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カラーズ

「あら、遅かったじゃない」

階下に降りて、部屋のドアをノックすると、ドーソンさんが顔を出した。

「えらく騒がしかったようだけど?変なことしてないでしょうね?」

ドーソンさんはそう言って俺を睨みつけて来た。

「いやいや、何もしてませんよ。ただまぁ元気なんですよ。あいつら」

「元気なのはいいことだわ」

「そうですね。すいません、この後もおそらく騒がしくします」

「あなたのおかげで、騒がしいのには慣れっこよ」

「え?俺そんなにうるさくしてました?」

「ええ、あなたも来た時はだいぶとやんちゃでしたからねぇ」

ああ、まぁ昔は色々やったからな。

若気の至りとはいえ、自分の非常識さが恥ずかしく思えた。

「すいません」

「いいのよ。それより今はあの子たちよ。お腹空かせてたらいけないわ。ちょっと待っててちょうだい」

そう言うと、ドーソンさんは扉の奥に消えていった。

しばらくして、扉の奥からノックされた。

「ちょっとあなた開けてちょうだい」

俺は言われるがまま扉を開いた。

ドーソンさんは片手にクッキーやチョコがたくさんのせた器と、いつものサンドイッチをのせた皿を両手に持っていた。

そしてそれを、はいこれと俺に渡してきた。

俺はそれを受け取ると、ありがとうございますと礼をした。

「まだよ。お茶も持ってくるわ。ちょっと足で扉開けといて」

そういうとドーソンさんは再び奥に消えていった。

この妙齢の女性特有の子供を見たらとにかく食べさせようとする特性はなんなんだ。

俺は苦笑いしながらドーソンさんの登場を待った。



俺は両手に食い物を持って部屋に戻った。

どうにか部屋の扉を開けて中に入ると、ドクダミちゃんが椅子の上に膝を抱えて丸まっていた。

どうやら無事に箱からは出れたようだ。

俺は机の中央に食い物を置くと、踵を返し、あとからついてきていたドーソンさんからお茶をもらった。

ドーソンさんは扉の隙間から部屋をのぞくと、ごゆっくりね~と言って去って行った。

俺は紅茶の入ったポットとカップをテーブルに置き椅子に掛けた。

「待たせたな、ドクダミちゃん。お菓子をもってきたぞ」

俺はできるだけ優しくそう声をかけた。

ドクダミちゃんはその声に反応し体を震わせた。

そしてしばらく静止したのちに、いきなり椅子から転げ落ちた。

「ぐぎゃあああぁぁぁぁぁ」

ドクダミちゃんはそう言いながら、床を這って箱に向かった。

「あかん!!」

レイシーが素早く立ち上がり、高速で這い回るドクダミちゃんを押さえつけた。

「にげちゃ!だめ!」

そこにイヅナが加勢に入った。

ドクダミちゃんは奇声を上げてもがいたが残念ながらフィジカルの差は明白だった。

すぐに、ドクダミちゃんは羽交い絞めにされて、両脇を持ち上げられてプラプラさせられていた。

「いやぁああああお、お、お、男のひとぉおおお」

ドクダミちゃんが悶える。

二人はそれを意に解さず、ドクダミちゃんを椅子へ運搬する。

「お、お、お、お、おかされりゅうぅぅうぅぅ」

なんでこいつは俺を強姦魔だと思っているのだろうか……。

もしかして、女の子から見たら俺はそういう見た目をしているのだろうか。

なら、あいつは……

「大丈夫だよ!この人はモリー様!」

「アルガートン様の補助魔術師だよ!」

「ア、アル様!?」

「そうそう!アル様!」

「悪い人なわけないやろ?!」

「ううううううううう」

ドクダミちゃんは唸ると、力なくうなだれた。

「す、すいません。取り乱しました」

「いや、まぁそれはもう覚悟のことだからいいけど。古いからさ、できるだけ静かにしてくれるとありがたい」

「ううう、すいません」

俺は、カップをドクダミちゃんに差し出し、ポットのお茶を入れた。

「まぁ一杯飲みなよ。落ち着くぞ」

「あ、ありがとうございます」

そういって俺はみんなの分のカップにお茶をついだ。

注ぎながら気が付いたが、さっきのひと騒動でせっかくのサンドイッチが埃をかぶってしまっていた。

もったいないな。

俺はそう思って、サンドイッチに火をつけて、埃を燃やした。

「ええ?!す、すごい」

それを見てドクダミちゃんが声を上げた。

「お、おう?そんなに驚くことか?」

急なことだったので俺も驚いた。

「す、すごいですよ。無機物に対して、魔術をかけるなんて簡単にはできないです」

「え?なになに?そうなの?」

「う、うん。物に魔術かけるのは難しくって、さらに人間にとっていいように動かすのはさらに難しいの」

「いいように動かす?」

「サンドイッチの埃だけ燃やすとか、カビとかね」

「ほーん?でもサンドイッチもカビは嫌いなんやないの?」

「ど、どうして?」

「だって!カビなんて生えたら腐っちゃうよ!」

「う、うん。でもね、サンドイッチにはそっちのほうがいいかもだよ?自然に戻れるし」

「そうかな」

「正確にはね、答えはないんだよ。だって物に意識はないもん。だから腐るのも食べられるのもどっちがいいとか悪いはないんだよ。だから、人間にいいように埃だけを燃やすのはすごいんだよ」

