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君は意外と  作者: CK
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俺は意外と…

只今引っ越す予定の部屋の最寄駅周辺を散策中。

うまい個人経営の弁当屋とか、安い昔ながらの食堂とかないかな〜とキョロキョロしながら。


歩きながらながら今まで関わってきた女の子たちとのことなんかを漠然と思い出してる。

その子たちの顔を思い浮かべては、口の中が甘くなったり苦くなったりするのを感じつつ。


ふっ、お弁当屋の女の子の幸せは祈れても未だコンちゃんの幸せが祈れない心の狭い俺。


杉野さんと早く別れないかなと思ったり、たとえ別れたとしてもコンちゃんのマネキンみたいな足はもう人間の足になってしまってるだろうから俺の好きだったコンちゃんとは別物になってしまってるだろう、そんなコンちゃんは俺にとっては無用の長物だから、やっぱ別れても別れなくてもどうでもいいやと思ったり。


…うん、でも俺のいない人生でコンちゃんに幸せになって欲しくはないな。


かは。

小さい。

小さいなぁ、俺。


線路沿いの狭い道で立ち止まり空を見上げそんなことを自覚する。

でもやっぱりコンちゃんの幸せは祈れない。

幸せ祈っちゃったら…

それは本当のコンちゃんとの別れになる。




傷ついたり、学習したり、ちょっぴりの成長を果たした俺の手を引いて季節は静かに移ってゆく。






ほんと、月日が経つのは早いね?

気がつけば埼玉に引っ越してきてから早半年が過ぎようとしている。


駅から近いアパートを俺は選んだ。

すごくボロくて狭い。

だから駅近だけど家賃も安い。風呂とトイレは別れてないし、一間の部屋にはベランダも無い。

よくバブル期の地上げの手をかいくぐって現在に残ってたなーと感心する。


母親のマンションで暮らしていたときの家具は一つもこの部屋に持ち込まなかった。

ってか持込めなかった。

六畳一間ですからねえ。


ここではベットも置かず布団で寝起きしている。

せっかくレトロなアパートに暮らしているんだからと、壁には色あせた昭和の時代の映画のポスターを貼り、雰囲気を出している。


この部屋を初めて見たとき母親は絶句した。

そしてその後「佐太郎…貧乏ごっこ楽しい?」と皮肉めいたことを言ったっけ。


いや、ごっこじゃなくて本物の貧乏人だから俺。

前はデパートでブランド服買っていたけど、それもやめ、今は量販店でうーんと吟味して高そうにみえる服を買ってる。

その差額は貯金。


仕事の量的にはこっちに来てから少し増えたし、質も変わった。

その変化はここの近所の人たちとの人間関係によってもたらされたものだ。




アパートの大家さんの孫の中学生が職業体験でイラストレーターの仕事の流れとか教わりに来たので、一応仕事受注してから納品するまでの流れを説明して、中学生と大家さんに簡単にイラストのコツとかを指導して絵を描かせたら、描いた絵がクラスで好評で大家さんの孫の友達も何人か後から来た。それが縁で地域の中学校のPTAの生涯学習講座の講師に呼ばれたりもした。


その実績を携え近所のカルチャー教室に売り込みに行ってでイラスト講座の講師の仕事をゲット。

生徒はおばちゃんばかりだけど、意外に楽しい。


「先生なんか鉛筆持つ手がいやらしい〜」とか言ってきゃあきゃあされてる。

まあ、おばちゃんにモテてもねえ?と思うかもしれないけど、このモテが仕事を増やした。


生徒さん(おばちゃん)の夫が営む印刷会社から仕事をもらったり、地元商店街のお祭りのポスター制作させてもらったりと、わらしべ長者的に仕事の量が増えてきている。

でもなぜか収入は増えない。


…いいけど。

家賃とたまに服を買う金あればいいし。

飯はもともと粗食で平気だし、大家さんや、三軒先のスナックのママさんがなんか俺を気に入ってよく料理持ってきてくれるし。


…まあ人の世話になってるっちゃあなってるけど、俺の魅力が何かを引き寄せてるわけだから、実力で手に入れてると言えなくもない。

親がかりで暮らしていた頃よりずっとさっぱりして気持ちがいい。


実は既に琴線に触れるかわい子ちゃんをこの街でも何人か発見済み。

その中の誰かと恋仲になって幸せに暮らしていく可能性もなくはないよね?


…もしかしたら未練たらしくコンちゃんが社長と別れることを願って惨めに日々を過ごすのかもしれないけど。

でもそれは自分のいろんな気持ちに向き合わず逃げていた日々よりよっぽど気持ちがいいに違いない。


…なんか意外。のらりくらりと自分では幸せに暮らしてきたつもりだったけど俺はずーっと何かに逃げグセを責められていたんだよな?多分責めていたのは自分自身…

そして今はそれから開放さたんだよな?




ふと外を見れば、さっきまで降っていた雨がいつの間にか止んでいる。


よし、駅前商店街の和菓子屋に頼まれてる新商品のパッケージデザインの提案に行ってこよう。


ん?気難しい店主のもとに向かうのはちょっぴり憂鬱なはずなのに、なぜか気持ちが弾んでるじゃないか。

あの店の看板娘の出戻りシングルマザーがちょっぴり彼女に似ているからかな?


はは、女の涙に弱い。と言うよりは女に弱い。

これは一生変らないだろうな、どんな経験を経てもどんな状況になっても。


でもまあ、これからもそんな自分を慈しみながら、ぼちぼち生きていきますよ、俺は。この街で。

















『君は意外と』おわり


お読みいただきありがとうございました

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