第45話 贈り物に込める想い
今の状況を確認する。
タジマティア収穫祭にて、即席の防衛司令官に任じられた俺。
美女行列にて怪物アカブトマガスが出現するも、なんやかんや無事に解決した。
町民たちに感謝され、祭りのプログラムが一通り終わり、陽菜、スイリア、ミアと3人で出店を回って楽しい時間を過ごしていた。
だがしかし、俺がみんなに何か買うよと軽い提案をした結果、逆に俺が選ぶように言われて、一人取り残されてしまうのであった。
えっ、なんか俺悪いことした?逆に3人が俺にものを送りたいってどういうことなんだろう。
まぁいいか、とりあえず3人それぞれにいい感じのやつを買えばいいみたいだが、はてさて、女性に贈り物なんてしたことがない。一体どうすれば。
(そうだ、二時間後にまたここに集合と言っていたな。早く選ばないと)
俺は一人、ぽつんと夜の市場を歩き始めた。祭りの灯りが優しく照らす中、まるで敵前偵察でもするかのように、各店をじっくりと見て回る。
(三人の顔を思い浮かべながら、それぞれに合うものを……)
二時間後。
再び広場に集合した俺たちは、Cのような形をしている長椅子に四人で向かい合うようにして座っていた。
なんだ、この緊張感。
すると、陽菜が口火を切って、
「じゃあそしたら、プレゼント交換たーいむ! ぱちぱちぱち~!」
と明るく言った。
「さてさて、さだっちは何を選んだのかな~? まずはミアのから!」
俺は深呼吸して、最初の包みを取り出す。
「ミアには、藤の花の髪飾りにしてみた。ミアに合う花言葉としては、『忠実な』『決して離れない』という意味をこめてこの花にしてみた。色的にもスイリアの弟子、メイドという立場から、控えめでありつつも、おしゃれな感じである紫色が似合っていると思ってな」
ミアにそれを言うと、とてもうれしそうにして受け取ってくれた。よかった。
「もしよかったら、つけてほしいにゃ……」
「いや、俺髪飾りのつけ方とかわからないし……」
「いいから! やってあげなよ! うちが教えてあげるからさ!」
そして陽菜の指導の下、何とか着けてあげた。
ミアは手鏡を見ながら、満足そうに
「ありがとうございますにゃ」
といった。とりあえず一人目は成功したようだ。
「じゃあ次はスイリアで!!」
「ええっ、私? なんか緊張しちゃうなぁ」
そう言って俺の前にスイリアが立った。
俺はスイリアに包みを渡しながら言った。
「スイリアにはオオヤマザクラのかんざしを贈ろうと思ってな。このオオヤマザクラというのは、桜の一種だが、ここから北西に行ったミッシーマの村の花だそうで、花言葉は『優れた美人』だ。スイリアには、過去の人間関係のトラウマがあるようだが、見た目も、そして能力も非常に高い。だから、自分に自信をもって生きてほしいと思って選んだ」
スイリアは包みを開けた後に俺の話を聞いてぽかんとした顔をしていたが、やがてぼろぼろと涙を流し始めた。
(えっ、まずい!?)
「えっ、ちょっ、やっぱり気に入らなかったか?」
まさか泣かれるとは思わなかったので、すっかり慌ててしまう。
「ううん、そうじゃないの。とてもうれしくて。私のことよく見ていてくれてありがとう。あの、あたしにもつけてくださる?」
「わかった。痛かったら言ってな」
「はい」
スイリアは目を閉じて気持ちよさそうに着け終わるのを待っている。銀紫色の髪に桜の簪が映えて、月光の下でとても美しく見えた。
着け終わると、ミアから鏡をもらって、うれしそうにのぞき込んだ。
「芦名殿、ありがとうございます。大事にしますね」
スイリアは今まで見た中で一番幸せそうな顔でほほ笑んだ。
(よかった……本当に喜んでくれているようだ)
「さぁ、最後はこの私です。トリだから、ちょっと期待しちゃってもいいよね?」
前の二人のやり取りをいまかいまかと待っている陽菜。そんなに期待されるとやりづらいな。
「一番最後にしたのは陽菜だからな。まぁいいや。じゃあ、陽菜にはこれだ」
そういうと俺は、小さな包みを陽菜に渡した。
「なぁに?」
そういっておもむろに包みを開けた。
「タチオアオイのネックレスだ。タチオアオイの花言葉は『気高く威厳に満ちた美』らしい。具体的にどのような解釈をするかは任せるが、陽菜はいつまでも自信をもってこのタチオアオイのように堂々と生きていってほしいと思ってな。どうだろうか」
そういうと、陽菜はしばらくネックレスを見つめていると、にっこり笑い、
「じゃあ、うちにも着けてくれる?」
「もちろん。でも、今の着物には合わなそうだがいいか?」
「構わないよ。いいからつけて?」
そういうと、陽菜は後ろをくるりと向いた。
着け終わると、陽菜はじっと胸元のネックレスを見て微笑んだ。
「さだっち、ありがとうね。こんな素敵なものをもらっちゃって」
「いや、女性へのプレゼントなんて贈ったことがないから、気に入ってくれてよかったよ」
「でもさだっち、よく花言葉なんて知っていたね」
「あ~いや、アクセサリー屋の主人に聞きながらだよ。ははは」
嘘である。小さいころから花を愛でるのが好きだったから、花言葉を多く知っていたのがこんなところで役に立つとは思わなかった。
(同級生たちからは女々しいとよくからかわれたっけ。地味に傷ついていたから、このことは黙っておこう。将来、こういう男性らしさ、女性らしさみたいな固定観念を気にしないで生きれる時代が来るといいのだが)
「さて、祭りも終盤だし、ここで帰るとしますかね」
そう言って、俺はスイリアの家の方角に歩こうとする。
「ちょっと待ってください、まだ私たちから芦名殿へのプレゼントを渡してませんよ」
「ああ、そうだった。自分のことばかりで忘れてた!」
「そういやそうだったな。どれ、君たちは俺に何を選んでくれたのかな?」
今回は、芦名がプレゼントを選ぶ姿をメインに描きました。
女性への贈り物選びで四苦八苦する姿は、昭和の軍人らしい不器用さがありながら、それぞれのことをよく見ている優しさも感じられたのではないでしょうか。
次回はいよいよ、三人からのサプライズプレゼント! 果たして彼女たちは何を選んだのでしょうか?
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