う、ううん……ち、違うんです。そ、そうじゃなくって……」
「それならどうして?」
「ど、ドルビレイ先生が……」
「ドルビレイ先生?あの港町で出会ったっていう?」
「そ、そうです。ドルビレイ先生が……ドルビレイ先生が……!あ、あの……!」
思わず少し大きな声が出てしまった。
「ドクダミ?!どうしたのですか?」
私の大きな声を聞いてお父さんが部屋から出て来た。
「ドクダミちゃん?!帰ってたん?!」
レイシーちゃんも部屋から飛び出してきた。
そしてへたり込んでいる私の姿を見て、レイシーちゃんが飛んできた。
「どないしたん?!大丈夫?!あいつになんかされた?!」
レイシーちゃんが捲し立てるようにそう言った。
レイシーちゃんの顔を見たら、私は少しだけほっとした。
「大丈夫やで!私らが殴りに行ったるから!安心して!」
レイシーちゃんが腕まくりしてそう言った。
「そうだよ!ドクダミちゃん!安心して!わたしもいるから!」
イヅナちゃんがそう言った。
「え?!い、イヅナちゃん!?」
「そうだよ!私!」
いつの間にやら、目の前にイヅナちゃんがいた。
当然のようにいたから、目を疑ったけども、気のせいじゃなかった。
さも、当然かのようにいたので、私は思わず叫んでしまった。
「え?!い、いつからいたの?!」
「ん?!朝からいたよ!」
「朝からいたの?!」
「うん!ドクダミちゃんを見送ろうって思ってたんだけども……寝坊しちゃった!」
「せやから、一緒に朝ごはん食べてドクダミちゃんの帰りをいままで待っててんな~!」
「そうそう!ずっと待ってたんだよ!」
「そ、そうなんだ……ふ、ふふふ……」
待ってた!と、言った二人を見て、私は思わず笑ってしまった。
だって、二人ともすごい寝癖がついているんだもの。
「ええ様に言ってますがね?この二人はいいだけご飯食べて、今まで寝てただけですからね?」
シルアさんがそう言った。
「そ、そのようですね……」
私は苦笑いして、そう言った。
「でも、待ってたのは本当だよ!」
「ほんまやで!」
二人は胸を張ってそう言った。
この自信はどこから来るのだろうか。
でも、そんな二人を見ていたら……なんだか、全部が解決するような気がして来た。
私は深呼吸をする。
そして、言った。
「あ、あのね?ドルビレイ先生が……死んだんだって……」
私がそう言うと、みんなの顔色が変わった。
「死んだ?!どうして?!」
「う、うん……魔物が暴走したんだって」
「ほんま?!」
「う、うん……詳しくは分からないけども……校舎が破壊されてた」
「それって、かなり強い魔物がいたってこと?!」
「う、うん。そう思う」
「なんでそんな魔物が人間界におんの?!」
「連れて来たんだと思う。実験用として……」
「でも、それってダメなんじゃないんですか?!おじさん?!」
イヅナちゃんがお父さんにそう訊ねた。
お父さんは少し考えて、頷いた。
「そうですね。それほど強力な魔物を持ち込むというのは考えられません。例え正式な機関であったとしても、到底、認められないでしょう」
「じゃあ……どうしてそんな魔物が?!」
「それは分かりません。実を言うと、その事件については、一時期、駅でも問題になっていました」
「おじさん、事件の事、知ってたんですか?!」
「ええ、シャリオン校で死亡事故があったというのは話題でした。被害にあわれたのがドルビレイ先生だとは思わなかったですが……」
「おじさん!その魔物ってどんな魔物だったんですか?!」
「詳しくは分かりません。あの事件は偶然居合わせた冒険者が対処したということで、学校と冒険者ギルドが協力して、調査するとのことでした。それから続報はありませんね」
「調査してないってことですか?!」
「戴冠式もありましたからね。対処できたということと、被害が少なかったこともあってか、もう忘れられている可能性すらあります」
「そんな適当でいいんですか?!」
「ま、まぁ……そこが冒険者ギルドの良いとこであり悪しき所でもありますね……」
お父さんは苦笑いしながらそう言った。
「あ、あの……お父さん……」
「なんですか?」
「ぼ、冒険者が対処したって聞いたんだけども……それって誰なの?」
私はそう訊ねた。
「ああ。確か……ウーティさんですよ」
「え?!ウーティ様?!」
「ええ。偶然、何かの視察で来ていたそうです。生徒の救助と魔物の討伐を行い、学校側から感謝状も贈られたそうです。その功績もあって、リカオンが戴冠式に招待されたと聞きました」
「ほえ~!すごい!流石、ウーティ様!」
イヅナちゃんが言った。
「でも、それなら!確か昨日、モリー様がウーティ様とお話してたよね?!その時に何か聞いてるかも!」
「あっ……た、たしかに……」
「そうと決まれば善は急げだよ!モリー様のお家に行こう!」
「え?!そ、それは……迷惑じゃないかな?」
「大丈夫だよ!モリー様だし」
「遠慮なんて必要ないで!」
「う、うん……そ、そうだね?そ、そうかも?」
「そうだよ!じゃあ……!」
イヅナちゃんがそう言った瞬間、イヅナちゃんのお腹が大きく鳴った。
