準備は整った
夢も見ないくらいぐっすりと眠った。
朝になって、目が覚めるとイヅナも一緒に目を覚ました。
昨日までと同様に、俺たちは一緒に寝て、一緒に目を覚ました。
ベットから出て、歯を磨き、顔を洗い、朝食を買いに出る。
イヅナに任せたら碌なことにならないから今日は一緒に出た。
パン屋に行くといい香りが店から通りにまで漏れていた。
店の扉を開ける時にはイヅナはすでに涎を垂らして馬鹿面を晒していた。
餌を前にした犬のようだな、なんて思った。
二人でまだ温もりの残るパンをかじりながら家に向かう。
俺は卵とサラミの挟まったサンドイッチを頬張る。
うまい。何よりだ。
だけども……やっぱりもう少し塩気が欲しいな。
そんなことを考えながら歩いていると、ふくよかな奥様に声をかけられた。
誰だ?と思ったら、先日イヅナが持ち帰って来た鶏の飼い主のおばさんだったようだ。
おばさんはイヅナのことをいたく気に入っているようで、挨拶をしたら卵をくれた。
俺は卵のお礼と、昨日のイヅナの非礼を詫びた。
「ははは!気にしないで!いいお父さんだね!」
おばさんはそう言って笑っていた。
お父さんじゃないんだよなぁ……って思ったけども訂正するのも面倒だったので特に訂正はしなかった。
家に帰ると、イヅナにせがまれたので貰った籠いっぱいの卵を目玉焼きにした。
それを買ったパンに乗せて食うと、とてもうまかった。
朝からいっぱい食べて、俺たちは動けなくなってしまった。
俺たちは寝転がりながら、昨日の話やこれからくる戴冠式の話をした。
動けるようになると、俺たちは腹ごなしに散歩することにした。
ビーガーを散歩して、昼飯を食って、また動けなくなって、散歩して……。
今日何をしたかと言われたら答えられないし、なんにも記憶には残らなかったけども……有意義でいい一日だった。
「今日も泊まるのか?」
「当然です!」
「そっか……」
「嬉しいでしょう?!」
「さぁなぁ……」
なんて話をしながら、俺たちは長い散歩から帰路についた。
家に戻ると、家の前に誰かが立っているのが見えた。
それはハクビさんだった。
ハクビさんはイヅナを迎えに来たようだった。
「あっ!お父さん!」
イヅナが父を呼ぶと、ハクビさんもこちらに気が付いたようだった。
「どうも、お久しぶりです」
俺はハクビさんに挨拶をした。
ハクビさんは相変わらず小さくって痩せていた。
「モリーさん……長い間イヅナがご迷惑をおかけしました」
「いえいえ。ま、もう慣れっこです」
俺がそう言うと、ハクビさんは微笑んでいた。
ハクビさんは連泊のお礼と言って、抱えていた小さな木箱を差し出した。
中身はいい酒らしい。
「王宮で仕事をして……貰ったんです」
ハクビさんはそう言った。
王宮に献上された一級品だそうだ。
突然の招集に応えたハクビさんの労をねぎらっての特別な物らしい。
そんな物は貰えないと断ったが、ハクビさんは首を横に振った。
曰く、俺にこそふさわしいらしい。
それに十分な給金は貰っているから大丈夫だ、とも言っていた。
「……王城での仕事はどうでしたか?」
「とても勉強になりました。そしてなにより火を貰えました」
「火?」
