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ともだち


「母は時々言葉を詰まらせながら自分に起こった出来事を話し始めました」


「一年ほど前のある日の夜、母は夢を見たそうです。自分の背中から根っこがこの星の中心に伸びて行って、つながったような感覚があったらしいです。地面の遥か下の方から力が流れ込んでくるような感覚に襲われたそうです。そして周囲から魔力を吸収できるようになったそうです」


「はじめは魔力の強い人の近くにいると、少し楽だな程度だったそうです。日々の家事につかれていたので原因は分かりませんが便利な力を手に入れたと喜んでいたそうです」


「ある日、私が風邪をひいたそうです。それが結構な高熱で、寝たきりになったそうです。家族は毎日看病していましたが一向に良くならなくって、最後には手に負えなくなり入院となったそうです。数日すると私は回復しいつも通り家に帰って来たそうです。記憶には全く無いのですが……そう言うことがあったそうです」


「帰宅して、すぐに変化がありました。私がまた倒れたそうです。そして母は気がつきました。自分が魔力を知らず知らずのうちに吸い取っていることに。その力が昔より強くなっていることに。そして……自制が効かなくなっていることに」


「母はそれ以降、力を使うのをやめたそうです。力を使わなければ無意識に吸収することも無かったようで、すぐに私は回復しました。それ以降、母は力を一度も使わなかったそうです」


「それでも、母の力は母の中で大きく、大きくなっていました。ある夜、また同じ夢を見たそうです。力を授かった時と同じ夢。でも、今度のは、前とは違う。大きな力が母を飲み込むような感覚があったそうです。母はそこから邪悪な意思を感じ取り、それに飲み込まれ身動きが取れない恐怖を感じたそうです」


「朝、目が覚めると、汗だくでしばらく全身に力が入らなかったそうです。そして……力が完全に暴走しているのを感じたそうです」


「その日から母に意思とは関係なしに常に周囲の人間から満遍なく、微力な魔力を吸収するようになったそうです。私たちのような、一緒にいる時間の多い人間からは一定以上は吸わないように。また人間だけじゃなく大気や自然の中にある微力な魔力をも吸い取るようになっていたそうです」


「母は恐怖しました。まるで自分の中にある力が寄生虫のよう意思を持っているのを感じたからです」


「そして、魔力を極力使うように努めていても……一般人には限界があります。その果て、魔力タンクの限界が来ると高熱を発症し……限界が来た時に一気に発散。それがあの大風や雷の正体でした」


「母の話を聞いて、私たちは固まりました。想像以上の出来事でした。正直言うと……手の打ちようなんてなかったのです。私たちがどうしようと解決できない問題だと思いました」


「父は街の人に説明しようと言いました。そして一日の終わりに海岸線に向かって力を放出すればいいと、言いました」


「母は首を振りました。そうすれば確かにしばらくは対処できるかもしれないけど、使えば力が増すばかりだと……歯止めがどこかで絶対に効かなくなると」


「母は涙ながらに話しました。自分がどういう立場かわかっている、と。いつか私は大火を噴いたり地面を割る日が来ると。その日が近いのは知っていたけど、できるだけ長い間家族の側にいたかったと。そして時が来たら……死ぬつもりだったそうです」


「私は泣きました。母のひざ元まで行って泣きました。お母さん死なないで、と懇願しました。何にも考えずに、それが母を苦しめ続けるのだと、知りもせずにそう言ったのです」


「あの時のあの、母の、あの顔は……。言葉が見つかりませんが、あの顔は今でも毎日思い出します」


「母は私の頭をなで……そして、分かったと言うと。今度中央のお医者さんに行ってみるね……と言いました」


「家族もそれに賛成しました。王国の機関なら、どうにかなるかもしれないと。それが間違いとも知らずに」


「数日後、どうせ仕事ができない父と母は二人で中央に行きました。私は二人でゆっくりしてきてね!なんて明るく見送りました。不安はあったけど……きっと大丈夫だと思いました」


「日もすっかり落ちた夜に二人は帰ってきました。二人の顔色はあまりよくはなかったです。中央のお医者様でも結局わからず、後日また連絡するとのことでした。父は期待しないほうがよさそうだね。と言い次の方法を探そうとみんなで話し合いました」


