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大見得を切る

俺達はその後、シルアさんが持ってきたケーキとお茶を頂いた。

「午前中は僕の経験の話をずっとしてました。過去の冒険の話ですね」

俺は話題をそらさずまっすぐシルアさんにそう言った。

そして、あいつらと行った3回の冒険の話をかいつまんで話した。

もちろん……3回目の奴はいろいろぼかした。

シルアさんは俺の話をにこにこしながら聞いていた。

「ほえ~すごいですね!冒険者ってそんなことしてはるんや~」

「まぁそうですね」

そんな感じでその場はやり過ごした。


最終的にやってないことをやったと言い続けるのも苦しくなってきたので、デザートを食べ終えた俺達は、そそくさと部屋に戻った。

ドクダミちゃんの部屋に戻ると、俺達は一斉にため息をついた。

「どうにかなった~」

イヅナが安心したように言った。

「ははは、おねぇちゃん最後らへんは流石にちょっと怪しんでたねぇ」

レイシーが愉快そうに言った。

「うううううう、あ、あ、あ、緊張で、背中が汗でぇぇぇ」

ドクダミちゃんがかゆそうにもぞもぞしていた。

「あかん!またあせもできてまう!ドクダミちゃんすぐ着替えよ!!」

そういうとレイシーはドクダミちゃんが来ていた、だぼだぼの寝間着を下から思いっきりめくった。

「あああううう~」

一瞬で、ドクダミちゃんは一気に下着姿に剥かれてしまった。

「お、おい!」

俺は焦って後ろを向く

「あっ!忘れてた!ドクダミちゃんごめ~ん!」

「み、見らりゃれ、いう、う、いいいいいぃいぃいぃ」

ドクダミちゃんが奇声を上げてバタバタしている。

「動かんといて!ほら汗ふかな!」

「あばやぁぁあああううううああああああ」

ドクダミちゃんがのてうちまわる音が聞こえる。

俺は耳をふさいで、目をつぶった。

こいつら……頼むから少しは落ち着いてくれ。

心の底から俺はそう思った。



しばらくして、わき腹をつつかれた。

俺は目を開けて振り返ると、イヅナが申し訳なさそうにしていた。

「あの……終わりました。お騒がせして……」

「ああ、うん、大丈夫だ」

俺は気を取り直して、ソファに掛けた。

ソファには、レイシーが一仕事終えたって顔で、寝転んでいた。

相当暴れていたようで、第一ボタンを空けて右手をぱたぱたと扇いでいた。

ドクダミちゃんは綺麗な服に着替えて顔を赤くして、うつむいていた。

ついでに、ぼさぼさの髪も整えられて大きな三つ編みになっていた。

きちんとしたら、この子は結構かわいかった。

あとこれは男の性なのだが、ちらっと見えたあの時……結構いい体をしていたように見えた。

「よし、あーじゃあ気を取り直して。始めようか」

俺はそう言い、大きく深呼吸をした。



しばらくの間、誰もしゃべらなかった。

言い出しっぺの俺が考えていたからだ。

正直な気持ちを言えば……今、とても悩んでいる。

そしておそらく、俺がある程度目をつぶれば……冒険には出れるんじゃないだろうかと思っていた。

しかし、それにも、問題があるし……。

さて何からどう行こうかと考えていた。

「まず初めに言っておくけどさ。俺はこの依頼をこのままだと絶対に受けない」

「え?!そんな」

イヅナが驚いたような声をあげた。

「そんな?当然だろ?なんでか、わかるか?」

俺は諭すようにそう言った。

「えっと、お金ですか?それなら大丈夫です」

「違う。それは確かに仕事を受ける上では重要だが、今回は関係ない」

と、言ったがその点も結構重要であるのは確かだ。

金の問題は深刻だ。

この子たちといても、稼げるようには思えない。

俺が冒険者をやっている理由は明白だ。

金がもらえるからだ。

俺ができることで、一番儲けれるからだ。

だから儲からない仕事はしない。

俺は名声やランクは正直どうでもいい。

仕事で命を賭ける気も正直ない。

一か八かの賭けをするようなパーティの誘いは絶対に断ってきた。

あいつらとだって……無茶そうなら反対した。

それでもあいつらはそこそこできるから最後は承服したが、まぁあのざまだ。

俺がいたら確実に成功する。そう思える仕事しか俺は受けない。

だから、この子たちの冒険には絶対につきあえない。


なのに、なんでかな。

今回はあんまり金のことは気にならなかった。

こいつらと少し冒険に出てみたいと、そう思っている自分がいる。

俺の中に情熱……みたいなのがあるのかな?

