表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駆逐艦長ですが、異世界会津に召喚されました! ~令和JKとハーフエルフ王女とゆく、戦記×青春のほのぼの冒険譚~  作者: 房吉
第2章 タジマティア(南会津)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/61

第33話 癒しの魔法

 天狗の冷泉から瓶に満たした冷たい水を抱え、タジマティアへの帰路を急ぐ俺たち。


 空は夕暮れに染まり始め、木々の間から差し込む残照が、スイリアの銀紫色の髪を優しく照らしていた。まるで妖精のように彼女の周りだけが輝いて見える。


 「陽菜のことが心配だな」


 思わず呟いた言葉に、スイリアは険しい表情で頷いた。普段は冷静な彼女の瞳に、珍しく焦りの色が滲んでいる。


 「私も……。アカブトマガスの毒は時間との勝負です。早く戻りましょう」


 彼女の瞳には焦りと責任感が宿っている。


「ハーフエルフの医者」というよりも、「一人の友人を救いたい」という思いがありありと伝わってきた。


その真摯な様子に、胸が温かくなる感覚を覚えた。


 「水があれば大丈夫なんだろうな?」


 「はい。天狗の冷泉の力は絶大ですから……きっと」


 スイリアはそう言いながらも、言葉の最後で微かに声を震わせた。


不安が隠しきれないのだろう。彼女の長い睫毛が震え、視線を一瞬だけ落とす。


 俺は思わず「絶対に間に合わせる」と自分に言い聞かせるように拳を握りしめた。風が木々を揺らし、まるで俺たちの足を早めるように背中を押してくれる。


 「この峠を下りきれば、あとは平坦な道です。もう少しの辛抱ですね」


 スイリアの言葉に、俺は黙って頷いた。二人の足音だけが、静かな森に響いていく。




 診療所に駆け込んだ俺たちを、ミアが猫耳をピンと立てて迎えた。彼女の表情には安堵と期待が入り混じっている。


 「お帰りなさいませ! 水は手に入りましたかにゃ?」


 「ああ、何とか」


 瓶を差し出すと、ミアは嬉しそうに両手で受け取り、まるで宝物を扱うかのように慎重に運んでいく。その仕草がなんとも猫そのものだった。


急いでいるのに、つい微笑ましく思えてしまう。


 俺は荒い息をなんとか整えながら、陽菜が寝かされている奥の部屋へ足を向けた。廊下を走る足音が焦りを表すように、硬く冷たい音を立てる。


 ベッドに横たわる陽菜は、顔色が土気色で、荒い呼吸を繰り返している。

見れば分かる。明らかに悪化していた。額には冷や汗が浮かび、眉間には苦痛のしわが刻まれている。


 「スイリア、頼む……」


 言葉にならない焦りが胸をかき乱す。


それに応えるように、スイリアは既に陽菜のベッドサイドに立ち、魔法の準備を始めていた。


医師としての冷静さを取り戻した彼女の目は、真剣そのものだ。


 彼女は両手を陽菜の上に広げ、瞳を閉じた。その姿はまるで祈りを捧げる巫女のように神々しい。


 「精霊よ、我が言葉に耳を傾けたまえ……浄めの水と治癒の力を、この子に」


 祈りの言葉とともに、ミアが持ってきた天狗の冷泉の水が淡い青い光を帯び始める。その光は徐々に強さを増し、診療所内を幻想的に照らしていく。


 スイリアの指先から陽菜の体へと、生命力とも呼べるような光が流れ込んでいく。「すごい……」と思わず声が漏れた。


 水が描く空中の軌跡が陽菜の全身を包み込み、彼女の肌に吸収されていく。


スイリアの顔には強い集中力が表れ、額に汗が浮かんでいる。魔法の詠唱に合わせて、部屋の空気が振動するようだった。


 ミアもじっと見守り、小さく祈るような仕草をしている。この小さな診療所の一室で、みんなの祈りが陽菜に注がれている。


 魔法の儀式が終わって数時間後。陽菜のまぶたがゆっくりと持ち上がった。かすかな唇の動きに、俺は思わず身を乗り出した。



 「さだっち……ここは……?」




 弱々しいながらも聞き慣れた声に、俺は思わず胸をなで下ろした。彼女の頬に少しずつ血の気が戻り始めている。


 「おお、意識を取り戻したか! ここは診療所だ」


 陽菜はぼんやりとした表情で辺りを見回し、「治療してくれたのは……さだっち?」と聞いてきた。


その素直な問いかけに、思わず微笑みがこぼれる。


 「いや、そこにいるスイリアだ」


 俺の言葉に振り向いた先には、奥で薬草を調合していたスイリアの姿。彼女はこちらに気づくと、急いで陽菜のベッドに駆け寄ってきた。


 その足取りには、いつもの落ち着きがない。心配していたんだな、と思わず微笑んでしまう。


普段は冷静沈着な彼女だが、今は安堵の感情が抑えきれないようだった。


 「気が付かれたのですね! 気分はいかがですか?」


 スイリアは陽菜の額に手を当て、脈を取りながら診察している。その手つきは優しく、でも確かな技術を感じさせる。


 「まだだるいけど……なんかすがすがしい気分です」


 陽菜は弱々しい笑顔を浮かべ、「治療してくださり、ありがとうございました」と礼を言った。その素直な感謝の言葉に、スイリアの表情が和らぐ。


 「礼なら芦名殿にも言ってください。芦名殿のおかげで、毒の治療に必要な水が手に入ったのですから」


 「いや、俺だけではないさ。山道を案内してくれたのはスイリアだし、幻影の試練を乗り越えられたのも二人だったからこそだ」


 照れくさくて思わず逸らした視線の先で、スイリアも頬を赤らめていた。彼女の普段の毅然とした姿からは想像できない可愛らしさに、胸の奥がほんのり熱くなる。


 「そっか、スイリアさん、さだっち、ありがとう……」


 陽菜は安心したように瞳を閉じた。彼女の額から汗が引き、穏やかな寝息が聞こえてくる。


まるで清らかな小川のせせらぎのような、安らぎに満ちた呼吸だった。


 ベッドのそばで微笑み合うスイリアと俺。そしてほっとした表情で見守るミア。


小さな診療所には、確かな絆が灯っていた。

今回は、芦名とスイリアが手に入れた天狗の冷泉の水で、ついに陽菜の治療に成功する場面をお届けしました。命を救うために奔走する仲間たちの姿、そして治療の成功に安堵する場面には、彼らの深い絆が表れています。


次回もぜひお楽しみに!



お読みいただき、誠にありがとうございます!


皆さんの応援が私の創作の原動力となっています。


少しでも楽しんでいただけたなら、ブックマークや感想、評価ポイントなどをいただけると大変嬉しいです。


「良かった」「このキャラクターの言動が印象的だった」など、ほんの一言でも構いません。


読者の皆さんの声を聞くことで、より良い物語を紡いでいけると思っています。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子SIDE(女性向けリライト版)を読みたい方はこちら
https://ncode.syosetu.com/n3449kj 陽菜外伝「陽菜の歴史好きJKの日常 ~歴史に恋する私の放課後~」
https://ncode.syosetu.com/n0531kk/ スイリア外伝「白き手袋の癒し手 〜エルフの医師と小さな村の物語〜」
https://ncode.syosetu.com/n9642kj/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