「そんなことも忘れかけたある日、あの男が家に来ました。長い髪を後ろでくくり、似合わないスーツを着た、不健康そうな男」


「その男は王立魔術研究所の研究員だと名乗りました。研究所と言っても魔術による医療施設、つまりは病院のようなものと説明しました。そこに行けばどんな病気でも治せると言われました」


「その人には一旦帰ってもらいました。また来週来ると言って去って行ったのです。家族の協力の元、母は以前よりも魔力を発散するようにはしていましたが、状況は変わりませんでした。母の言っていた通りまるで力が意思を持っているかのように作用していました」


「一週間と言う数字をあの男はあてずっぽうで言ったのでしょうか。それは分かりませんでしたが、今までの周期で考えると確かに母が倒れるまで、あと一週間ほどだと思われました。私たちは真剣に話あう必要がありました」


「父は……無言でした。母も祖父母も……みんな……。でも、もう、私たちに打つ手はありません。選択肢は一つしかありませんでした。後は誰が言い出すかでした」


「私は下を向くことしかできませんでした。そして、母が行ってくるねと言いました。私たちは……何も言わず母の手を握りました」


「それからの一週間はいろんなことをしました。海で遊んだり、山でキャンプしたり、お母さんと一緒にクッキーを作ったり、本当に楽しかったです。本当にあっという間でした」


「そして、あの男がまた来ました。男は馬車に乗ってきていて、私たちの返答を聞かずに母を中に誘いました。私たちは母が馬車に乗り込むまでずっと見ていました」


「母が馬車の中に消える時すごい不安な気持ちになりました。一生このまま母にもう会えない気がしたのです。私は男の元に行って面会の約束をしました。いつでもどうぞと男は応えました。下卑たいやな笑顔でした」


「馬車が出発すると母が窓から顔を出し、元気でねと言いました。私は手紙を送ると約束し、良くなったら会いに行くからといいました」



「その後、数か月は母とのやり取りが続きました。母の容体は日に日によくなっているようで退院も間近とのことでした。でも、私はその手紙に違和感を覚えていました」


「なんだか、母じゃないような気がしたのです。確かに母の字ですし、私たち家族しか知らない事も書いていました。でもなんだか、母じゃない気がしてなりませんでした」


「私は思い切って、面会の約束をしました。会いに行って不安をやわらげたかったのです。返事は今は大切な時期だからまた今度でした」


「それから数か月ことあるごとに面会の約束をしましたが受け入れられませんでした。話が違うと憤ったのを覚えています。父は信じて待とうと言っていました。でも、父も不安そうではありました」


「父は新しい工房の立ち上げで忙しい時期でもありました。わがままを抑えて我慢しました。それから月日が経つのは早かったです。その間私は不安を和らげようと父の仕事を手伝っていました。そのために剣の知識が必要と思い、昔、強い剣士だったという祖父から剣を教わり始めました」


「不安を消すように仕事と剣に打ち込みました。そうこうしている間に、まるで矢のように時が過ぎ、気がつけば母がいなくなって一年が経過していました」


「手紙の内容は変わりませんでした。良くなってる良くなってるとばかり。流石に私は不信感を隠しきれなくなりました。私は面会を強行することにしました。私には剣の才覚があったようで、剣の腕はみるみる上達し、自信が出始めた頃でしたので強気になっていたのです」



「父に私は中央へ行くと告げました。父は……少し考えましたが、許可してくれました。そのころの父は家族の手伝いの甲斐もあり、工房を復活させ、仕事に一番打ち込んでいる時期でした。なので中央には私一人で行くことになりました。父はお守りとして私が今持っているこの刀を持たせてくれました」


「出発までの一週間はこの子たちと修行しました。この子たちは他のどの刀よりも手になじみました。私のために作られたかのような気さえしました」


「私は少しのお金と共に中央に出発しました。不安はあったけど……お母さんに会えると思えば勇気がでました。しかし少しの後ろめたさもありました。仕事があったとはいえ母を一年以上も独りぼっちにさせてしまったのですから」



