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ひとりじゃない

「ふぅん……あんた、すごいじゃない?」


ルビィさんが微笑みを浮かべながらそう言った。


「指で火を起こすだなんて……あなたいつの間にそんなことができるようになったの?」


「ははは……魔界に行って……鍛えられました」


「そう……あんたもやるときはやる男なのね。少し見直したわ」


「ええ……俺、結構すごいでしょう?」


「ええ、そうね。もしも私がフリーなら……惚れてたかも」


ルビィさんはそう言って、俺を見つめたまま妖しく微笑んだ。


「ははは……またまた……はは……」


俺は笑ってごまかすしかできなかった。




「ただいまー!開けてくださーい!」


お茶を飲みながら、これからの修業の話をしていると、イヅナが玄関をどんどん叩いた。


騒がしい奴が帰って来た。


玄関くらい自分で開けろよ……て、いうか、きちんと返してきたんだろうな?


少しばかり怪しみながら玄関を開けると、そこにはお菓子が山ほど入った籠と大きな花束を抱えたイヅナが立っていた。


「……なにそれ?」


「貰いました」


事情を聞いて見ると、鶏のいた場所に戻ると、ちょうど飼い主のおばさんがいて、鶏を返したそうだ。


そのお礼にお菓子をいっぱい貰ったそうだ。


「新鮮な鶏卵でお菓子を作って売る予定らしいです。これは試作品ですって!でも、すっごくおいしいんですよ!」


だ、そうだ。


完成品が売り出された暁には買いに行ってみることにしようかな。


少し楽しみだなって思った。


「で、猫のいた場所までお菓子食べながら歩いてたら、子供に囲まれました」


イヅナと同じようにおつかい中の子供に囲まれ、お菓子を上げていたら、子供が増えていき……。


「そのうちの一人がミューウの飼い主でした」


「ミューウ?」


「あの猫ちゃんの名前です。一週間前に突然家出して探していたそうです」


「そうだったのか……」


「で、そのお家がお花屋さんでした」


「で、それを貰ったと……」


「ええ、おみまいに行くって言ったらあるだけ包んでもらいました」


「ああ、そりゃちょうどよかったな。そっち、貸せよ」


俺はそう言って、イヅナから花束を貰った。


「モリー様、私いいことしましたよね?」


「ん?ああ、そうだな。よくやったじゃないか」


「ですよね!でも、モリー様は怒りましたよね!?」


「それは持って帰って来たからだろ。それに、お前ここで飼うつもりだっただろ」


「それは……そうですね」


「今度からは言う前に返してきてくれ」


そうして、俺たちはイヅナの持って帰って来たお菓子をつまみながらドクダミちゃんたちの到着を待った。



家の前に馬車が停まった。


ほどなくして、玄関をノックする音が聞こえてきた。


「ごめーんくーださーい!来ましたよー!」


レイシーの元気な声が聞こえて来た。


「おっ、来たか」


そう言った瞬間、隣に座っていたイヅナがいつの間にか玄関を開けていた。


相変わらず風のようだ。


いや、雷か。


まるで閃光のような速さだ。


イヅナが玄関を開けると、よく見た、にやけ顔が見えた。


「いらっしゃーい!お待ちしておりました!」


「おいっす!イヅナちゃん!」


二人が挨拶をすると、後ろにいたドクダミちゃんとポッポも顔を出した。


「おはよう!イヅナちゃん!」


「おはようございます。イヅナさん。お元気ですか?」


「おはようございます!ドクダミちゃんに!ポッポおじさんも!私は今日も元気いっぱいです!」


イヅナが元気にそう答えると、二人とも嬉しそうにしていた。



「やぁ、みんなおはよう」


俺がそう挨拶すると、ポッポとドクダミちゃんは笑顔で挨拶を返してくれた。


レイシーはぷいっと顔を背けて、おはよーさんとぶっきら棒に挨拶していた。