「ええ。心の炉に燃料が入った気分です。私は仕事人としてこんなに燃えたことはありません」
ハクビさんはそう言って、目を輝かせていた。
この瘦身の静かな人が、こんな目をするだなんて……。
王城はそれだけ素晴らしいところだったのだろう。
それは、俺のような小市民にとっては、とても喜ばしいことだった。
人間界の……この国の……一番上は国民に希望と活力を与えられる場所だったのだ。
俺はハクビさんの目を見て確信を得た。
きっと……これからいい時代が来る。
人々が燃える心を持って……生きる。
そんな時代だ。
かつて、ドーソンさんが言っていた、嵐のような人間が生き、燃えていた時代がまたやって来る。
己の腕っぷしだけで魔界すら切り開こうとした……そんな熱い時代が……また……。
その日はもうすぐそこだ。
ハクビさんから酒を受け取り、イヅナとさよならする。
「モリー様、さようなら!またお手紙書きますね!」
「ああ、楽しみにしてるよ。じゃあな」
「ええ!それじゃあ……今度は戴冠式で!」
「ああ、戴冠式で……また会おう」
そう言って俺たちは別れた。
帰っていく二人を俺はずっと見送った。
イヅナはハクビさんに、ドクダミちゃんから貰った服を自慢していた。
ハクビさんは優しく微笑んでその話を聞いていた。
二人の姿が消える直前に、二人はこちらを振り返った。
そして、見送る俺に大きく手を振った。
俺は小さく手を振り返した。
二人の姿が見えなくなると、俺は独り、家に戻った。
ひとりっきりの部屋は妙に広く感じた。
俺は気を取り直して未来のことを考えた。
とりあえず……修行だな。
この先になにかいい未来が待ち構えていることを願って……。
いや、願わなくてもいい。
きっとある。あるはずだ。
それを信じて。今はただ無心で。
己のことは忘れろ、モリー。
俺は静かに……祈るように……瞑想を始めた。
そこから数日、俺はいつも通りに過ごした。
ステラから魔法の授業を受け、少しだけ世間話をした。
「服はどうにかなったんだけどもさ、戴冠式の作法とかあるのか?あの身だしなみの指定とか持ってくものとか……ある?」
俺がそう訊ねると、今さらですか?って呆れられた。
とりあえず礼装と黒い靴が義務付けられているらしい。
「招待状にそう書いてませんでしたか?」
ステラはため息をはいてそう言った。
正式な招待状はまだ来てないというと、あらそうですかと言われた。
必要なものは招待状に書いてるそうだ。
「とりあえずブーツはダメですよ。きちんとした革靴で行きましょう。あなたきちんとした靴は……て、聞くまでも無い愚問でしたわね」
ステラのおっしゃるとおり。
革靴みたいなそんなもんは持ってない。
俺が返事せずに苦笑いしていると、ステラはあからさまに呆れた顔をしていた。
「買いに行きます……」
俺は弱弱しくそう言った。
授業の後、俺は靴を買いに行った。
近所にある腕のいい靴屋だ。
ここは以前一度来たことがある。
アカデミーを卒業して、マスターと一緒に冒険に出るってなった時に、ドーソンさんに連れられてこられた。
仕事は足腰が命だ。
いい靴がないと、いい仕事はできない。
そんなことを言われた気がする。
ここに来るのはそれ以来だ。
つまり……もう何年だ?
