置き忘れ(ジャンル:エッセイ)
あ、財布忘れた。 車に乗り込んでから気づく。
ちょっとコンビニまで行くだけ。とはいえ財布がなければお金がない。
やれやれ、とまるで誰かのせいにするように僕は家へと歩き出す。
時々やってしまう、置き忘れ。
果たして僕は、置き忘れたものをどれくらい取りに行っただろう。
もう思い出せないくらい些細なこともあるはず。 忘れようと思って、時の流れに任せたものもある。 取りに行けば良かったと思えるものも必ずあるはずなんだろう。
それでも、その時は。 面倒だと思ったりしたんだろう。 時には勇気が出ないこともあったんだろう。 残念なことに、その時の自分の気持ちさえ、僕は置き忘れてしまっている。
身勝手で、自分勝手な都合で。 僕は僕の一部だったものを無情にも切り離したんだろう。 そして切り離した一部を他の何かで埋め合わせて、こうして生きているんだろう。
僕の後ろにある道には、僕の欠片があちらこちらに散らばってるんだろう。 それを拾いに行こうとしても、時計は左回りにはならなくて。
見えるのに手が届かない。 なんとも歯がゆいね。 それを拾っていたら、もっと別の何かが見えたかもしれない。 毎日幸せと言うものを感じれたかもしれない。なんて。 忘れたのは自分なのに後悔するなんて、おかしいよね。
でももしかして。 僕が後悔してるのは、置き忘れた彼らなりのお返しかもね。
忘れてんじゃねぇよって、言ってるのかも。
ふふ。 忘れたけど、忘れてないよ。
そう言うものが確かにあった。 形も輝きもよく思い出せないけれど。
確かにあったんだと、言えるから。