昨日のあれですねてるのか?かわいくない奴だな。


そっけないレイシーを見て、苦笑いしているとルビィさんが俺を押しのけた。


「あらー!レイシーちゃん!ドクダミちゃん!」


ルビィさんは成長した二人を見て目を輝かせていた。


突然現れたルビィさんを見て、三人は目を丸くして驚いていた。



「おえ?!ルビィさん?!」


「ル、ルビィさん?!ど、どうして……?!」


驚いた顔の二人を見て、ルビィさんはにこにこした顔で答えた。


「弟に言われて、お使いに来たのよ!昨日はここに泊めて貰ってたの!」


「お……おつかい?もしかして船のことですか?」


「そうよ!って、あなたドクダミちゃんよね?!どうしたの~その髪!まぁ~バッサリ切ったのね?!」


「は、はい!モリー様の故郷で切ってもらいました……もうだいぶ伸びてしまいましたけども……」


「かわいいわ!すっごく似合ってる!かわいい顔してるんだから、よく見える方がいいに決まってるわ!ねぇ、もっとよくみせて!」


ルビィさんはドクダミちゃんを褒めながら、顔をまじまじと見つめていた。


ドクダミちゃんは顔を赤くして、照れていた。


イヅナとレイシーは腕を組んで、うんうん頷いていた。


こいつらはどういう立場でいるんだ?


なんて考えていたら、ルビィさんがポッポの方を向いた。


「あら……駅員さん!お久しぶりね。その節はお世話になったわ」


「あなた……ジョーンズさん」


「ふふ……もう、私はジョナサン・ジョーンズじゃないわ」


「……そのようですね。ずいぶんと変わられました」


「驚いたかしら?」


「はい。ドクダミからあなたの話を聞いた時は驚きましたし……こうして見ると、私の知るあなたとは別人です。だけど……」


「だけど?」


「あなたの中にあるものは変わっていないように見えます。あなたはずっと芯のある、強いお方だ」


「そんな風に思ってたの?」


「ええ、そんな風に思っていました。あなたと一緒にお仕事できたことは、大変光栄なことだったのだと、今、改めてそう思いました」


「まぁ!お上手ね。あなたは相変わらず紳士だわ。また、あなたとこうしてお会い出来て……嬉しいわ」


ルビィさんはそう言って、ポッポと握手を交わした。



「お知り合いだったのですね?」


握手をする二人を見て、ステラがそう言った。


「お?!ステラさん!」


「あっ、ス、ステラ様!」


「おお、ステラ様!お久しぶりです~!」


「どうも、お久しぶりです。みなさん」


ステラはそう言ってお辞儀をした。


「ステラさん……お元気そうですね!」


ポッポが微笑みながらそう言った。


「ええ、おかげさまで……北部魔界の件ではお世話になりました」


「いえいえ!駅員の仕事ですから!リカオンの噂……聞いていますよ?」


「噂……?なんのですか?」


「え?復帰するのでしょう?」


ポッポがそう言った。


その言葉を聞いて俺たちはざわついた。


復帰するのか……ついに?!


そう思ったけども、当の本人はきょとんとしていた。


「え?そうなのですか?」


「え?違うんですか?!」


「私は何も聞いていませんが……」


「あれ?!そうなんですか?!」


「さぁ……あの人の考えていることは分からないので……ちなみに、その噂はどこから?」


「噂というか……アルガートンさんから聞いたんです」


「あの人にあったんですか?」


「ええ。王城で……少し……」


「……お城で?」


「この話は……一旦やめましょうか……」


ポッポは、気まずそうにそう言った。


ステラはそれを聞いて深くため息を吐いた。


「また……面倒なことになりそうね……」


ステラは、ぽつんとそう言った。



子供たちがポッポに詰め寄っていた。


どんな話したの?!アル様とどこであったの?!リカオンが復活ってホント?!四人目は誰になるの?!