いやそうは思えないな。

単純にこいつらほっとくと野垂れ死にそうだなって思ったからかな。



イヅナはうんうん悩んでいた。

そして何か言葉を出そうとしていた。

「なぁ質問してて悪いんだけどさ、先に聞きたいんだ。もし俺がこの仕事を断ったら君たちはどうするつもりだ?」

俺はそう言った。

「それは……」

イヅナが言いよどんだ。

「諦めます」

ドクダミちゃんがはっきりとそう言った。

「え?どうして?!ドクダミちゃん!」

イヅナが声をあげた。

「き、危険だから……」

「でも!お母さんが!」

「う、うん。でもね、イヅナちゃんそんな事いってくれなかったから」

「黙ってたから?!だからお母さんを見捨てるの?」

「落ち着け」

俺はイヅナをたしなめた。

「お前のそう言うところだよ。俺が断るといった理由は」

そう言うと、イヅナは涙目になっていた。

「勘違いするなよ。だれもお前のことが嫌いなわけじゃない。それにお前の母親も見捨てようなんて思ってもない」

「じゃあ!」

「お前が向う見ずすぎるからだ!」

俺はつい怒鳴っていた。

「すまない。でも聞いてくれ。お前がやろうとしてること、そしてお前が話したことは、話す相手を間違えたら……それこそ家族や、ドクダミちゃん達も危険に晒される。そんな話だ」

「う、うん。そうだよ」

「かなり慎重に行動しなければならないんだ。でもお前は、計画性も無く初対面の俺にそんな話をしただろ?警戒心も無いし、事の重大さが分かっていないんだ」

俺は話を進めた。

「そう言う奴が魔界に行ったら早死にする。もしかしたら街行く冒険者の中には金で釣れるやつもいるかもしれないが、信頼関係がないっていうのが魔界では一番危険なんだ」

俺は続ける。

「最後の最後追い詰められた時にそいつに見捨てられたら、お前は友達を殺すことになるんだぞ?わかっているのか」

イヅナは、手を震わせていた。

でも、顔はまっすぐ前を向いていた。

「だから聞いているんだ。俺が断ったらどうする気だ?ってな。よく考えてみな。その回答を聞くまでは俺は絶対に協力はしない」

しばらく、沈黙が続いた。

俺はその間、三人の様子を見ていた。

「あ、あ、あ、諦めます」

イヅナが言葉を詰まらせながらそう言った。

「なんでだ?」

俺が聞いた。

「ドクダミちゃんもレイシーちゃんも死んでほしくない。お母さんもだけど、それと同じくらい……う、ううんそれ以上に大事だから……」

そう言うとイヅナは泣き始めた。

俺はイヅナの背中をさすった。

「もし、そうなったら、別の方法を探してやるよ。俺も協力する」

俺はそう言って懐からハンカチを出しイヅナに渡した。



イヅナが悩んでいる中、俺は他の2人の様子を見ていた。

それで……だ。はぁ、なんでだろうな?

お前、金にならない仕事はうけないんだろ?

命が危険な仕事もしない主義だろ?

うん、まぁそうなんだけどな。

俺は一体何がしたいんだろうかな?

俺の意思ってなんなんだろうな。

分からないけど、さ。

困ってる女の子を見捨てるような奴には……。


「ヤバいと思ったら、すぐ撤退するぞ。その判断は俺がするからな」

俺はそう言った。

イヅナが顔をあげた。

「ただし条件がある。まず、冒険計画書を書け。話はそこからだ」

「は、はい!」

イヅナが応えた。

「どうせ冒険するのに必要な物も分かって無いだろ。そう言うのも全部リストアップしろ。先に言っとくけど絶対買い物には行くなよ?とりあえず、言ったことだけ守れるようになってくれ」

「は、は、はい!」

ドクダミちゃんが応えた。

「それを持って一週間後、また話をしよう。後いっとくけど、余計な事したり、内容があんまりにもお粗末だったら、俺は降りるからな。わかったな?」

「は~い!」

レイシーが応えた。

「よし、じゃ、頼んだぞ」

「はい!」

三人が元気にそう応えた。

俺は立ち上がって荷物を持った。

「じゃ一週間後だ。俺もその間にできるだけ準備するよ。先に言っとくけどな、どこに行くのか?何をするのか?は重要だからな。よく考えるんだ」

なんて偉そうな言葉だ。

こんなことを言う日が来るとはな。

俺はそう言うと部屋を出た。

扉を閉めると、やったー!という声と共にどたばたと床に倒れる音がした。

あいつら……

はぁと俺はため息をつき、階段を下りて行った。



階段を下りた先、玄関の前にはシルアさんがいた。

シルアさんは俺を見つけると、笑顔でお辞儀をした。

俺は会釈を返した。

「すいませんね。うちの出来の悪い妹がご迷惑を……あんな嘘までつかせてねぇ」

「ばれてましたか」

「ええ、まぁ。それで……本当に行くつもりですか?」

顔は笑顔だったが、言葉から、真剣さが伝わってきた。

気のせいか、若干の殺意のようなものも感じた。

そりゃそうだ。魔界に行くってのは……子供の遊びじゃない。

子供は判断を誤る。

それを正すのも大人の仕事だと思う。

「魔界に行く以上、絶対安全だとは言えませんが、俺がいる以上、危険な目には極力合わせません」

「そうは言いましても、ねぇ?」

言いたいことは分かる。

「私はね、断らはると思うたんですよ。お嬢さん方ってほら、あんな感じでしょう?私が言うてもきかへんから、モリーさんみたいな人がきちんと言うてくれはる思ったんですよ。それが一体どういう風の吹き回しですか?」

