表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/61

第34話 回復と祭りの予感~町に広がる笑顔~

 陽菜の治療のため、しばらく俺たちはタジマティアの街に滞在することになった。


早朝の空気が心地よく、街は活気を取り戻しつつあった。


 「芦名殿!」


 町の石畳の道を歩いていると、太った町長が息を切らせながら駆け寄ってきた。


彼の顔は汗ばみ、両手を大きく振りながら俺を呼び止める。


 「君たちのおかげで町は無事だった。このままでは大惨事になるところだったよ!」


 町長は頭を何度も下げて礼を言う。彼の丸い頬が紅潮し、本当に感謝していることが伝わってきた。


 「実はね、祭りをやり直そうという話になっていて……是非、君たちにも参加してほしいんだ」


 俺は渋る素振りを見せた。


確かにアカブトマガスは撃退したが、完全に倒したという確証はない。


 「俺たちは完全に倒したわけではないんです。また現れるかもしれません。祭りをやるのは危険かと……」


 「そう言うだろうと思ったよ。だが、君たちがいてくれれば安心だ。それに、町の人たちも恩人に何かお礼がしたいと言っているんだ」


 熱心に頼む町長の顔を見れば、断るのも悪いなと思った。


それに、陽菜もだいぶ回復してきてはいるが、体力を回復するいい機会かもしれない。彼女の笑顔を見たいという気持ちもどこかにあった。


 「わかりました。参加させていただきます」


 町長は満面の笑みを浮かべ、「よし!」と拳を軽く握った。

その仕草は子供のようで思わず微笑んでしまう。彼は勢いよく頭を下げると、次の準備のためだろうか、急いで役場の方へと走り去っていった。


 スイリアの診療所に戻ると、玄関先でミアが陽菜と何やら楽しそうに話していた。二人とも笑顔で、陽菜の頬にはすこし血色が戻っている。病気の影は薄れつつあるようだ。


 「スイリア様のこと、町の人みんなから「エルフの救い手」って呼ばれ始めてるんですよ〜」


 ミアの嬉しそうな報告に、スイリアは恥ずかしそうに手を振った。彼女の銀紫色の髪が揺れ、赤くなった頬が透き通るように美しい。


 「や、やめてよミア。そんな大げさな……」


 俺は思わず口を挟んだ。


 「本当だぞ。町で噂になってる。『ハーフエルフの医術師が怪物から町を救った』ってな」


 スイリアは顔を真っ赤にして、「もう、やめてください!」と両手で頬を覆った。その仕草があまりにも可愛らしくて、思わず目を細めてしまう。普段の凛とした姿からは想像できない一面だ。


 「でも嬉しいでしょ?」


 陽菜が茶目っ気たっぷりの声で言うと、スイリアはモジモジとして、「……うん」と小さく頷いた。その正直な反応に、胸がほんのり温かくなる。


 「スイリア、君は本当にすごいんだ。ずっと隠れるように暮らしていたのに、今は町の人たちも君を認めている。堂々としていていいんだぞ」


 「芦名殿……」


 彼女の瞳が潤んだ気がしたが、すぐに彼女は目をそらして、「お、お昼の準備をしなきゃ」と言って台所へ駆け込んでしまった。その背中が急いでいるようで、どこか照れくさそうだった。


 陽菜はそんなスイリアを見送りながらクスリと笑った。


 「さだっち、ナイスフォロー♪」

 「え? 何が?」

 「もう〜、鈍いなぁ」


 何を言われているのか分からず、頭をかく俺を、陽菜とミアはニヤニヤしながら見つめていた。ミアの猫耳がピクピクと動き、明らかに面白がっている。女性というのは時々分からない生き物だ。


 診療所のベッドで休む陽菜は日に日に血色を取り戻し、スイリアの日々の治癒魔法の甲斐あって、やがて自分で起き上がれるほどに回復していった。


 「よーし! 今日はお散歩行けるぞー!」


 陽菜は診療所の縁側に立ち、両手を大きく広げて伸びをした。その姿は、まるで冬眠から目覚めた動物のように生き生きとしていた。朝日を浴びた彼女の姿が、これほど嬉しく感じるとは思わなかった。


 「まだ無理はしないでくださいね」


 スイリアが心配そうに声をかける。その眼差しには、医者としての責任感だけでなく、友人を気遣う温かさが込められていた。


 「大丈夫だって! ねぇ、さだっち、町の様子見に行こうよ! 祭りの準備、もう始まってるんでしょ?」


 「ああ。じゃあ、ちょっとだけな」


 俺の返事に、陽菜は子供のように弾んで玄関へ向かった。その軽やかな足取りを見ていると、病気の心配もすっかり消えていくようだった。


 後ろから見ていたスイリアとミアも思わず微笑んだ。二人の表情には安堵の色が浮かんでいる。


 「あの子、元気になりましたね」


 スイリアはホッとしたように言った。その声には医師としての達成感と、友人としての喜びが混ざっている。


 「うん、ホントに。あんなに危なかったのにな……」


 俺も安堵の溜息をつく。生死の境をさまよった陽菜が、これほど元気になるとは正直驚きだった。


 「いえ、それだけ生命力が強いということですよ。こんなに早く回復するとは思いませんでした」


 スイリアの言葉に、ミアも猫耳をピクピクさせながら同意した。


 「そうですにゃ〜。陽菜さんは強い子ですにゃ」


 そんな彼女たちを見ていると、何だかほっこりとした気持ちになる。異世界に来てからというもの、戦いと冒険の日々だったが、こんな穏やかな瞬間があるのも悪くない。


 「そういえば、芦名殿は祭りの時、何をするんですか?」


 スイリアの問いに、俺はふと考え込んだ。彼女の真剣な表情が、何故か可愛らしく思えた。


 「町長がリベンジした祭りの警備をしてほしいとか言ってたが……まさか、またあの怪物が来るかもしれないから、いろいろ考えなくてはな……。スイリアたちは何をするんだ?」


 スイリアは少し考えてから、「私は医療班として待機しようと思います」と答えた。彼女の責任感の強さに、思わず微笑んでしまう。


 「ミアは?」


 「私はスイリア様のお供ですにゃ〜」


 ミアが忠誠心たっぷりに答えると、彼女の尻尾が嬉しそうに左右に振れた。


 「陽菜は……」


 その時、玄関から陽菜の声が響いた。


 「さだっちぃ! 早く来てよー!」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。陽菜の明るい声は、この診療所に温かな空気を運んでくる。


 「あの子は……見物客でいいだろうな」


 「そうですね。まだ無理はさせられませんし」


 そして私たちは、陽菜を迎えに行くため、玄関へと向かった。


街の活気と陽菜の笑顔に背中を押されるように。

お読みいただき、誠にありがとうございます!


皆さんの応援が私の創作の原動力となっています。


少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマークや感想、評価ポイントなどをいただけると大変嬉しいです。


「良かった」「このキャラクターの言動が印象的だった」など、ほんの一言でも構いません。


読者の皆さんの声を聞くことで、より良い物語を紡いでいけると思っています。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子SIDE(女性向けリライト版)を読みたい方はこちら
https://ncode.syosetu.com/n3449kj 陽菜外伝「陽菜の歴史好きJKの日常 ~歴史に恋する私の放課後~」
https://ncode.syosetu.com/n0531kk/ スイリア外伝「白き手袋の癒し手 〜エルフの医師と小さな村の物語〜」
https://ncode.syosetu.com/n9642kj/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