よく分からんが、相当前だ。
俺は老舗の靴屋に入る。
店内は……おぼろげに記憶にある店のままだった。
俺は店に入ると、奥の方から店主が出て来た。
これも記憶通り、腰の曲がったよぼよぼの爺さんだった。
爺さんは俺を見るなり言った。
「ドーソンさんとこの坊かい?久しぶりだねぇ」
店主は俺のことを覚えてくれていたようだ。
俺はご無沙汰しております、と言って、店主に要件を伝えた。
「戴冠式ですか!ほぉ……お偉くなられましたな……」
爺さんは感慨深そうにそう言った。
俺はただの偶然だと謙遜した。
店主は俺の事情を聞くと妙にやる気になっていた。
店主は俺の足のサイズを測ると言った。
「ああ、一からお造りできないのが残念です」
流石に、近々過ぎてオーダーメイドは無理なようだ。
俺が靴や服を買わない理由のひとつはこれだ。
既成品は……俺のでかさだと適合するものがあまりない。
いちいち作らなきゃいけないし、そうなると高いし時間もかかる。
それが嫌だった。
しかし、ここは品揃えが自慢の店だ。
ドーソンさんもだからここに俺を連れて来たんだと思う。
前回もいきなり来て、ぴったりのブーツを用意してくれた。
「大丈夫かな?」
俺がそう訊ねると、店主は親指を立てた。
「任せな」
店主は急に頼もしいことを言うと、店の奥に引っ込んでいった。
なんて頼もしいんだ。
しばらく待っていると、店主が靴を一組持って戻って来た。
足の甲の上らへんに一本線の入った真っ黒な紐靴だ。
光沢があって、靴というより鉱石のように見えた。
「少し古いですがね。傑作ですよ」
店主はにっこりと微笑んでそう言った。
俺は靴を受け取り、履いてみる。
その靴は、初めから自分用に作られたかのようにぴったりだった。
「運命ですね」
「え?」
「良い靴は己で主を選びます。そいつの出来は最高だったが……誰もぴったり合う人がいなかった」
「はぁ……そうですか」
「その靴はね。前王様が戴冠する日に作ったのですよ」
「へぇ……そうなんですか?どうしてこんなでかい靴を?」
「ふふふ……それはね。前王様の足のサイズで作ったものなのですよ」
「え?!そ、そうなんですか?!」
「ええ、あなたにぴったりだ」
「それってどれくらい前の話ですか?」
「そうですね……30年ほど前ですかね?」
それは……ちょうど俺が産まれたくらいの時だった。
わざわざそんなことは口にしなかったけども、店主は何かを察したようだった。
「ふふふ……これも運命」
店主はそう言って微笑んでいた。
「気に入ったよ。これおいくらだい?」
「お代はすでにドーソンさんから頂いてますよ」
「そんなまさか!気を使ってくれなくていいんだ。最近、臨時収入があったからさ」
「よいのです。長い間在庫になっていたものです。本来、売り物にできるようなものではございません。どうぞ、貰ってやってください」
店主は深く頭を下げてそう言った。
そこまで言われると……断れないな。
俺はお礼を言って、靴を頂戴した。
またひとり……恩人ができてしまった。
一旦、家に靴を置き、俺は昼食がてら外に出た。
飯を食って……そんで腹ごなしに散歩して、修行に適した場所を探した。
火が出ても迷惑にならないような場所……。
そんな場所あるのか?
なんて思いながら、通りをうろうろしてみたけども……いいとこないなぁ……。
うろうろしながらきょろきょろしてる大男ってのは……まぁ、不審だ。
なので、表通りは避けて、普段はあんまり行かないような裏道を歩くことにした。
すると……家のすぐ裏になんか別の路地に通じる道を見つけた。
こんなとこあったのかと、その路地を進んでみると、下に続く階段が見えた。
そこは家のすぐ裏で、階段の下からは水の流れる音が微かに聞こえていた。
おや……これはまさか?
そう思って階段を下って見ると、そこは排水を下水に流す場所のようだった。
どこかから流れて来た水は少し臭う。
こんなところは誰も用は無いだろうと思った。
排水は大きな柵のついたトンネルの先に流れていっている。
この先が恐らく地下の下水に通じているのだろう。
臭いし……誰もいないし……水もある。
しかも、家の裏で……周囲の壁は石で囲われている。
ここに燃えるものは無さそうだ。
試しに魔力を集中させてみる。
手を合わせて、心臓から魔力を引き上げるイメージだ。
そして、引き上げた魔力を手のひらから出力する……。
それを……マッチ棒の形に……。
俺の手の中で魔力が渦を巻く。
手と手の間、少しだけの隙間。
何にも無いけども暖かいその隙間に、白くキラキラと光る粒が渦を巻き始めた。
まるで、夜空に浮かぶ銀河のようだ。
そのキラキラした光が……手の中の、暗闇の中で固まって行く。
そして……真っ暗闇の中に、真っ白く輝くマッチ棒が姿を……。
「おう?!」
マッチ棒ができたかと思ったら、そいつが急に膨張した。
暴走した魔力はそのまま破裂して、少し暖かい風になって空気中に散って行った。
「はぁ……まぁ、形ができただけマシか……」
魔力……とどめるのって難しいんだな……。
ドクダミちゃんがやりすぎたって言ってたのも分かるな。
これとどめた上で魔力量の調整とか……人間に可能なのか?そんなこと。
そう思うと、ステラとか……あいつはずいぶん器用にやってるよな。
デスウサギの大群に囲まれた時とか……あいつ確かけっこうふらふらだったよな?
