ポスターにサイン
この学校の掲示板は下駄箱近くの正面玄関前にあり、結構な大きさであるがポスターの一枚も残ってない、そして当然お札なんてあるはずもなかった。
「何にも張られていないわね」
「画鋲が少し残っている程度か」
「ポスター本当に貼るんですか?」
「雰囲気作りと思えばいいだろう、数枚つくって校舎の中に掲示すればいいだろう」
「無駄な労力よね」
まぁ企画じたい無駄な企画といえなくもないので、今更な感じはするのだがそういいつつアミさんはポスターに使う画用紙や絵の具や色鉛筆などを実に楽しそうに選んでいた。
「じゃあ作りに行きますか」
「せっかくだから美術室を使おう」
「そうですね」
「鍵もってきている?」
「もってきている」
「アミさん楽しそうですね、美術好きなんですか?」
「絵描くのは結構好きよ」
へぇ意外ですねと言おうとしたが、考えてみたら小さい子供は落書きとかそういうの好きだから意外でもなんでもなく、そう見えるのは至極当然の事だろう。
「魔方陣から出てくる練習とかしていたから、そういったのが好きだろうとは思っていた」
「関係ないし」
「そうなのか」
「あぁもう、とっと描きにいくわよ」
美術室の鍵をあける、とりあえず廃校寸前とはいえ残っているものもある、処分前なのかそれとも処分する事を忘れられているのかは分からないが、デッサンとかでつかうのだろうか白い石像やマネキンがあったり、人形とよんでいいのか正式名称はわからないが間接が動くものだったりが棚に置かれている。
「じゃあそれぞれ描いていこうノルマは一人あたり3枚あればいいか」
「まぁそんな所ですかね、私らの活動範囲に貼っておけばそれなりの雰囲気はでるでしょうし」
さて、ポスターを書こうとして手が止まる、デザインってどんなものにすればいいのだろうか?
とりあえずラジオ名は入れておかないといけないはずだと思うが、意外に字のバランスが難しく途中はみ出しそうになり、書き直したりする。
「意外と難しいですね」
「そうだな」
ナナさんはそういいながらも、もう色塗りにはいっているようで、色は天使らしくといえばいいのか明るい色が多く使われている。
「何かイラスト描かないんですか」
できれば、そのイラストを参考にデザインを決めようという考えもあるが、文字だけでは寂しい気もしたのでそう聞いてみると、ナナさんはそれもそうかという顔をして右下に天使の羽根と天使の輪を小さくかいた。
「それサインですよね」
「そうだが」
「いや、宣伝ポスターにサインを入れてどうするんですか」
「私たちがやっているから、入れてもおかしくはないだろう」
「そりゃまぁそうですけど」
「そういえばヒナはサインあるのか?」
アイドルになるにあたって、サインの練習とかをしようと思ったことはあるがアイドルとしての仕事がない以上そんなのに時間を割くぐらいなら別の練習をしようと今までやってこなかった。
「まだ決めてませんね」
「そうなのか、じゃあ決まったらこの横に頼む」
ナナさんは少しの空白部分を指を差した、どうやら三人全員のサインをいれるつもりらしく、このポスターづくりの時間にサインを決めないといけなくなった。
「そういえばアミさんはサインあるんですか?」
先程からじつに楽しそうにお絵かきをしているアミさんはこちらの会話に加わる事なく描いていた。
「あるわよ、ハートに悪魔の尻尾をつけてハートのなかに私の名前をかくわよ」
「なるほど」
天使や悪魔の皆さんは特徴をつかってそれをサインに生かしているらしい、人間の私としてはそんな特徴というものがないので実に羨ましいかぎりである。
そんな悪魔のアミさんが描くポスターはどんな禍々しい色が使われているのだろうと、描いているのを見ているとこっちの予想とは逆に明るく花や太陽が可愛らしく描かれていた。
「悪魔らしさがゼロなんですけど」
「宣伝ポスターで悪魔要素いらないでしょ」
「そりゃあそうですけど」
「それよりヒナは描けたの?」
「いえ、まだです」
「早くしないと、描いて貼り付けたら片づけしたらまたラジオなんだから」
「はいはい」
公にアイドルらしいことはまだ何一つしていないながらもアイドルの仕事ともいえるこのラジオ企画をしている今ならサインの練習も少しはしてもいいのかもしれない。
まぁ今のところ使う予定は、私たち意外だれが見るのかわからないポスターの一部に使われるぐらいではあるけどと苦笑しながら宣伝ポスターを描きながらそう思った。




