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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第五章 アーサー・レンフィールドとヘルト・ハイラント Beginning_Story_of_Heroes.
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85 ある少年の始まりはいつも唐突に Arthur_Side.

フェーズ2【村人と勇者】のスタート!(第八章まで)

『ポラリス王国』。

 そこは『ゾディアック』の中心地にして世界の中心点。

 そこは科学技術の粋が集まる隔離された街。

 そこはありとあらゆる陰謀が渦巻く悪魔の巣窟。


 言い表すなら色々な呼び方がありますが、唯一言えるのは、その街を作ったのは異世界から来た三人の勇者だということです。


 異世界の科学技術。彼らはただ人々の生活が便利になればと思って広めました。それを広める事が何を引き起こすのか考える事もせず。


 彼らが広めた科学技術は、彼らが旅だった段階での元の世界の科学技術のレベルをすぐに凌駕しました。


 その結果引き起こされた大戦があります。『第一次臨界大戦』でも『第二次臨界大戦』でもなく、その遥か前にあった徹底的に隠蔽された大戦。科学と魔術が正面から激突し、十数種類いた多くの種族を、人間、魔族、エルフの三種族にまで減らした地獄のような争い。何も得られたモノの無い、失ったモノしかない、戦争とも呼べない愚劣極まる争い。決して他言されていないそれを覚えているのは、広い世界を見渡しても数人しかいません。


 ただ、まあ。今回に限ってはそんな事は無関係な訳ですけど。


『新人類化計画』。『ポラリス王国』に数多ある計画の内の一つで、中でも割と人道的な計画です。

 エミリア・ニーデルマイヤー。一子の母親である彼女の考案したそれは、冗談抜きに人類を救済するための計画です。

 対して。


 アーサー・レンフィールドは、少なくとも自分の関わった人達には不幸になって欲しくないと思っています。


 ヘルト・ハイラントは、かつていた世界ではできなかった、助けを求めている誰かを救う事を信条としています。


 人類を救済する。

 その答えが各々の信条に沿っている限り、きっと彼らはこの計画を潰すでしょうね。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 アーサー・レンフィールドは戦い続けて来た。少なくともこの一ケ月あまり、彼は命を削って来た。

『ジェミニ公国』でのグラヘルとの戦いを引き金に、『タウロス王国』ではドラゴンを止めるために地下を駆けずり回り、『アリエス王国』では魔族との戦争を切り抜けた。

 傍から聞いていると頭がおかしいとしか思えないが、それがアーサー・レンフィールドの現実だった。そして彼が今いるのは、『ゾディアック』の中心である『ポラリス王国』。結論から言って、何も起きない訳がない。

 そして、それはここまで一緒に行動してきた彼らにも分かっていた。


「……なあ、俺だって子供じゃないんだからこの対応はあんまりじゃないか?」


 彼に同行しているのは四人。幼少期からずっと一緒にいる腐れ縁(別に嫌ってる訳ではない)のアレックス・ウィンターソン。『ジェミニ公国』で出会った近衛結祈(ゆき)。『タウロス王国』で協力して貰ったサラ・テトラーゼ。『アリエス王国』から同行してきたお姫様のシルフィール・フィンブル=アリエス。

 彼らはアーサーを中心に、取り囲むように『ポラリス王国』の街中を歩いていた。


「テメェは目を離すとすぐに面倒事を持ってくるからな。これぐらいで丁度良いだろ」

「それよく聞くけど、そもそもアレックスってずっと俺と一緒にいるじゃん? お前が引き寄せてる可能性とかって無いのか?」

「あん?」

「だってほら、『タウロス王国』の時はお前が『竜臨祭(りゅうりんさい)』に出ようとか言わなければ俺も地下に行かなかった訳だろ?」

「だが怪しい四人組を見つけたのもテメェだし、地下に行ったのもテメェの意志だ。そもそも『アリエス王国』の時は何の言い訳もできないくらいテメェが持って来ただろうが」


 睨み合いながら平行線の口論を繰り広げるアーサーとアレックスのやり取りに、サラは呆れたような溜め息をついて、


「無意味な言い争いはそこら辺にしときなさい。そもそも『タウロス王国』じゃアーサーの行動がなかったらドラゴンを止められなくて、今頃世界は『第三次臨界大戦』に突入してただろうし、『アリエス王国』の時だってアーサーがシルフィーと出会わなかったら国一つが巨大な実験場になってたのよ? あんまりアーサーを責めるもんじゃないわ」

「さっすがサラ分かってるう! じゃあこの包囲を解いてくれ!」

「それとこれとじゃ話は別。次は上手くいくなんていう確証はないんだから、あんたは『ポラリス王国』を抜けるまで大人しくしてなさい。通例の結祈とのデートの時くらいは包囲を解いてあげるから」

「それってつまりそれ以外じゃ包囲は解かないって事かよ!! しかも付き合ってる訳でもないのに結祈とのデートがいつの間にか通例になってるぞどうしよう!」

「嫌なの……?」


 アーサーが天に向かって叫ぶ様子に、結祈が悲しそうな顔でそう言う。そしてさらに、それに呼応するように責めるような三つの視線がアーサーを射抜く。


「うっ……そりゃ嫌じゃない、けどさ」

「「「「けど?」」」」

「心臓が保たないんだよ! デート中はなぜか結祈が強気だし、こっちはずっとドキドキしっぱなしなんだぞ!? ああいうのって、ちゃんとした好きな人ができた時とかにするもんじゃないのか!?」


