第52話 異世界の温泉宿にて〜陽菜との湯煙の戯れ〜
※女の子の体つきについての描写があります!苦手な方はブラウザバックで!
早朝、まだ夜の名残が残る空の下、俺は目を覚ました。部屋の窓から差し込む仄かな光に、昨日からの疲れが少し癒えた気がする。
「せっかくだから、朝風呂でも入るか」
壁に掛けられた案内図を眺めていると、興味深い記載があった。
「『朝6時から8時までは露天風呂が混浴になります』か……」
昨晩はこの表示を見ずに行ってスイリアと出くわしてしまった。
まあ、この時間なら誰もいないだろう(フラグ)
半ば独り言のように呟き、俺は用意されていた湯浴み着に着替えると、露天風呂へと足を運んだ。
宿の廊下を歩く足音だけが静寂を破る。木造の廊下は、日本の伝統的な旅館と変わらない作りだ。
しかし、所々に施された装飾は明らかに異なる。壁に掛けられた精巧な木彫りは森の精霊を表しているようで、廊下の欄間には見慣れぬ花の模様が浮き彫りされていた。
古木の香りと、かすかな硫黄の匂いが混ざる独特の空気を感じながら、俺は露天風呂への扉に手をかけた。開けた瞬間、柔らかな湯気が顔を包み込む。そして、湯気の向こうからかすかな水音が聞こえてきた。
(誰かいるのか……)
一瞬ためらったが、混浴と明記されていたのだから堂々と入るべきだろう。
何度も風呂場の入り口でこんな風に迷う自分に、少し苦笑した。
腰に巻いたタオルを確認し、俺は深呼吸して露天風呂へと踏み入れた。
「あ……」
湯船の向こうから、驚いたような声が聞こえた。視界がゆっくりと晴れ、湯気の向こうに浮かび上がったのは、思いがけない人物——陽菜だった。
「さだっち!?」
彼女は肩まで湯に浸かり、驚いた表情を浮かべている。頬は湯気のせいか、それとも恥ずかしさのせいか、桜色に染まっていた。
髪が湿気で少し波打ち、いつもより大人びた印象を与えている。
「すまん、混浴だと聞いていたが……邪魔だったら退散するよ」
俺は少し戸惑いながら言葉を探した。不用意に相手を困らせたかもしれないという後悔が胸に広がる。
「う、うん……いいよ……ひとりだと心細かったし」
陽菜は少し遠慮がちに言った。その表情には少しの緊張と、それでいて奇妙な安堵感が混ざっているように見えた。
俺は湯船の反対側に静かに滑り込んだ。広い露天風呂だが、それでも同じ湯船に若い女性と浸かると思うと、何とも言えない緊張感がある。
「湯加減はどうだ?」
気まずさを紛らわすように何気ない会話を始めた。
「うん、すっごく気持ちいい! 実はさっき少し入ったんだけど、もう一回入りたくなっちゃって……」
陽菜の顔はますます赤みを帯びてきた。蒸気で湿った前髪が彼女の頬にまとわりつき、何とも言えない愛らしさを醸し出している。まるで戦場のない平和な世界で育った無垢な少女そのもの。
「そうか。確かにいい湯だ……」
俺も湯に身を沈め、空を見上げた。明け方の空には、まだかすかに月が残っている。その光が湯面を銀色に照らし、不思議な神秘的な雰囲気を作り出していた。
「朝の露天風呂って幻想的だね……」
陽菜もまた空を見上げ、囁くように言った。
俺たちはしばらく静かに湯に浸かりながら、空を眺めていた。朝の冷たい空気と、温かい湯の絶妙なコントラストが心地よい。
「ねえ、さだっち……」
陽菜がふいに湯の中で少し近づいてきた。
「なんだ?」
「日本に帰れたらさ、会津の温泉めぐりしたいな……」
彼女の目には郷愁の色が浮かんでいた。故郷を思い出す瞳の奥に、かすかな寂しさも垣間見える。
「ああ、いいな……」
俺もふと懐かしさを覚えた。会津には行ったことがないが、故郷の日本を思い出す。
「軍務が忙しくて、ゆっくり温泉に浸かったのはいつだっただろう……」
「さだっちも温泉、好きなの?」
「ああ、けれど機会がなくてな」
陽菜はゆっくりと距離を縮め、いつの間にか俺の隣に座っていた。湯の中で彼女の肩が時折触れ、その温もりに俺は思わず身体が強張る。不思議だ、敵機の爆音の中でも動じなかった俺が、なぜこんな風に緊張するのだろう。
「会津の温泉はね、泉質が地域によって全然違うの。会津若松の東山温泉は柔らかいお湯で、熱塩温泉は塩分が強くてお肌がすべすべになるんだよ」
陽菜は故郷の温泉について熱心に語り始めた。彼女の言葉には、故郷への愛着と誇りが溢れている。
「ほう、それは興味深いな。地域によって泉質が全く違うというのは、地質学的に見ても面白い」
俺は頷きながら聞いていたが、話の内容より語る彼女の表情の変化に心を奪われていた。これまで陽菜の話を、こんな風にじっくり聞いたことはなかったかもしれない。
「それに、磐梯熱海は……あっ!」
彼女が身を乗り出した拍子に、湯から肩がすっと現れた。慌てて視線をそらした俺だったが、一瞬見えた白い肌の輝きが、妙に印象に残る。
陽菜は慌てて湯に身を沈め、恥ずかしそうに笑った。
「ご、ごめん……」
「い、いや……こちらこそ」
俺も思わず頬が熱くなるのを感じた。こんな風に赤面するなんて、何年ぶりだろう。海軍で鍛え上げた精神が、こんな場所で崩れるとは。
「あの……さだっちは、スイリアのことどう思ってるの?」
突然の質問に、俺は驚いた。湯に浸かる彼女の横顔は、いつもより大人びて見える。
「スイリア? なぜそんなことを……」
「だって、さだっちとスイリア、結構仲良さそうで……」
陽菜の声には、かすかに不安が混じっているように感じた。彼女の瞳が僅かに揺れ、まるで俺の答えを恐れているかのよう。
「医師としては確かに尊敬している。だが、特別な感情はない」
「そっか……」
陽菜の表情が少し明るくなったように見えた。俺の想像だろうか?