質問攻めにあって、ポッポは困っていた。


俺はため息を吐いて言った。


「おい。本題忘れてないだろうな」


俺がそう言うと、三人はこっちを向いた。


「ドーソンさんのお見舞いです!」


三人はそう言った。


「そうだ。気になるのは分かるけども……遅くなってもいけないからな。そろそろ行こうぜ?」


俺がそう言うと三人は、はーいと言った。


そして、俺たちは病院に向かうことになった。



「おう、挨拶は済んだかい?」


「お?ブロンソン!」


ポッポたちが乗ってきた馬車を引いていたのはブロンソンと愛馬のランデルだった。


「はぁ……なんか勢ぞろいだな」


俺がそう言うと、ブロンソンは笑っていた。


「あっランデル!」


イヅナがランデルを見て言った。


「久しぶり!足は大丈夫?!」


足……それは初めて会った時に、荷物に挟まっていた時のことを言っているのだろう。


ランデルはイヅナの姿を見ると、こくんと頷いた。


「おう、お嬢ちゃん久しぶり。あんときは世話になったな」


「あっ!荷物運びのおじさん!お久しぶりです!お元気ですか?!」


「ああ、おかげさまで、元気に荷物を運んでるよ」


ブロンソンはそう言って笑っていた。



ランデルの引く馬車に乗り込んで、病院に向かった。


馬車の中で、俺たちはいろんな話をした。


「ス、ステラ様から魔法を?!」


「ああ、そうさ」


「ど、どんな修行をしてるんですか?!」


「うん。出力と保持の修業。心の杖を作ってるんだ」


「す、すごいです!すごいです!」


ドクダミちゃんは目を輝かせながらそう言って、その先は質問攻めだった。




「イヅナちゃん、そのお菓子どうしたん?」


「朝からいろいろあってね~!貰ったんだ!お花もね!」


「そっちもイヅナちゃんなん?!ま、あの無骨なおっさんにはお花を買うとか無理よな~」


「そうだね!モリー様お見舞いの品のことは一言も言ってなかったからね!」


「ほんまに気が効かんよな!ま、おっさんのことはもういいとして!朝から何があったん!?」


「へへへ……それはね……?」


イヅナは嬉しそうに今朝あったことを話していた。


子供たちは元気に話をして、ポッポたちは、船のことで大人な会話をしていた。


俺はドクダミちゃんに魔法の話を聞いて……話題は尽きなかった。


そんなわけで、病院に到着するのはあっという間の出来事だった。 



「みなさまがた!ご歓談中に申し訳ないですがね!着きましたよ!」


ブロンソンがそう叫んだ。


え?と、俺たちは全員同時に外の光景を見た。


そこは……確かに、ドーソンさんが入院しているペトリファイド病院の前だった。



「あら、あっという間ね」


ルビィさんがため息交じりにそう言った。


まったくその通りだ。


病院が見えると、みんなは嘘みたいに静かになった。


そして、俺たちは順番に馬車を降りた。


「あっしはね、向こうの厩舎の方にいますんで。お見舞いが終わったらそっちに来てください」


「ええ、ありがとうございます」


ポッポがブロンソンに礼を言うと、ブロンソンは俺たちに手を振って、厩舎の方へ向かって行った。


「改めて見ても……あの馬でっかいなぁ……」


レイシーがそう言った。


「お前も似たようなもんだろ?」


「う~ん?理屈は同じなんですよね?なんや、そんな気せぇへんのですよねぇ……」


「親近感とか湧かないのか?」


「向こうはなんか気高い雰囲気なんですよね」


「うん。お前にはそういうの無いもんな」


「そうそう、私は親しみやすいってのが売りですから」


「初めて聞いたけど、そんな売りだったの?」


「そうですよ!」


「そうだったのか……」


意外な真実だ。


こいつ自分の事そんな風に思ってたのか。


こんだけ一緒にいるのに……知らないことはまだまだあるんだな。


そんなことを思いながらぼんやりしていると、イヅナが俺の手を引っ張った。



「あ?」


「またですか?!もうみんな向かってますよ?」


イヅナの言った通り、みんなはもう病院に向かって歩き始めていた。


さっきまでそこにいたレイシーすら、いつのまにやらすたすた歩いていっていた。


ああ、またやったか。


俺はそう思って、ため息を吐いた。


「もう!しっかりしてくださいよ!」


「ん……いや、別にまだそんなにぼんやりしてないだろ?」


「別世界に行く前に私が止めたんです!モリー様すぐに別世界に意識を飛ばすんですから!困ったもんですよ!」


「悪かったね。変な癖もってて……」


「いいですよ!緊張しますもんね?」


「え?」


「モリー様、固まる時はだいたいそうですから」


「……そうなのか?」


「そうですよ!相変わらず、自分のこともよく分かってないんですね!」


イヅナはそう言って、微笑むとそのまま歩いて行った。


なんか……うまいことからかわれたって感じがした。


なんていうか……なんだ……すこし大人になったか?あいつ。


なんて、思った。



「おーい!なにぼんやりしとんのー!はよこい!」


レイシーが大声で俺を呼んだ。


いつの間にやら、みんな病院の前に到着していた。


「あーすまん!今行くよ」


俺はそう言って、病院の入り口まで歩いて行った。



病院に入り、受付に行く。


「あの……モリー・コウタです。マリアンヌ・ドーソンさんのお見舞いに来ました」


受付に座っていた看護婦に、俺はそう言った。


看護婦はすっと立ち上がると言った。


「はい。社長から伺っております。ご案内いたしますね?」