「いや別に深い意味はないですよ。ただ、困っていたようでしたから。それに、まだ受けるとは言ってません。まぁあいつら次第ですかね」

「えらい、無責任な事言うてるように聞こえますけどね」

「僕も断るつもりでした。2、3年後なら考えるかもですが、流石に早すぎると思います」

「そんなら、なんで?」

「さぁ、それが分からないんですよね」

「は?」

「まぁでも事実、あいつの話を聞いて、それを聞く他の2人の様子を見て、チャンスすら与えないのはどうかと思ったんですよ」

シルアさんは無言だった。

「間違いは正すべきです。でもね、それは全部否定することじゃないと思うんですよ。不可能や無茶を、自分の補助さえあれば可能かな?まで持っていけるように手助けするのも大人の役目かなって」

「そうですか」

「あとね。俺はこれでも自分の能力を知ってるつもりです。決して過大評価してません。俺も無茶はしません。だから、安心してください、絶対に帰れると思わない限りは行きませんし、言った以上は絶対に返します」

俺はまっすぐそう言った。

自分でも驚くくらいすらすら言葉が出て来た。

正直言うが……俺の頭の中もぐちゃぐちゃだった。

まだいろいろ悩んでいる。

条件を出したのも、俺も一旦落ち着いて考え直したいと思ったのもあるからだ。

でも自然とこういう言葉が出たってことは……俺はそうしたいって考えてるんだろうな。

なんだかわからないが気分が晴れていくのが分かった。

「そうですか。分かりました。とりあえずは信じます。でも、先に言っときますけど、何かあったら、私、あなたを殺します」

シルアさんはそう言った。

「ええ、俺も、そんな俺なら生きてる価値はないと思います」

俺はまっすぐそう、即答した。

シルアさんはきょとんとした顔をして、けたけた笑った。

「ははは、初対面や言うのにそんなことを!もう変な人やねぇ。でも、まぁ信じますわ」

そう言うとシルアさんが深々と頭を下げた。

「私では、なんの力にもなれません。どうか、あの子たちをよろしくお願いします」


俺は無言で首を縦に振った。



玄関を出ると、少し傾いてはいるが、まだ強い夏の陽光が俺を照らした。

まぶしい陽光を手で遮りながら空を眺めていると、、頭上から声を掛けられた。

「モリー様!モリー様!」

振り向くと、二階の窓の隙間から、イヅナが身を乗り出していた、手を振っていた。

本棚の隙間に無理やり体をねじ込んでいるのだろうなんだかちょっと窮屈そうだった。

「お母さんの話をしたのは、信用しているからですよ!あの夜!見ず知らずの私を抱えてくれたから!私、忘れてませんから!」

イヅナは大声でそう叫んだ。

俺は無言で手を振った。

イヅナはまた涙目になって、そして大きく手を振った。

「絶対!!落として見せますからね!!!」

イヅナが大声で阿呆なことを叫んだ。

思いっきり力んだからなのか、そう言ったイヅナが窓から落ちそうになっていた。

それを後ろからレイシーが押さえつけて部屋に引っ張り込んだ。

「そういうところだぞ!」

俺は叫んだ。

はーーーい!と元気な返事が暗い部屋の奥から聞こえてきた。


俺はため息をついた。

これ、何度目だ?

まぁ、もう気にするのは止よう。

どうせ、これからいっぱいつくことになるだろうからな。



帰路につきながら俺はあの時の2人のことを思い出していた。

俺が諦めるかどうか尋ねた時、イヅナは下を向いて悩んでいた。

それをあの2人は黙ってみていた。

あのちゃらんぽらんなレイシーが姿勢を正してまっすぐに……。

あの挙動不審なドクダミちゃんが目をそらさずにまっすぐに、イヅナを見ていた。

2人がイヅナを信頼しているのが、分かった。

信頼してるなんて軽い言葉じゃなく、姿で芯からそう思わされた。


それがなんだって感じだけど。

それで、なんでだか、こいつらとなら行けるんじゃないかと思った。


さて、どうするかな?

ボランティアできるような身分じゃないぞ?

でも、シルアさんに啖呵切っちゃったしな。


相変わらず、先行きは霧の中だが……心なしか暗くは無いような気がした。


顔をあげて、俺は独り、小気味よく静かな通りを歩いて帰った。

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