「中央は私の想像以上に広く、壮大でした。完全におのぼりさん状態で、初日はずっと上を見上げながら歩いていました」


「私は、そのまま母のいる王立魔術研究所とやらに向かうことにしました。しかし場所も分からなかったので、そこらの人に声をかけることにしました」


「その時、私が声をかけたのが、ここにいるドクダミちゃんとレイシーちゃんでした。私が声をかけてそれで……いろいろあって、二人は最後に見ず知らずの私を研究所まで連れて行ってくれました」


「すごく、うれしくて……。いまでも感謝しています」


「研究所はすごい施設でした。私の街が一つすっぽり入ってしまいそうなくらいの敷地に、崖のようにそそり立つ建物。私はその規模の大きさにぽかんと口を開けて固まってしまいました」


「そんな私を見て二人は入り口までついてきてくれました。入口に入ると受付があり、キレイな白衣を着たお姉さんがいました。私はその人に、お見舞いに来たと言い、母と私の名前を伝えました」


「その人は、そんな人はいません。と言いました。私は耳を疑いました。そんなはずはないと、一年前に来ているはずだと、確認してくださいと。お姉さんは何かしらの資料を探し始めました。そしてしばらくして戻ってきて、やはりいません、とそう言いました」


「私は……少し考えました。そして思い浮かんだのはあの時のあのいやらしい笑顔でした」


「私はお姉さんに言いました。“では、ジョン・スミス先生はいらっしゃいますか?”。ジョン・スミス。母を連れて行った男が名乗った名前でした」


「お姉さんは、顔をしかめました。そしてお知り合いですか?と言いました。母を連れて行った人ですと答えました。お姉さんは私をしばらくしかめっ面で睨んでいました」


「スミス先生は多忙です。本日は面会することはできません。お姉さんはそう言いました。私は、ではと言いました。それを予想していたように、お姉さんはスケジュールが空き次第連絡いたします、と言いました」


「私は毎日来ます。ずっといます。一分でも空いた時間があればすぐに教えてくださいと言いました。そして私は近くの待合の椅子に腰かけました」


「私は母に会えるまで、帰る気はありませんでした。お姉さんの顔はすごく冷たいものに変わっていました。さっきまでの笑顔が嘘のように。しかし、私はそんなものには動じませんでした。絶対に引く気はありませんでした」


「しばらく、一人で下を向いていると、いい匂いがしてきました。顔をあげると、レイシーちゃんがいました。お腹空いてない?そういうとレイシーちゃんは私の隣に……」


「うれしかったです。今でも忘れません。どうしてここにいるの?と聞くと、私が話したら入れてくれたよと後ろからドクダミちゃんが出てきました。ドクダミちゃんは本を持ってきていて、これね、すごい冒険の物語だよ。時間なんて忘れちゃうと思うと言って何冊かの本を持ってきてくれました」


「しばらくは三人でいました。夜になると、ドクダミちゃんのお家に誘われました。それは悪いと言いましたが、友達が来てくれるとうれしいといわれ……お邪魔しました」


「おじさんもおばさんも、シルアさんも暖かく迎えてくれました。事情を話すと、協力すると言ってくれました。何日でもいなさい。そう言ってくれました」


「その次の日は朝から研究所に行きました。その次の日も次の日もずっと私たちは三人でいました」


「数日後、お姉さんが冷たい顔のまま私たちに近づいてきました。そして一枚の紙を渡してきました。そこにはいろいろ書いてありましたが私は難しくて意味が理解できませんでした。ドクダミちゃんはその紙を受け取ると上から下まで読んで、私に出入り禁止命令が出たと教えてくれました」


「私は拒否しました。しかし、これは法令に基づいた命令であり、政府の許可を得ているから明日以降来たら……警察に連絡すると言われました」


「私たちは即時退館を言い渡され……なすすべなく家路につきました。私は、泣きました。自分の無力さに、不甲斐なさに、ドクダミちゃんたちにお世話になりっぱなしの申し訳なさに、自分自身が嫌になりました」


「二人は、私を慰めてくれました。ドクダミちゃんはお父さんに言って協力してもらおうとさえ言ってくれました」


「でも、私はこれ以上厄介になるわけにはいかないと思いました」




「だから、私は……」


「私は……二人に嘘をつきました」



「このことは初めて言うけど、私ね、あの後お母さんに会いに行ったの」

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