看護婦はそう言うと、俺たちを病室まで案内してくれた。


「容態はどうなんですか?」


「そうですね。かなり安定しています。意識もずっとはっきりしていて……ほんと寝たきりだったなんて信じられません」


「そうですか……それはよかった」


「ですが……体力の方は回復していません。面会許可はでましたが、10分程度が限界です」


「そうですか……」


看護婦は病室の前で立ち止まると、こっちを振り向いて、言った。


「私が……合図をしたらそれまでです。次の保証はできません。どうか、思い残しの無いようにしてください」


看護婦が静かにそう言った。


それを聞いてその場にいた全員が口をつぐんだ。


「では……入りますね?」


看護婦はそう言うと、病室のドアをノックした。



「失礼します、ドーソンさん!お見舞いが来ましたよー」


看護婦は病室の扉を開いてそう言った。


「ああ……分かったよ」


病室の中から弱弱しい声が聞こえて来た。


その声を聞いて、看護婦が俺たちの方を向いて、言った。



「10分経ったら……扉をノックします。どうぞ、ごゆっくり」


「ああ、ありがとう」


俺はそう言って、看護婦に会釈をした。


そして……病室に入って行った。



「ドーソンさん、来ましたよ」


病室の中に入って、俺はそう言った。


「……元気かい?」


ドーソンさんは、俺の顔を見るなり、ため息を吐いてそう言った。


やれやれ、どうしようもない馬鹿がやってきたねって感じだ。


「元気ですよ。みんなもね」


俺がそう言うと子供たちが俺の隣に並んだ。


「ドーソンさん!お久しぶりです!」


「おいっす!どうもですー!」


「お、お、お久しぶりです!」


子供たちは並んでドーソンさんに顔を見せた。


子供たちの顔を見て、ドーソンさんはほっとため息を吐いた。


「ああ、戻って来たんだね?」


「はい!帰って来ましたよ!」


イヅナはそう言って、にっこりと笑った。


「そうかい……ああ、こっちに来てよく顔を見せておくれ」


ドーソンさんがそう言うと、三人はドーソンさんの近くまで行った。


ドーソンさんはまるで宝物にでも触れるかのように、三人の頬を優しく撫でた。


「ちょっと見ない間に……大きくなったね。怪我とかはないかい?」


「はい!元気!元気です!」


「全員、五体満足!かすり傷もないですよ!」


「も、も、モリー様が守ってくれました……!」


三人がそう言うと、ドーソンさんは嬉しそうに微笑んでいた。


「そうかい……モリー……あんた……よくやったじゃないか」


「はい。一人前の仕事をしました」


「ふ……あんた、良い顔するようになったね」


「ありがとうございます……」


「遅すぎるんだよ。この阿呆が。もう少し……私が元気なうちにやれってんだよ」


「すみません……」


「はぁ……もう、世話が焼けるよ本当にね」


ドーソンさんはそう言った。


「モリー様、また説教されてる」


イヅナがそう言って笑った。


「ああ、まいったね」


なんて、言ったけども……ドーソンさんの顔は今まで見たどの顔よりも優しかった。


その顔を見て、俺は心底思った。


ああ……本当に……元気なうちにその顔をさせたかった。


そう思うと……情けなくって、少しだけ目頭が熱くなった……気がした。



「こんにちは。ドーソンさん」


「あら、あんたは……駅員さん。あなたも来てくれたのかい?」


「ええ、娘が大変お世話になっております」


「あら……わざわざそれを言いに?お忙しいだろうにすまないね」


「いえ……謝るのはこちらの方です。お世話になりっぱなしなのに……いままで碌に挨拶もせずにいて……申し訳ありません」


「いいんだよ。世話になってるってんなら、うちの馬鹿の方も大概だからね」


「はは……それは仕事ですから」


「あんたは熱心な人だよ……」


「ありがとうございます。こうしてお会いできて……良かった」


ポッポはそう言うと、ドーソンさんと握手をした。


ベッドから出て来たドーソンさんの手はすでにもうぼうっきれのように細くなっていた。



「あら……お痩せになられましたね……」


「ルビィ坊やかい?あんたまで来たのかい?」


「やめてください、坊やだなんて……」


「そうだね。すまないね。あんたも、もう立派な大人だ」


「立派……」


「立派だよ。いっぱしにやっているんだろう?」


「……でも、父の期待には応えられませんでした」


「どういうことだい?」


「父の跡を……継げませんでしたから……」


「はっ!ダイヤがそんな小さなこと気にするわけないよ。胸を張りな、あんたは十分立派さ」


「いやだわ……お嬢さんにそんな風に言われたら……私……」


ルビィさんの目から涙がこぼれた。


俺は何も言わずに、懐からハンカチを取り出した。


ルビィさんはそれを受け取ると、ハンカチで顔を覆った。


「あんた……」


ドーソンさんはハンカチを渡した俺の方を見て、ふっと微笑んだ。


「ずいぶん気が利くようになったね」


「はぁ……冒険でいろいろ学びました」


「そうかい……」


ドーソンさんはそう言うと、満足そうに頷いていた。



「こんにちは、ドーソンさん」


「あら、ステラ様まで来てくれたんですね?」


「嫌ですわ。様なんて……やめてください。私はまだそんな風に呼ばれるに至っていませんから」


ステラはそう言って、優しく微笑んだ。


その笑顔を見て、俺は思わず眉をしかめた。


こいつ……めちゃくちゃ猫を被ってるな。


それに……“まだ”?