「でも、それはモリー様が燃やしたんちゃうのん?」

「ち、違うよ。だって全体が燃えてたから。活性を利他的反応をさせる為に使わせてたんだよ。すごいよ」

「さすが、ドクダミちゃん。わけわからんことでテンションあがるな~」

「高度な魔術だもん」

「そんなにすごいの?」

「うん。イヅナちゃんの刀に魔術を通わせるのもすごいんだよ。でもそれは、刀の材料が特殊だからできるの。刀に物理的に電気を通すことはできるだろうけど、副属性を発現させるなんてできる人はいないよ」

「え?でも魔術剣って結構あるよ?」

「魔術で剣を作るとか、魔力を持った材料で作った剣はあるけど、物事態に魔術をかけるのは難しいよ」

「剣を振って風の刃を飛ばす人とかもいたよ?」

「自分の魔術の補助で道具を使う人はいるよ。それとは若干違うんだよ」


みんなが首を傾げた。

なんかわかるようなわからんような話だ。

「つまり!モリー様はすごいってことだね!」

イヅナはそう言い、羨望のような眼差しを俺に向けてきた。

「さすがです!」

「噂にたがわずですね~」

イヅナとレイシーはそう言い、ドクダミちゃんは首を何度も縦に振った。

「いやいや、やめろやめろ。そんな高度なこと考えてないからな?」

「そ、そうなんですか?!」

「そうだよ。なんとなく昔からできたんだよ」

「てん……さい」

「まじでやめてくれ……」

この子達といると本当に調子が狂う。



「まぁなんでもいいが、どうやら落ち着いたようだな」

そう言うとみんなが顔をこちらに向けた。

「ですね」

「す、すいません」

「それじゃあ、本題と行くか?言っとくが命がかかってるからな。贔屓目はなしだぜ」

俺がそう言うと、イヅナ達は顔を向き合わせて、うなずいた。

「はい!自信はあります」

そういってイヅナはにこりと笑顔を見せた。



「結論からいきます。私たちの目的地は南部魔界です。そこで、カラーズを狙います」

イヅナはそう言った。

「カラーズ?」

俺は眉をしかめた。

カラーズとは魔石の一種だ。

魔石は魔力をため込んだ石だ。

石が水や油を吸うように自然の中にある魔力を吸い込む石。

自然界の魔力なので、属性で言えばバニラになる。

しかし、稀に特定の属性のみを吸いためこむ性質を持った魔石が発見される。

それが、カラーズ。

例えば、火の属性を持った魔石は赤い色をしている。

その石は生涯その属性の魔力しか吸わず、吸った魔力を様々な形で顕現する。

それを加工すれば、さっき言ってた、炎を出す剣だったりを作れる。


活用の道は無限にある。もちろん、レアドロップだ。


南部魔界は、荒野の大陸だ。

クレッド国の南端にある「港街スピネリ」から船で2日ほど進んだ先にある。

荒涼とした土地と岩山でできた、大陸バンネル。

そこが南部魔界と言われている。

クレッドで使われている魔石の大半は、ここ産だ。

危険な魔物は少なくいので、北部魔界の次に危険度が低いとされている。

現に、ここには炭鉱夫たちが寝泊まりする駐留地がある。

最近は政府の支援もあり開発が盛んに行われている。

数年後には魔界初の人間が住む街ができるのではないかと言われている。


だが、冒険先としては人気はあまりない。

魔物は弱いが、環境が厳しく、長居はできない。

その上、海を渡るのでどうしても渡航費がかかるし、荷物を載せるのも金がかかる。

なのに、個人が取れる魔石の量なんてたかが知れてるし、そのほかのドロップも正直集めにくい。

南部魔界に向かう冒険者のほとんどは炭鉱夫達の護衛や、新たな炭鉱の発見や安全性の確保などだ。

だいたいは、政府の要請や炭鉱を経営する者たちからの要請を受けて、向かう場所だ。



「何か確証があるのか?」

俺は尋ねた。

「はい。これを見てください」

イヅナはそう言うと持ってきていたポシェットから古い手帳を取り出した。

「これは私の祖父が冒険していた時に使っていた手帳です。ここにカラーズの場所が書いています」

そういうとイヅナはページをめくりだした。

「おじいさんの?お前の家は鍛冶屋じゃないのか?」

「ええ、そうです。祖父はその昔、素材にこだわるあまり自ら最高の素材を求めて旅していたそうです」

えらく、精力的だ。

「鋼材を求めて旅した南部魔界で、手に入れたカラーズで作ったのが、私の持つこの刀だそうです」

「なるほど。で、その中にその時の情報が載っているということか?」

「そうです。これを見てください」

イヅナは手帳を広げて見せた。

そこには南部魔界の地図と、とある鉱山の見取り図が書いてあった。

その鉱山の名前は、タイルスローン。

見取り図によると、最下層に地底湖があり、そこに魔石があると書いてあった。