なのに、あいつは氷を……魔法で雨あられと降らせてた……。
あれ、まじでどうやってたんだ?
すごいね……いやはや……流石は人類の希望様だ。
簡単そうにやってたそれが……まるで人間技じゃない。
今思えば、あいつらってやっぱりみんなおかしかったんだな。
俺が気が付かなかっただけか……。
長いこと冒険者……やってたんだけどな……。
いろいろ知ればしるほど……分かればわかるほど……自分の平凡さを思い知らされるよ、本当に……。
やんなっちゃうね。
やっぱり……ずっとそうだったんだな。
こうしてみて……やっとわかった。
俺の何がダメだったのか……。
あの時、どうして……クビになったのか……。
その理由が……よ~く分かってきた。
「本当の理由……聞かなくてもいいかもな」
もしもまた会える機会があるのなら……一言謝った方がよいのかもしれない。
いや、会うなんて……それもおこがましいのかもな。
だって……向こうは会う用事なんてないだろうし……。
会いたい、話がしたいだなんて……迷惑でしかないかもしれない。
いや、まぁ……そんなもんだよな。
仕事仲間なんて、クビになっちまったらただの他人だ。
俺は深くため息を吐いた。
ま、今日はもう帰ろう。
いい場所が見つかった。
前進していれば……いつか道が交わることもあるかもしれない。
俺が進むべき道……ってのがあるのかは分からないが……。
あったとして……交わる奴なんてイヅナとかくらいだとは思うのだが……。
人生何があるかわからない。
もしかしたら、あっと驚くようなことが起こるかもしれない。
だから……まぁ、日々頑張る……か。
俺は大きく伸びをして、少し臭う修行場所を後にした。
家に戻ると……戴冠式の招待状が届いていた。
王家の紋章の入った蝋つきの封筒は雪のような真っ白で……絹のような質感だった。
こんな紙……見たことない。
招待状を受け取ると……いよいよ実感がわいてきた。
出席する準備は整った。
後はその日を待つだけだ。
俺はその日からできるだけ普通に過ごした。
けど、すこし浮き間っていたというか……そわそわした気持ちはずっとあった。
俺はイヅナたちに手紙を書いたり、修行したり、授業を受けたり、掃除をしてみたり……そういう日常を過ごした。
穏やかな日々は過ぎて行き……そして、その日がやってきた。
遠くの方から……鶏の鳴く声が微かに聞こえてくる。
まだ空が白み始めたくらいで、外は暗い。
俺はベットから起き上がると、着替えをし、外に出た。
いつも通りパン屋に行く。
早起きのパン屋で、朝食用のサンドイッチを二つ買った。
俺はそれを頬張りながら家に戻る。
今日はいつも以上に空気が澄んでいる。
太陽がその姿を半分ほど見せたあたりで、どこかからラッパの音が響いてきた。
美しい旋律が通りに響く。
その演奏が止むと、大きな鐘の音がした。
遥か遠くから聞こえてくるこの音は……駅にある大鐘楼の音だ。
この音を聞くのは、お祭り以来だ。
今日は……ルーナ・ノヴァ様の戴冠式だ。
ついにその日が来た。
今日、この日から……再び動き出すんだ。
俺たちの新しい戦い……そしてきっと最後の戦いが……幕を開ける。
そうときたら……のんびりはしていられないな。
俺は急いで家に戻った。
身支度をする。
顔を洗い、寝癖を直し……薬を飲んだ。
服を脱ぎ、今日の為に用意した一張羅に袖を通す。
真っ白いシャツを着て、昨夜アイロンをかけたスーツを着る。
真っ黒な靴下を履き、黒炭のような靴を履く。
最後にヘアオイルで髪型もバッチシ決めた。
完璧だ。
身も心も……準備万端だ。