謙遜してるように見せてるけども、内側にある溢れんばかりの不遜さは隠しきれてないように見えた。



「あなたならすぐにそうなるでしょう?」


ドーソンさんはそれを見抜いたのかどうかはわからんけども、そう言った。


それを聞いて、ステラはふふふと笑った。


「精進いたします」


「期待していますよ……すみませんね、こんな老いぼれに時間を使わせてしまって……」


「そんな!良いのですよ。ドーソンさんとお話している時間はとても楽しかったです」


「そう言って貰えたら……何よりだね……」


ドーソンさんがそう言うと、ステラの表情がふっと変わった。


笑顔だが……ほんの少しだけ悲しそうな表情をして……ステラは言った。


「あの時……見つけれて……よかったです」


「おかげさまで……なんとかこの瞬間まで命をつなげれました。ありがとうございます」


「お礼には及びませんわ。こうして、お話しできたことがかけがえないことなのですから」


ステラはそう言って、少しだけ悲しそうな表情のまま微笑んでいた。



「モリー様!」


一通り挨拶が終わって、ドーソンさんを見つめていると、イヅナが俺の手を叩いた。


「え?」


「え?じゃないでしょう?!あれ持ってきましたよね!?」


「ん!あ、ああ……!」


俺がそう言うと、ドーソンさんは訝しげに俺を見た。


「なんだい?何を持ってきたんだい?」


「あっと……まずはこの花を……」


俺はそう言うと、イヅナが貰って来た花束を見せた。


「あら、綺麗だね」


「そうでしょう?あと、お菓子もあります」


俺がそう言うとイヅナは持っていた大きな籠を抱えて見せた。


「ありがとうね。また頂くよ」


ドーソンさんはそう言って、イヅナの頭を撫でた。


イヅナは嬉しそうに笑っていた。


「で……最後はこれです」


俺はそう言うと懐から例の物を取り出した。



薄青く輝く……水の入った小瓶。


それは……間違いなく俺たちが手に入れた人類史上最高の宝物。


「見てください……これがニンフモクの霊薬です」


俺がそう言うと、ポッポとルビィさんが驚いていた。


「おお、それが……」


「まさか、ほんとうに……」


二人は言葉を失っていた。


ドーソンさんは……それを見て静かな表情をしていた。


それは俺が知る……いつものドーソンさんの顔だった。


「それが……本物なのかい?」


「ええ、間違いなく」


「そうかい……やったんだね」


「ええ、はい」


「モリー……あんた本当に立派にやったんだね……」


「うっ……え、ええ……は、はい……」


あんまり穏やかな声でそんな風に言うもんだから俺はすこしジーンと来てしまった。


「あ、あ、あ、あの!それでですね……」


「なんだい?」


「これ、俺の分で……イヅナのお母さんの分は別にあって……だから、これは自由に使えてですね……でも、俺には使い道がなくてですね……」


「ああ、もう……まどろっこしいね。何が言いたいんだい?」


「うっ……えっと、だから……これはドーソンさんに……飲んでもらいたいんです……よ」


「は!それで?またあんたの子守をしろってのかい?ごめんだね」


「いや!俺は……!俺はもうひとりで十分ですから!」


「じゃあ、あの家からもう出る算段は立ったってことかい?」


「え?そ、それは……まだ……ですけども……」


「じゃあ、ぜんぜん十分じゃないだろ、この馬鹿垂れが」


「いや!別に住んでいてもいいじゃないですか?!」


「じゃあ、やっぱりあんたの世話することになるじゃないか」