「陽菜、なぜそんなことを聞くんだ?」
「べ、別に……! ただ、気になって……」
彼女は慌てて言葉を濁した。その仕草があまりにも初々しくて、思わず笑みがこぼれる。
「なにがおかしいの!」
陽菜は水面を叩いて抗議した。その仕草が、妙に子供っぽくて愛らしい。思わず目が和んでしまう。
「いや……笑っているわけではない。ただ……」
「ただ、なに?」
「お前の素直な反応が、見ていて楽しいんだ」
その言葉に、陽菜は再び真っ赤になった。湯の熱さと相まって、彼女の頬は燃えるような色に染まっている。
「もう……からかわないでよ」
彼女は口をとがらせたが、その目は笑っていた。
「ところで、陽菜……」
「なに?」
「君は……元の世界に戻りたいか?」
その質問に、陽菜は少し考えるように静かになった。彼女の目が遠くを見つめる。
「うん……やっぱり帰りたい。家族や友達がいるし、学校もあるし……」
彼女の声には迷いと確信が入り混じっていた。
「でも……」
陽菜が続ける。
「この世界で過ごす時間も、すごく大切だと思う。特に……さだっちと一緒に冒険するのは楽しいよ」
その言葉に、俺の胸に温かいものが広がった。不思議だ、悲惨な戦場を見てきた俺の心が、こんな風に感情を取り戻すとは。
「そうか……」
「さだっちは? 帰りたい?」
「ああ……俺には責務がある。戦場で散った仲間たちのためにも……」
湯煙の向こうで、陽菜の表情が少し曇った気がした。
「そっか……でも、帰れない可能性もあるよね?」
「それも覚悟している」
静寂が二人の間に流れた。ただ聞こえるのは、渓流のせせらぎと風の音だけ。
「ねえ、さだっち……もし帰れなかったら、この世界で一緒に生きていこうね」
陽菜の言葉は、まるで少女の無邪気な約束のようでありながら、どこか覚悟を秘めているようにも感じられた。
「ああ……約束だ」
俺も静かに答えた。
朝日が少しずつ山の稜線から顔を出し始め、光が二人を照らし出す。湯気が舞い上がる。その光景は、まるで現実とも幻ともつかない、不思議な空間を作り出していた。
陽菜は再び少し距離を縮め、肩が触れるほどの近さになった。その素肌の温もりが、湯の中でかすかに伝わってくる。
「さだっち……」
彼女の声が小さくなる。
「なんだ?」
「……何でもない」
陽菜は再び空を見上げた。その横顔は、湯気と朝日の中で大人びて見えた。
ぷわっと風が吹き、彼女の髪が揺れる。その瞬間、再び湯から上半身が少し持ち上がり、水滴が輝く胸元が目に入った。
さっきよりも近い距離で見るその姿は、より一層艶やかだった。
滑らかな肩のラインから、鎖骨の窪み、そして徐々に膨らむ胸の始まり。
思春期特有の張りと柔らかさを兼ね備えた双丘は、湯に濡れて一層魅力的に輝いていた。
陽菜は今度は慌てた様子もなく、むしろ意図的であるかのように、しばらくその姿勢を保っていた。
そして静かに湯に身を沈めながら、俺の目をじっと見つめた。
「見ちゃった...?」
その声には、照れと共に何か挑戦的なものが含まれていた。
「見るなとは言わなかっただろう...」
俺はつい言ってしまい、自分でも驚いた。こんな軽口をたたく男ではなかったはずだ。
陽菜はくすりと笑い、再び空を見上げた。
「朝日、綺麗だね...」
「ああ...」
二人はしばらく静かに湯に浸かり続けた。時間が止まったかのような、不思議な静寂が流れる。
「そろそろ上がるか...のぼせそうだ」
俺が言うと、陽菜はちょっと残念そうな顔をしたが、頷いた。
「うん...私も」
お互いに背を向け合いながら湯から上がり、タオルを体に巻いた。
「あのね、さだっち...」
陽菜が振り返り、真剣な表情で言った。
「なんだ?」
「今朝のこと...秘密にしておこうね」
「ああ...もちろんだ」
陽菜は微笑み、浴場を後にした。俺もしばらくして後を追った。
その朝、俺たちの関係は何かが少し変わったように感じた。静かな温泉宿での束の間の平和は、この先も待ち受ける試練に向き合う勇気を与えてくれたようだ。
窓辺に立ち、朝日に照らされた異世界の景色を眺めながら、俺は静かに微笑んだ。
(異世界での生活も、悪くないかもしれないな……)