「この鉱山は二十年くらい前に廃坑になっています。その時に、地底湖に多くの魔石が捨てられてました」

イヅナは話し始める。

「経緯は省きますが、その地底湖には今も大量の魔石が眠っています。その中に魔力をよく吸う石があったり、ため込む石があるみたいです」

「なるほど」

「魔石は見た目だけじゃ正直どれが魔力の含有量の高い物なのか?はわからないと思います。でも祖父の手記には、そこには探せば色の違う石がそこそこあるらしいです」

「つまり、変哲の無い石は無視して色の違うのだけ集めれば、価値が高い魔石が大量に運べるだろうということか?」

「そうです。南部魔界は正直今でも人気がありません。なのでそこで手に入るレアドロップまでいかずともそこそこ希少なものを手に入れれば、価値は高いと思います」

「しかも運が良ければ、レアドロップにありつけるってわけか」

「そうです。実際祖父はそこでこのクダギツネに使ったホワイト・アクロを手に入れました。しかも刀にできるくらい大量に」


この世界には伝説級の逸話がいくつかある。

俺も子供のころはよくそういう伝説系のアイテムの話をよく読んでいた。

封印された禁断魔法、死の王子様の伝説、魔王と六人の魔人、各地に残る魔獣や伝説の生き物達……。

そして世界に七種類あるといわれるレア魔石、カラーズ。

そのうちの一つが「ホワイト・アクロ」。

魔石を一定数集めたとき稀に周囲の魔石に魔力を少しづつ座れる個体がある。

それが完全に魔力を吸い切られ無の状態で長年過ごすと性質が変化し白く変色する。

それがホワイト・アクロだといわれている。

伝説では昔その製法を持った一族がいるそうだが、今は失われている。

と、いうかいたのかどうかも怪しい。

今の技術でも、そういう性質の石さえ見つければ時間さえかければ精製できるのではないかと言われているが……実際それを成功させた例はない。

もし、今回の計画でそういった個体を持ち帰れたら、結構な値が付くかもしれない。


賭けではあるが、短期間でランクを上げる成果を出そうと思えば、悪くない計画だと思った。

だが、問題はある。


「悪くない行先だとは思う」

計画を聞いて俺はそう答えた。

イヅナはそれを聞いて、目を輝かせた。

「では!?」

「いやまだ納得はしていない」

俺がそういうとイヅナはうぐっとなった。

「懸念点がいくつかある。まずその廃坑だが、人の手が入っているのか?」

「詳細は分かりませんが、この手記によると当時でさびれてしまっているようですし……。おそらくは」

「ということはだ、崩落の可能性がある。それに備えないとせっかくドロップを手に入れても俺たちがドタバタすれば途端に生き埋めってことだ」

「それは……」

「まぁそれは現地視察しないと何とも言えない事ではあるが、なんの備えもなしに行くわけにはいかないな」

「そうですね。確かに考えてませんでした」

「次だが、その地底湖とやらに行けたとして、どうやって石を採取する?そんなに浅い湖なのか?」

「あっそれはですね。この手記に採取方法も書いてあります。これによりますと、新月の夜にその湖の水が一定期間引くタイミングがあるそうです」

「水が引く?」

「ええ、その時のみ地底湖の底に降りることができるそうです。降りるための階段も位置が記されてます」

「なるほど。一旦は分かった。次に環境だが、そこに住む魔物は何がいる?」

「それが……いないみたいです」

「は?いない?」

「ええ、地底湖の魔石が魔除けの効果も兼ねているようで、魔物がいないそうです」

俺は考えた。

ある種ダンジョンには確かに魔物がいないものもある。

それは事実だが、そういったダンジョンは二通りしかない。

一つはすでに誰かが一掃した後。

それか……

「本当にいないのか?遭遇しなかっただけでなく?」

「この手記に記載はありませんね」

「少し見せてもらえるか?」

「どうぞ」

俺は手記を受け取り、1ページ目から読み始めた。

表紙はボロボロではげや破れているのが見える。

中もだいぶ古く紙は色あせ、インクの文字はかすれている。

一部は判別不能だが、図解などはきれいに書かれている印象だ。

冒険中持ち歩いたのだろう。

それが現存している、ということはその後は大切に保管されたのだろうと思われた。


「あーしばらくかかりそうだから、遠慮せずに食ってくれ。もったいないしな」

俺は手記を見ながら、そういった。

「あっはい。ありがとうございます」

「ほんなら遠慮なく、いただきます~」

「い、いただきます」


三人はそう言ってもぐもぐお菓子をほおばり始めた。

俺はお茶を一口含むと、椅子に深く腰掛け手帳に向き合った。

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