俺は深く息を吐いき、懐に招待状を入れ、部屋の扉を開けた。
さぁ、行こう。
俺は部屋から一歩外に出る。
扉を閉める前に忘れ物は無いかと……振り返ってみる。
あっ、そうだ……。
俺は部屋に戻り、いつも着ている上着を探った。
忘れてはいけないものがある。
俺は上着から王家のナイフを取り出した。
たぶんだけども、これは持っていた方がいいだろう。
お守りだ。
俺はナイフを懐にしまった。
これでいい。
そう思って、俺は上着をクローゼットに仕舞おうとした。
その時、上着から何かがぽとりと落ちた。
落ちてきたのは……マッチ箱だった。
「あっ、はは……そうだな。お前も必要だよな」
俺はマッチ箱を拾い上げると、胸ポケットにマッチ箱を入れた。
ほんの少しだけだけど……心が熱くなったのを感じた。
手を合わせる……魔力を集中する。
杖までは必要ない。
指先に灯ればいい。
俺は深呼吸をして、指を擦る。
俺の指先に火が灯る。
指先で揺れる火を、ぼんやりと眺める。
ああ……今日も綺麗だ。
やっぱり火はいいな……。
こんなに綺麗なものは無い。
心が落ち着く。
そうして火を眺めながら待っていると、誰かが玄関をノックした。
来たか……。
俺はふぅとため息を吐くと、指先に灯った火を飲み込んだ。
体の奥底に火がついた。
活力がみなぎってくるのを感じる。
ああ、なんかこうするのも久しぶりだ。
やはりいいな……ああ、俺の魔術はやっぱりいい。
俺はゆっくりと椅子から立ち上がる。
服の埃を払い、玄関に向かう。
「はい。今行きます」
俺はそう言うと、玄関を開いた。
「おはようございます。モリーさん」
扉を開けると、穏やかに微笑むクモ爺さんが立っていた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
俺がそう言うと、クモ爺さんは俺をハグした。
「生きて……この日を迎えられました。こんなに素晴らしい日は無いでしょう」
「ええ、今日はきっと、この国にとって一番素晴らしい日になるでしょう」
「そうですね。きっとそうなると信じております。さぁ……行きましょう。女王様が皆様のことをお待ちです」
クモ爺さんはそう言って、俺を馬車まで案内した。
「あっ!モリー様!」
馬車の窓からイヅナが身を乗り出して手を振った。
「おいっす!モリー様!」
イヅナを押しのけてレイシーも身を乗り出した。
「も、も、モリー様!おはようございます!」
もしやと思ったら、やっぱりドクダミちゃんも出て来た。
「よぉ!なんだ、お前たちもう集まってたのか?」
「はい!ていうか、遅いですよ!はやくはやく!」
イヅナたちは待ちきれない様子で、俺を手招きした。
「ああ、今行くよ」
俺はそう言うと、馬車の扉を開いた。
「クモ爺さん……どうぞ、よろしくお願いします」
俺は愛馬にまたがったクモ爺さんにそう言った。
クモ爺さんはシルクハットを持ち上げて会釈をした。
その姿を見て……今日はなんだかいいことが起こるような気がした。
「さぁ、はやく!はやく行きましょう!」
子供たちはもう待ちきれないようだ。
「はいはい。今、乗るよ」
俺は苦笑いして、馬車に乗り込んだ。
扉を閉め、席に座る。
俺が乗り込んだのを確認すると、馬車が動き始めた。
目的地は王城。
今日は新しい王様の戴冠式だ。
その瞬間に立ち会える。
一国民にとって身に余る栄誉だ。
自分がそれに足るか人間なのかは置いといて……。
招待されたのは事実。
今日くらいは胸を張ってもいいんじゃないかと……俺はそう思った。




