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フラマンタスの刃10

 隣町の人々が再び訪れたが、町中の遺体を集めるために難儀し、結局終わったのは午後五時前だった。あと少しで本物の夕暮れが訪れるという具合だが、作業を終え、改めて町の変わり果てた静寂を聴き、人々は疑心暗鬼になっているようだった。少なくとも彼らは落ち着いてはいない。まるで、ここが呪われた土地であるかのように、せかせかと帰り支度を始めている。

「教会戦士さん方はどうします? 馬車になら乗れますが」

 一緒にこの地を脱出しよう。という優しい心遣いだったが、教会戦士としてはここへ留まることを選んだ。もしも事情を知らない旅人が訪れても安心できるようにするのが彼の責任だと思っている。

「ダニエル、この方達について行くんだってな。幸運を祈るぜ」

 衛兵の一人が言い、ダニエルは頷いた。

 かくして馬車は去り、夜が訪れた。雲が多く月が隠れていた。

 大手居酒屋チェーン店の猛牛の里を訪れ、コモドとダニエルが料理を作る。マリアンヌ姫は料理は得意では無かった。彼女が作るものは焦げていたり、味が変わっていたりで、代表でコモドが辞退を述べた。王宮育ちのマリアンヌ姫はそこであまり料理をした経験が無いことを告白した。

 猛牛の里を去り、宿へ戻る。ダニエルはここで襲われたが、動揺している様子はない。昨日と同じ部屋の配置になった。フラマンタスは王族であるマリアンヌ姫を守るために部屋の扉の前で座り込んで番をしながら寝た。

 深夜を回った頃だろか。傭兵コモドが起きて来た。

「何か聴こえなかったか?」

 彼が言った。

 フラマンタスは夢うつつの状態から抜け出し、耳を澄ませた。

 ザッシ、ザッシという革製の靴底が石畳を擦る音が微かに聴こえた。音は複数だ。そして覚えのある恐ろしい声が聴こえた。感情の無いただの虚ろな鳴き声だ。それらが真っすぐこちらへ向かってきている。

 傭兵コモドはダニエルを起こしに掛かった。程なくして、施錠した扉を暴虐的に叩く音が木霊した。

 コモドと共にフラマンタスは燭台を準備して火を着けた。

「何事ですか?」

 ダニエルが来た。主のいなくなった武器と防具の店で彼は鱗型の金属が革に張り付けられた鎧を手にし身に着けていた。他にも部分部分に鎧を着け、全身板金鎧のフラマンタス程ではないが、心強い武装をしていた。

「何ですか、この音は?」

 マリアンヌ姫が眠そうな目を擦り擦り出て来た。

「どうやら敵のようです。姫は部屋の鍵を掛けて終わるまで待っていてください」

 フラマンタスが言うと、姫はかぶりを振った。

「私だって戦います」

「夜の戦いだ、君を守り切れる自信は無い」

 フラマンタスが応じた時だった。蝶番が軋み年代物の大きな扉が開け放たれる音がした。奴らが侵入して来た。

「分かりました、私は部屋で待機しています」

 マリアンヌ姫は賢くも聞き分けた。

「皆さん、どうか、御無事で」

 姫が部屋に入ると、階段を奴らが上がって来る音が聴こえて来た。広い階段だ。フラマンタスの左にサーベルを手にしたダニエルが、右には短剣二刀流のコモドが立った。

 程なくしてゾンビ達は呻き声を上げながら姿を見せた。燭台の火に照らされるその顔を見て驚いた。先ほど埋葬に協力してくれた者達だったのだ。歯を剥き出しにして襲い掛かって来た。

 フラマンタスは斬った。何という惨い真似をする。彼は真紅の屍術師を呪った。フラマンタスの隣でダニエルが勇気を見せてサーベルを刺突させたが腹を貫かれてもゾンビは歩んでいた。

 フラマンタスは代わりに首を刎ねた。ゾンビの亡骸が階段を上がってくる他のゾンビ達にぶつかり彼らごと階下に落とした。だが、また上がって来るだろう。

「ありがとうございます」

「ダニエル、首を狙うんだ」

「り、了解」

 一方のコモドはさすがの腕前だった。短剣というリーチの少ない武器でゾンビの懐を掻い潜り、腕を落として喉を断っている。フラマンタスは、その動作に見惚れていたが、ダニエルに呼ばれ我に返り、ゾンビの相手をした。

 ダニエルも首を刎ねていた。骨ごと断てる力は及第点だ。と、辛いことは言わず心強かった。

 コモドの足元に縋りつくゾンビがいた。

 コモドの革靴をかじろうとした瞬間にフラマンタスの剣は頭を床に縫い付けていた。

「あぶな、俺っちの足ごと貫くのかと思ったよ」

「そんなことはしない。君は貴重な戦力だ」

「へいへい」

 程なくしてゾンビを討滅した。

「姫様、もう大丈夫です。奴らの亡骸はありますが脅威は去りました」

 鍵が開く音がし、可愛く拳を身構えたマリアンヌ姫が出て来た。右手はセスタスを嵌め、左手には蝋燭の灯った燭台がある。

「お疲れ様でした」

 マリアンヌ姫は言った。

「まるで、俺達を襲うように命令された動きだよな。知性の乏しいゾンビとは思えない」

 傭兵コモドが言った。

「真紅の屍術師が動いたんだろうな。彼らの町の方はどうなっているのか、見に行く必要がある」

 一同は頷いた。

「馬がいないのが残念だ」

 フラマンタスは続けてそう言い、一同は深夜に移動の準備に取り掛かった。

 マリアンヌ姫の用意が遅く気掛かりになったフラマンタスはノックを忘れてゆっくり扉を引き、彼女が革の鎧に着替えているところを確認した。彼は音を立てずに扉を閉めた。

「どうしました?」

 コモドの隣で準備万端のダニエルが尋ねる。

「もう少しかかるだろう」

 フラマンタスは静かにそう言った。

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