「うっ……そ、それは……そうかもですが……す、すみません……でも、あの家は……ドーソンさんがいないと……」


「サインしたんだろ?」


「え?」


「アンドリューに頼んだ書類にサインしたろ?じゃあ、もうあれは私の物じゃないよ」


「え?!え?ええ……そ、そうなんですか?」


「そうだよ。まったくあんたは……何にも分かっちゃいないんだね」


「え、だって……いや、でも……」



「大丈夫だよ、モリー」


ドーソンさんは言った。


「あんたはもう大丈夫。立派にやっただろう?だから……もう大丈夫さ」


「で、でも……俺、まだ……なにも、返せてない……」


「十分貰ったさ」


「え?」


「帰ってきただろ?また顔を見れた……それで十分さ」


「でも……」


「ひとりでね……いるのはもういやだったんだよ」


「え?」


「みんな私を残して……去って行く……昔からそうさ。旅に出た奴らは誰ひとり帰って来なかった」


ドーソンさんは言った。


「でも、あんたは帰って来てくれたろう?だから……ひとりじゃない。あんたが連れてきてくれた。それだけで……十分さ」


ドーソンさんはそう言って、俺に手を伸ばした。


俺はその震える……枝のような手を掴んだ。


「よくやったよ。あんたは……もう一人前さ」


「ドーソンさん……」


「だから、それはあんたが飲みな」


「え?」


「え?じゃないよ、この阿呆が。気が付いてないとでも思ったのかい?」


「……いや、俺は……俺にはもったいないですよ……必要ないです」


「はぁ、ずいぶん立派なこと言うようになったね」


「そ、そうですかね……そうなんですかね?」


「そうだろ?あんた相当悪いだろ?白状しな」


「……もう荷物も背負えなくなりました」


「はぁ……それで、どうやって生きてくきだい?」


「……俺にもまだよく分かってません」


「あんた……本当にそれでいいのかい?」


「……ええ、決めたことですから」


「そうかい。やっと……懲りたんだね……」


「え?」


「モリー……心でそう決めたなら……自分のことは忘れな。やるべきことは分かるね?」


「……はい」


「立派にやりなよ。あんたならできるよ」


「はい……一人前に……やり切ってみせます」


俺がそう言うと、ドーソンさんは満足したように頷いていた。



俺の心は……正直、俺でも分からない。


どうして霊薬を飲まないのかなんて、そんなの……分からない。


ずっと、迷っていたんだ、本当は。


理屈じゃない、なんていうか、そういう……そういうことなんだって思ってた。


でも、そんなだから、本当に正しいことなのかはずっとわかっていなかった。


だけど……ドーソンさんには何かが分かっているようだ。


俺よりも俺のことを知っているこの人がそう思ったんだ。


なら、きっと……いや、絶対に間違いなんかじゃない。


それがわかってよかった。


それさえわかれば……もう迷うことは無い。


理屈じゃないんだ。


心なんだ。


そしてそれはきっと正解なんだ。


そう思う。


きっと……そうなる……運命なんだ。


だとすると……その運命とやらは俺をどこに流していくのだろうか?


それも気になるとこだけども……。


それはどこでもいいか。


身を任せよう。


そうすればきっといいところに流れ着くはずだ。




どこに行こうと俺のやることは変わらない。


そう思ったら……熱いものが込み上げてくるのを感じた。


胃の奥から……熱い何かが……俺の心に火を付けたのを感じた。

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