蛇の神様
なにも知らなかった蛇が
鎌首を持ち上げ
キョロキョロと羽を捜す
遠く夕陽の沈むあの街から来る
さすらう異邦人の数を
かぞえることは
もうやめよう
なにも知らなかった蛇が
鎌首を持ち上げ
キョロキョロと羽を捜す
この部屋にはなくてはならない
あの人のシャイな照れた微笑みがない
それはもう
永遠に続く欠けたピース
額縁に入り直すことはない真実の悲しみ
世界のどこでどうしようもない
絶望に押し殺されそうになっても
蛇だから
それをすり抜け
鎌首を持ち上げ
キョロキョロと羽を捜す
その
耐えられない喪失感の冷たさを
心臓の孤独として感じ
その鼓動に合わせた蛇の動きで
少なくとも前を向きながら
不器用にだが
蛇行して行きたいと願う
羽は
天使の落し物だと
思うのか
蛇は天使を
憧れのまなこで見上げている今も
ただ羽が欲しくて祈っているという
祈る神様は
蛇神様なのだろうか
そんな祈りを悲しいと思うから
どこにもいない正しい人間を妄想し
とても長い人生を諦めつづけながら
生きていくしかない日々の連続だと捉え
その悲劇を無視する異邦人とのからみあいを
せめて成し遂げたいと思うと言うと
少し不遜に思われるかもしれないけれど
ほんとうにそう思うんだから
仕方がないだろう
ねぇ、蛇の神様?