 再び叫んだアーサーの様子に四人は一か所に円陣を組むように固まり、アーサーに聞こえないように小声で話し始める。


「(ねえ、あいつ本気で言ってんの? 鋭くないあたしでも気付いてるのに? っていうか結祈は隠す気もないのに!?)」

「(落ち着けサラ、声が大きくなってるぞ。ちなみにアイツはマジで言ってる)」

「(……結祈さんは苦労しますね)」

「(まあ、あえてハッキリ言ってないし、気付かせる気もないしね)」

「(((だったらだったで少しは隠そうよ!?)))」


 アーサーと結祈の相変わらずの調子に三人は頭を抱える。けれどいち早く回復したシルフィーが呆れにも似た声音でアーサーに打開策を提示する。


「慣れないなら回数こなして慣れるしかないんじゃないんですか? 通例のデートもできますし、一石二鳥ですよ?」

「……あれ? そういう事なのか???」

「(((ナーイスシルフィー!)))」


 見事に四人の掌の上で踊っている訳だが、この手の話に疎い馬鹿野郎はそんな事にも気づかずに頭を捻り続ける。まあ、これが弱点なのだとしたらかなり可愛いものだが。

 そんな五人の珍道中は、やがて橋に差し掛かる。ただ一言に橋と言ってもそんなに大仰なものではなく、数メートル程度の橋梁(きょうりょう)だ。


「街中なのに川があるのか?」


 珍しい物を見たように、アレックスは手すりの方に向かう。アーサーも後に続くように手すりに手を掛け、アレックスの疑問に答える。


「違うよアレックス、これは生活用の排水路だ。まあ、それにしては流れが急だとは思うけど」

「それはあれじゃねえか? 昨日一昨日と激しめの雨が降っただろ、それが原因じゃねえのか?」

「ああ、なるほど。そうかもな」

「何はともあれ、テメェは近づき過ぎて落ちたりするなよ? 俺じゃテメェを助けに行けねえからな。『纏雷(てんらい)』を使ったら感電させちまう」

「分かってるよ。そもそも手すりがあるし、落ちたりなんてしないだろ。というか、アレックスの方が興味津々だったろ」


 気付けば他の三人は三人で、ガールズトークをしながら先に進んでいた。意図せず包囲を解かれ、アーサーは内心ガッツポーズを取って三人の方に向かおうとする。


「―――っ!」


 その時、激しい排水の流れの音の合間を抜けて、アーサーの耳に何かが聞こえた。


「……アレックス、今何か聞こえなかったか?」

「何かって何だよ」

「甲高い声だ。たしか下から……?」


 下、というと排水路しかないはずだ。半信半疑でアレックスと共に再び排水路を覗くとそこには、白い毛並みの獣がいた。ようするに、何の変哲もない子犬が激流に飲まれて流されていたのだ。その様子は今にも水に飲み込まれて溺れ死にそうだった。


「おいアレックス早く助けに行ってくれ! あのままじゃ溺れ死ぬぞ!?」

「だからさっき言っただろうが! 身体強化なしに飛び込んだら俺が死ぬし、『纏雷』使ったら俺がトドメを刺す事なるんだよ! 今結祈かサラを呼んで……」


 アレックスが三人の方を向き、一瞬アーサーから視線を外した時だった。アレックスは背後から地面を蹴った時に鳴る、ダンッ! という音を聞いた。異変に気付いたアレックスがすぐに振り向くが、そこには誰の姿も無かった。


「……おい、アーサー? 一体どこ行った!?」


 その直後。

 ボチャンッ! と眼下の排水路に何か大きなモノが落ちたような音が鳴った。その意味を理解して、アレックスは顔を青くした。


「あの馬鹿野郎!! あれだけ言ったのに飛び込みやがったのか!?」


 すぐに手すりに駆け寄って流れの下の方を見るが、流れが速く、アーサーの姿は確認できない。


「どうしたのよアレックス」


 二人の異変に気付いたのか、前を歩いていた三人も戻ってきた。アレックスは早口でまくし立てるように、


「あの馬鹿が流れてる犬を助けるために飛び込みやがった! 俺の『纏雷』じゃ助けるどころか感電で殺しちまう。サラか結祈で助けに行ってくれ!」


 それを聞いて一瞬ぎょっとした後、彼女達はすぐに行動を起こした。サラは嗅覚、結祈は自然魔力感知を全開にしてアーサーを探す、が。


「……ダメ。あたしの嗅覚も水の中までは追えないわ。アーサーの位置が掴めない!」

「じゃあ結祈は!?」

「さっきからやってるけど、魔力感知ができないっ! どうしてかは分からないけど、この周囲の自然魔力があの高いビルに吸い込まれてる! そのせいでアーサーを見つけられない!!」

「じゃあシルフィーは!?」

「た、探索用の魔術ならありますが、ちょっと準備が必要なので今すぐには使えませんっ!」


 八方塞がりだった。

 残された彼らにはすぐにアーサーを追う術は無い。こうしている今も、アーサーの体は激流に流されるまま移動を続けている。

 アーサー・レンフィールド、消息どころか生死不明。

 それは包囲を解いてから僅か数分後の出来事だった。

ありがとうございます。

今回から第五章の始まりです。

今までは基本的に章ごとに話を区切ってましたが、この章は次回の第六章と連動させていきます。

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