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フラマンタスの刃83

 あれだけ集っていたゾンビ達が霞の様に消えた。

 全員が訝った。

「フラ兄ちゃんがやったんだよ、きっと!」

 アネーリオ君の声で私もそうだと確信した。これで世界に平和が戻るのだろうか。

 一瞬の静寂の後、大地が激しく揺れた。そして脆くも城が崩落しようとしているのが分かった。

「フラマンタスさん」

 マリアンヌ姫は彼の名を口にしていた。ここからあの壁まで距離があった。その壁から最終地点までの距離は分からない。城が崩落するか、フラマンタスが間に合うか、際どいところだろう。

 全員が揺れる城を眺めていた。

 と、その時、頭上から光りが差した。

 気付けばそこは森で、今の今までいた城の姿など欠片もなかった。

「おーい!」

 声に呼ばれて気付けば、先ほどぶりの三人のレンジャーが駆けてきた。

「ハンス、ディー、お前らも無事だったか!」

 レンジャー達は再会を祝いあっていた。

「急に城が消え失せたんだ」

 外にいたレンジャーの一人が言った。

「ちょっと、待ってください。じゃあ、フラマンタスさんもまさか」

 ダニエルが驚きの声を上げる。

 そんなこと信じたくない! 神様! 今こそ、我々に祝福を!

 マリアンヌ姫はその場に跪き一心にフラマンタスの無事を願った。

「姫様」

 ヒューも倣って祈りはじめ、すると、レンジャー達が戸惑う中、仲間達が後に続いた。

 ガサリ。

 茂みが揺れる音がした。秋の枯れ草を掻き分け、何かがやって来る。

「クマか?」

 レンジャーらがそう言い弓矢を構える。

「弓矢を下ろしてもらおう」

 凛とした懐かしい声が聴こえた。

 そうして現れたのは、紛れもなく、自分の姉、クシルスト姫だった。彼女は戦の折から行方不明だった。

「姉上!」

 マリアンヌ姫は驚きの声を上げた。

「マリアンヌ、少し背が高くなったか」

 クシルスト姫はそう言って背後を振り返った。

 居た!

「みんな、無事か?」

 その大きな身体を見た瞬間、マリアンヌ姫は涙を流してしまっていた。彼が戻って来てくれたことが嬉しい。最初から最後までいた彼がしっかりとここにいる。それだけで、それだけでマリアンヌ姫は本当に満足だった。他に求めるものなど何もない。

 ギュネが駆け寄って行くのを見ても嫉妬心も湧かない。フラマンタスはマリアンヌ姫にとって兄だった。

「おかえりなさい、フラマンタスさん」

 ギュネに抱き着かれているフラマンタスは最愛の人の顔の横から頷いて見せた。



 2



 王都に戻った頃には春になっていた。

 幾つもの無人の村や町を見る度、心は痛んだが、もうこれ以上、災厄は起きない。だが、時に夢に出ることがある。ゾンビだらけの町に村、だが、そこには必ず頼もしい盟友達がいた。

 教会の鐘が鳴る。

 マリアンヌ姫の口利きでフラマンタスの体躯に合わせたタキシードが用意された。

 ギルバート神官長が神父役を務めた。

 フラマンタスは今、純白のウェディングドレスに身を包んだギュネと向かい合っていた。

「それでは誓いのキスを」

 ギルバート神官長が言い、二人の目が交錯する。フラマンタスは身を屈めて彼女と口づけを交わした。

「二人に祝福あれ!」

 死線を共にした仲間達が次々祝いの声を述べた。

 そうして式は無事に終わり、仲間達と共に猛牛の里を借り切って宴会が開かれた。

 旅のことが大きな話題となった。あの呪われた旅に懐かしさはない。ただ、遠い記憶になりつつあった。

 マリアンヌ姫、コモド、ダニエル、アネーリオ、ヒュー。一人足りない。ペケは教会戦士団の本部の厩だ。

「ギュネさんは?」

 最愛の妻がいないことにフラマンタスは動揺した。

 まさか、さらわれたか!?

「フラちゃん、これ、今晩の二人の宿の地図ね」

 コモドが羊皮紙を渡してきた。見れば、縁の無いと思っていた高級な宿だった。

「マリちーが手配してくれたんだよ。ギュネっちは既に送り届けてきたから、フラちゃん、行ってらっしゃい。頑張ってね」

 コモドに言われ、フラマンタスは再び緊張した。

「マリアンヌお姉ちゃん!」

 アネーリオが声を上げた。

「どうしたの?」

 マリアンヌ姫が首を傾げて微笑む。

「俺、お姉ちゃんのこと好きだ! だから大人になったら結婚して下さい!」

 マリアンヌ姫は微笑んで頷いた。

「今度デートしようね、アネーリオ君」

「お、ここにも新たなカップルが誕生!」

 コモドが声を上げる。そしてその目が早く行けと促していた。

 フラマンタスは仲間達がアネーリオを冷やかすのを聴きながら酒場を後にした。

 宿に着くと、フラマンタスは三階のスイートルームへの鍵を渡された。

 彼はそのまま階段を上り、部屋の前に着く。

 フラマンタスは扉を三回ノックした。静寂の中小気味よく音が響いた。

「開いてるわよ」

 ギュネの声がした。

「入ります」

 フラマンタスはノブを回した。

 中は薄暗かった。薄いレースのカーテン越しに月の光りが部屋を照らしている。

「ここよ」

 ギュネはベッドの中に潜り込んでいた。

「ギュネさん」

 フラマンタスはゆっくり歩みを進めた。心臓の鼓動が大きくなる。ギュネは美しかった。

 彼女はベッドから起き上がった。服は着ていた。

「あの旅が無ければアタシ達が出会うこともなかったのが皮肉よね」

「そうですね。でも、我々は使命を無事に果たした」

「フラマンタス、二人で平和な家庭を築いていきましょうね」

「ええ、いや、そうだな」

 二人は見つめ合い、そして互いの身体に腕を回して深く深く口付けを交わしたのであった。



 アンデッド・ゾーン fin

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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