「……ああ~」
イヅナちゃんは少し気まずそうだった。
「もうお昼やしね!」
レイシーちゃんがそう言った。
「お、お昼……まだなの?」
「うん!ドクダミちゃんを待ってたからね!」
「そうそう!もうそろ食べようかなって思ってたけどね!」
二人がそう言うと、シルアさんがため息を吐いた。
「言っときますけどね。私は起こしましたからね?」
「ちょい!お姉ちゃん!そんなこというてへんって!」
「そ、そうですよ!シルアさんのせいだなんて言ってないじゃないですか!」
「言われても困りますけどね」
シルアさんは呆れたようにそう言うと、すっと立ち上がった。
「ま、玄関口で話すのもなんですから……とりあえずお茶でも淹れましょか」
シルアさんはそう言うとキッチンに向かって行った。
「ほんなら、ドクダミちゃんはお風呂やね!そんな汗だくでおったら風邪ひくで!」
「あ、う、うん……」
「着替え持ってくから、もう直でお風呂場に行って!旦那さんとイヅナちゃんは食堂の方へ!」
「はーい!」
元気に返事をして、レイシーちゃんの言う通りに私たちは動いた。
お風呂に入って、着替えて、食堂に行った。
食堂では、お父さんとイヅナちゃんたちがお茶をしながら談笑していた。
私が席に座ると、シルアさんが料理を運んで来てくれた。
私は用意してくれていたお弁当を食べた。
食事をしながら、私は学校であった話をした。
特に、とりあえずは大丈夫そうだっていうことを強く伝えた。
イヅナちゃんとレイシーちゃんは疑わしそうにしていた。
お父さんは嬉しそうに頷いていた。
ご飯を食べたら、みんなでモリー様のお家に向かった。
お父さんがいつの間にか馬車を用意してくれていた。
もう夕方で、モリー様のお家から戻ったら夜になると思う。
それなら、ちょうどお祭りなのだからということでみんなでお祭りに行くことになった。
モリー様も来てくれるかな?
なんて思いながら、私たちは馬車に乗って、モリー様のお家に向かった。
モリー様はいつも通りだった。
少しだけ元気が無さそうだったけども、お話ができた。
この後もお誘いしたけども、用事があって、モリー様はお祭りには来れないそうだった。
とても残念だけども、モリー様も学校の話を聞きたいって言ってくれた。
手紙を送ると約束をして、私たちはモリー様のお家から中央広場に向かった。
中央広場でお父さんと合流して、私たちはお祭りを楽しんだ。
途中で、偶然ルビィさんたちと出会って、食事を一緒にした。
ルビィさんたちはお祭りが終わるまで滞在するそうだった。
夜までお話をして、お食事をして、打ちあがる花火を見て……とても幸せな時間だった。
お祭りの一日目が終わり、私たちはお家に帰った。
イヅナちゃんも一緒だ。
三日目までハクビさんがお仕事らしい。
こんな時でもお忙しいんだなって思った。
お家に帰って、フリンとシルアさんにお土産を渡した。
シルアさんはお茶を用意してくれて、私たちはお風呂上りにお茶を頂いた。
お茶を飲み、部屋に戻って、私はモリー様に手紙を書いた。
お話しできなかった、今日学校であったことをできるだけいっぱい書いた。
便箋を折りたたみ、封筒を閉じる。
明日……この手紙を出しに行こう。
モリー様は私のお話を聞いてどう思うのだろうか。
明日になれば、また学校がある。
そして、ナオさんたちと魔具を作る。
少し前までは、そんなことになるなんて考えられないことだった。
こんなことってあるんだなぁ……人生って分からない。
お手紙……返事をくれるかな?
モリー様はお祭りの最終日まで、リハビリがあるそうだ。
お祭りの間は怪我を直すのに専念するって言っていた。
それがいいと思う。
もう、無理はしてほしくはない。
イヅナちゃんがどう思うかは分からないけども……私はそう思う。
お祭りの最終日にはモリー様も来てくれるらしい。
だから、また会えるのは、お祭りの最終日になるのかな。
モリー様……会いたいな。
モリー様にあった途端不安が吹き飛んだ。
不思議だけど、全部の不安がどうにかなるって思えた。
モリー様がいてくれるなら……どうにかなるってそう思った。
少し寂しい気持ちのまま私はベッドに入った。
すでにイヅナちゃんとレイシーちゃんはすやすや眠っていた。
私もベッドに入って目を閉じた。
今日一日……すごくいろんなことがあった。
明日も、明後日も……きっといろいろあるんだろうと思う。
良いことも悪いこともきっとある。
でも、良いって思えるくらい、私は前向きになれていた。
モリー様……会いたいな。
どうしてだろう、すごく会いたい。
最終日、楽しみだな。
お返事も……楽しみだなぁ……。
目を閉じて、私はすぐにまどろみに落ちていった。
すとんと、恐ろしいくらいすぐに私は眠りについた。
次の日、目を覚まして、通学路の途中にあるポストに手紙を投函した。
お返事が来るのを楽しみにして、私は学校に走って行った。
どんなお返事が来るのかなって、私はずっと待っていたけども……。
結局、その手紙に返事が来ることは無かった。




